第二話「怪人ウーダッツ誕生?」その6
意識が朦朧とする。
身体が熱い。
自我が保てない。
暴力衝動で身体中が満たされていく。
あれ? 俺ってこんなに身長、高かったっけ?
なんとなく視界が高く少し見晴らしが良い気がする。
しかし朦朧としていて視界がボヤけているのでよくわからない。
向かいから来た人が俺を見て、悲鳴を上げて逃げていく。
どういうこと?
一体何が?
自分の手を見る。そして足を見る。
これは見たことがある。
ウーダッツだ。
また、怪人ウーダッツの姿になってしまったのか。
視界が進んでいく。
身体が勝手に歩き出す。
通りに出ると皆、俺の姿を見てクモの子を散らすように逃げていく。
クルマが俺に追突する。
少し衝撃はあるものの痛みはない。
運転席にいた男は、慌ててクルマから降りようとするが驚きでなかなかシートベルトをはずせないようだ。
身体が運転席の方へと向かうと無理やりドアを外す。
男はビビってまったく動けていない。
もはや逃げることすらしない。
やめろ!
俺はココロの中で叫ぶが、身体がいうことを聞かない。
俺の腕が伸び男の頭を鷲掴みにする。
やめろ!
やめてくれ!
俺を人殺しにするのか!
腕に力が入っていくのがわかる。
ダメだ!
誰か助けてくれ!
「ヤメろ!」
その声と共に横っ腹に強い衝撃を受ける。
さっきクルマに追突された時とは比べ物にならない程の威力だ。
手は男の頭から離れ、身体が少しよろめき何とか倒れないように足で踏ん張る。
衝撃のあった方を見ると、そこには赤い全身スーツの男が立っていた。
その奥にはピンクの全身スーツの女? も立っている。
「現れたなブラックカンパニー、お前たちの好きにはさせないぞ」
赤い男の後ろでピンクの女がクルマの男性を助け逃がしているのが見えた。
「決して消えない正義の炎を抱き、悪の野望を打ち砕く。レッドナックル」
「はっ量れぬほどの大きな愛が、悪しき企みも踏み潰す。ピンクスタンプ」
「「バトル戦士エターナルファイブ、参上」」
2つのスーツ姿がポーズを決めている。
これがニュースで見たエターナルファイブ。
来てくれたんだ。
ちょっとした安心感を覚える。
あれ? この感覚どこかで、、、
「ウオォォォォォォ!」
咆哮が上がる。
さっきこの姿でブラックカンパニーの基地にいた時には普通に喋れていたのに、まったく思うように言葉が出ない。
完全に何かに心を乗っ取られている。
「いくぞ!」
レッドナックルの連続攻撃を受ける。
パンチ、キックと繰り出される無数の攻撃に全身が痛みを感じる。
さらにピンクスタンプも駆け寄ると華麗に攻撃を繰り出す。
ウーダッツは叫ぶと、全身から黒い霧のようなものが瞬間的に溢れ出し二人を吹き飛ばす。
さらに腕をレッドナックルとピンクスタンプの方へと向けるとその黒い霧が伸びていき二人を捕らえる。
黒い霧は腕のように二人を握り締めると宙へと持ち上げ更に締め付けていく。
「くっ、苦しい!」
「うっ、身体が、、、」
二人は苦しそうに霧の中でもがいている。
エターナルファイブでもウーダッツを止められないのか。
やめてくれ、俺の身体!
そう願うもどんどんと黒い霧は濃さを増し二人を締め付けていく。
「そこまでよ!」
今度は背中から強い衝撃を受ける。
身体は前へと吹き飛び倒れこむ。
それと同時に黒い霧は消えレッドナックルとピンクスタンプは地面へと落ちる。
「大丈夫? レッドナックル、ピンクスタンプ」
二人に駆け寄る三人の全身スーツの女が現れる。
三人から同時に攻撃を受けたのか。そりゃ倒れるわけだ、と少し納得する。
「来てくれたのか、ブルーソバット、イエローグラップ、グリーンブレイク」
「ありがとう、三人とも」
「遅くなってごめん」
「二人とも大丈夫?」
「何なのアイツ。新キャラ?」
「わからない。しかし市民を襲っていたのは事実だ」
「ということは敵ね」
「いっちょやってやりますか」
何か五人でごちゃごちゃやっているが、これでエターナルファイブが揃ったということなのだろうか。
「じゃあ私から」
そう言うとブルーソバットがこちらとの距離を一気に詰める。
ウーダッツはそれに合わせて拳を突き出すがそれをクルッと身をひるがえしかわす。
「アイスニードル!」
ブルーソバットの鋭い蹴りが身体の中心を貫く。
背中まで突き抜けるその痛みにうずくまると後ろから抱きしめられる。
「まだまだこれから! サンシャインスープレックス!」
イエローグラップは後ろからウーダッツを抱えると、持ち上げられそのまま後ろ向きに後頭部から地面へと叩きつけられる。
そのまま仰向けに倒れていると腕を掴まれ起き上がらされる。
「何寝てるんだ? もう一発だ。ブレイクダウン!」
グリーンブレイクの上腕がウーダッツの首元を捉え打ち付けられる。
その勢いで背面から地面に叩きつけられ、その反動で浮き上がり反転してうつ伏せに倒れる。
するとそこへこちらへと駆け寄る足音が聞こえる、と思うとそれが飛び上がる。
「ビッグハートスタンプ!」
ピンクスタンプは高らかに飛び上がると俺の背中を踏みつけた。衝撃が全身を走り地面に亀裂が走る。
彼女の体重以上の何かを受け止めたような気がした。
だがその時、他の三人とは違う何かを感じる。
何かはわからないが、その時、視界を覆っていたモヤのようなものが少し晴れたような気がした。
こっこれはいったい、、、
ウーダッツは、俺は、何とかその場に立ち上がる。
そして前を見るとそこにはレッドナックルが立っていた。
「これで終わりだ。ジャスティスファイアーナックル!」
その拳が全身を貫く。
大きさにして十数センチの拳に殴られただけなのに、全身を大きなハンマーで殴られたような感覚になる。
ウーダッツの体は吹き飛び、ボールのように跳ねるとビルの壁にぶつかり止まった。
「ちょっとレッド、やりすぎよ。建物が壊れたらまた怒られるわよ」
「イエローだってアイツを地面に叩きつけた時に、地面が陥没してたじゃないか」
「うっ、それは、、、」
そんなやり取りが聞こえた気がしたが、衝撃と痛みでよくわからない。
だが何だか全身から湯気が上がり、縮み始めている気がする。
卯立に戻りはじめているのか?
全身に力が入らない。
ウーダッツの体はビルの壁から離れ、そのまま前に倒れそうになる。
そこで誰かに体を支えられる。
「見せてもらったぞウーダッツ。まさかブラックエキス無しでここまでやれるとは。これはロージュの奴も驚くだろう」
「貴様は、ザーベーイ!」
「ザーベーイ、、、さん」
レッドナックルの声に反応する。
ウーダッツの体を支えていたのは、どこからあらわれたのかザーベーイだった。
「エターナルファイブ、今日のところはこのくらいにしておいてやる。行くぞウーダッツ」
そう言うとザーベーイは、卯立に戻りつつあるウーダッツの体を担いで暗闇の扉の中へと消えていった。




