第七話「綺麗な花はトゲすらも美しい」その2
「プレゼントくらいしなさい。女はいつでもプレゼント貰うと嬉しいもんなんだから」
昨日の内空閑さんの言葉を思い出す。
「プレゼントか」
そう漏らしながら街を歩く。
こうやって見ると、洋服屋やアクセサリーのお店、化粧品のお店など実に女性向けのお店が多いことに気づく。
ネットでなんでも買える時代と言われているけど、やはりお店で買うことが楽しいって人も多いと思う。
実際俺も、ネットで買うよりお店で買う方がどこか安心する。
「プレゼントねぇ」
またそう漏らす。
ろくに女性との恋愛経験もない身からしたら、こういう街の女性向けのショップに一人で入るというだけで恐怖というか地獄だ。
なんならブラックカンパニーの秘密基地の方がよっぽど居心地がいいだろう。
それに胡桃さんがどういうものが好きかとかどういうものを今欲しがっているかもまったくわからない。
そんな状態でプレゼントと言われてもどうしようもない。
「こんなことなら、内空閑さんに少しは聞いておくべきだった」
しかしあの日の内空閑さんは結構酔っていた。
もしかしたら何でも話してくれそうではあったが、適当に話をされる可能性もあった。
「プレゼントを買うのはもう少し仲良くなってからでもいいかな」
そんな日和発言をしながら、足を自宅へと向けようとしたところで1人の女性と目が合った。
表通りから一本入ったところ。
裏路地というほどでもないがそんな道の建物のそばで、彼女は地面にビールケースのようなプラスチックの箱を裏返し、そこに腰掛けながら缶コーヒーを飲んでいる。
コーヒー缶の色は黒だ。
緑色のエプロンをした彼女は、長い髪の毛をかきあげながらこちらを睨む。
「なんだテメェ。何見てんだ」
「いえ、何も、、、」
やべぇ奴だ。
瞬時にそう感じて、すぐに視線をそらす。
そのまま通り過ぎ、ふと目をやるとそこが花屋だということに気づき、一瞬足が止まった。
「なんだ兄ちゃん。花に興味あんのかよ。じゃあ先に言えよ」
その女性は突然俺の肩に腕を回してくる。
「あっ、いや、、、」
「なんだよ、違うのか? 男ならはっきりしろよ」
「いや、その、はい」
脇腹をドスドスとつつかれて、思わずそう言ってしまう。
「そうかそうか。いいよなぁ花はよぉ」
肩に腕を回されたまま店内に連れ込まれる。
もう逃げられる気がしない。
俺とあまり変わらない身長のその女性は、それだけで圧がある。
店内に入るとその女性は、手に持った缶を机に置くと腕にしていたゴムを口にくわえ長い髪の毛を束ねてゴムで縛る。
「花ってさ。女に例えられること多いじゃん。でもさ、その通りだと思うんだよね。花も生きてるからさ、調子の良い時も悪い時もあるけどさ、どっちにも良さがあってさどっちも愛おしく思えるんだよね。でも売れるのは綺麗な花なんだけどね」
「それって女性に限らず、男性もそうじゃないですか?」
「!、、、そうかもな。お前、いいこと言うな。気に入ったよ。サービスしてやる」
「あっ、ありがとうございます」
「まぁ華のある男っているからな。で、なんで花が欲しいんだ? 何用?」
別に花が欲しいとも言ってないし、無理やり連れ込んだのはアナタなのだがそんなことを言う勇気はなかった。
「実は気になってる女性がいて、、、」
「そうかそうか。プレゼントか。プロポーズか。いいねそういうの。女はいつでも花を貰うってのは嬉しいもんだからな」
どっかの誰かと同じようなことを言っている。
そしてなぜプロポーズになるのか。この女性は話がどんどんと作られて進められていく恐怖がある。
「いいぜ。どうせ花のことわからんだろ。適当に見繕ってやるよ」
そう言うと、いろんな種類の花を適当に取っていき手馴れた手つきで端を切って束ねていく。
素人目に見てまとまりのないその花たちは、まとめられるとひとつの綺麗な花のようにまとまって見える。
何を言っているかわからないかもしれないが察してくれ。
「ほらよ」
ぶっきらぼうに差し出された花束を受け取り代金を支払う。
「花と女は同じだ。常に気にかけて、手間かけてやんねぇとすぐにダメになる。気をつけろよ」
「ありがとうございます」
笑顔で見送ってくれる彼女に俺は深々と頭を下げると店を後にした。




