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play("prologue/鴉、ビルの上");

 夕立に濡れた街の上を、鴉が一羽飛んでいく。

 夜闇が架かった空の下、街はお硬い文字列も低俗な絵もすべてネオンで浮き上がらせていて、夜目の効かない鳥でも飛ぶのには十分なだけの光量を宿していた。

 鴉は光の川の上を滑空した後、地上四十階の高層ビルに辿り着く。室外機が回る屋上、その低音が支配する縁に、危うくも一人、黒ずくめの少女が腰掛けていた。歳は十七くらい。細めの白い身体に細い肩ベルトの黒革のビスチェを身に着け、同素材のショートパンツの上にはふわりと広がる膝丈のチュールスカート。膝下を覆う革のブーツは宙に投げ出され、魔女の三角帽子の下では、栗色の髪がビル風に靡いている。

 少女がす、と手を出すと、馴れているのか鴉は革手袋の手に下り立った。カァ、と一鳴き。少女の朱唇がわずかに弧を描く。


「そっか。行けるんだね?」


 肯定するように鴉が鳴く。

 少女は縁の上に立ち上がると、(おとがい)を上げた。三日月が沈む先に、この街一番の高い建物が聳え立つ。地上三十五階から北と南の二つの塔に分かれたアカシャ・タワー。彼女はその高みを強い意志の宿る赤い瞳で睨めつけた。


「それじゃ行こっか。真実を掴みに」


 鴉を放した彼女は、両腕を大きく広げ――なにもない宙空へと身を踊らせた。

 虚空を切り裂きながら、頭から落ちていく。ネオンの光に沈まんと、彼女の身体が沈んでいく。その途中、彼女の身体は、ネオンとは違う青白色の光に包まれて――

 光が消え去った頃には、少女の代わりに一羽の大鴉がそこに居て、もう一羽の鴉とともにビルの合間を駆けていった。

 目指すは、アカシャの行政施設アカシャ・タワー。その内部。

 大鴉となった魔女は、羽ばたきながらこれまでのことを思い出した。

 まだそう遠くない過去――そう、それは一年ほど前からはじまる話だ。

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