第十四話 決 意 (けつい)
昨日一昨日、水替えと風廻しという二つの持ち場で失態を犯した結果、共に働く坑夫たちに多大な迷惑を掛けてしまった。
決して割り当てられた仕事に対して手を抜こうとしていたわけでも、おろそかにしようと考えていたわけでもない。
だが置かれた状況に対する不安と戸惑いが、集中力と動作を鈍らせていたのは紛れもない事実だ。
働き続けること失われてしまった自らのかけらを見つけ出すことができるかもしれない、拾ってくれたアシュヴァルに対する恩返しができるかもしれない。
そんな思いの下に鉱山に足を踏み入れた少年だったが、そんな事情はそこで働く人々にとって一切あずかり知らぬ話だ。
皆それぞれの目的のため、与えられた仕事を全うしようとしている。
軽い思い付きや、甘い考えで立ち入っていい場所ではないのだ。
「これからもここで働きたいんだ」
翌日も鉱山へ出向き、イニワに対して改めて己の意志を伝える。
許しを得ては、少年はその日から一切の弱音を吐かず、泣き言を漏らすこともなく働き続けた。
まずは他の坑夫たちに比べ、自らの上げる成果が著しく低いことを自覚するところから始める。
早起きをして誰よりも先に仕事場に赴き、休憩を早めに切り上げて作業を進めることで不足分を補う。
休日には持ち帰った十字鍬を振るう練習をする姿を、アシュヴァルはあきれたように眺めていた。
心の内と向き合ってみれば、確かに自分で思う以上の頑固者なのかもしれない。
空っぽの中身を無理やり埋めるため、身体に鞭打っていた部分もある。
だがそれ以上に一歩ずつ前へ進む感覚に、達成感を覚えていたのもまた事実だ。
できなかったことができるようになる。
知らなかったことを知る。
そんな真新しさが、日々の過酷な労働へと少年を駆り立てていた。
人手が足りないから回ってくれないかとの打診を受け、いつか以来の水替えの仕事に出向く。
あるいはその時がくるかもと、泳ぎと息止めの練習は毎日の水浴びの際に欠かさず行っていた。
もちろんウジャラックら鱗人のようにとはいかなかったが、それでも以前のような大きな失態を演じることなく水替えの仕事を全うする。
同じように人員の不足から、風廻しの仕事を割り振られたこともあった。
まず最初に嘴人のベシュクノに対して自身の無知を謝罪し、その後は失った信頼を取り戻すべく懸命に風箱を回し続けた。
山留めと呼ばれる職人たちの作業を手伝ったこともあった。
坑道を掘り進めていくに従ってもろく崩れやすくなる岩肌を支えるため、木枠を組む仕事だ。
山留めは坑夫たちの身の安全を守る仕事であり、風廻しも水替えも彼ら同様に鉱山に欠かせない仕事なのだと身に染みて理解する。
それを知った今、たとえ一瞬とはいえ風箱を回す手を緩めた自身の愚挙を恥じる。
金を掘るといえば簡単だが、鉱山にはそれを成し遂げるために様々な職種が存在している。
ただ掘るだけでは意味がない。
岩は岩のままで、その内に輝きを秘めたままだ。
掘り出した岩を運搬し、粉砕し、選別し、製錬し、ようやく金を取り出すことができるのだと知る。
岩肌に向かって十字鍬を振り下ろせば、岩を砕く確かな手応えを感じる。
そのひと振りひと振りが、自身から不純物を削ぎ落してくれるような気がする。
掘り出された鉱石を背負い、籠に放り込んでは鉱車へと運ぶ。
この金を宿した岩のかけらのように、己の身の内にも自らの知らない何かが埋もれているのだろうか。
時折そんな空想に思いを巡らせながら、少年は日々抗夫として働き続けた。