96 入団試験①
「お、おい……い、今の何だ?」
「な、何って……そりゃあの子がクリスタルに触っただけ……だよな?」
「お、俺に聞くなよ。……なんかすごい風がぶわーって吹いて……」
受験者たちは再び騒然となった。
あのサイオン様も困惑の表情でクリスタルの残骸を睨みつけるだけだった。
三白眼の青年は私の元までやってきてローブに掴みかかった。
「やいてめぇ! さては結果が気にくわねぇからってクリスタルをぶっ壊したな!」
「そ、そんなことしてませんし出来るわけないじゃないですか!」
「っは。とぼけんじゃねぇよ! 大方変な魔法でも使って一度目は光と風を起こしたように見せかけて結果を誤魔化したんだろ。そんでもって正しく数字が浮かび上がらなかったもんだから粉々に砕きやがったんだ」
彼の推察は何もかも正しくないデタラメもいいところだった。
だが現実にあり得る結果を出した彼と、あり得ない結果を出した私では信頼度が違っていた。
どうすればよいか困り果てていた私の前に、サイオン様がやって来た。
「黙りなさい! 彼女の言うようにクリスタルは決して外部の攻撃で破壊できる代物ではありません。それに崩壊する一瞬でしたが、数字は間違いなく『1』を刻んでおりました。未だかつてない現象ではありますが、彼女は紛れもない通過者であるということです。……さて志願者の皆さん。クリスタルの件についてはご安心を。たった今新しいものを用意させていただきますので、このまま試験は続行と致します」
そう言って彼が両手をかざすと、先程砂となって消え失せたはずのクリスタルがそっくりそのまま出現した。
しかし私が木っ端微塵にしたクリスタルの残骸はそのままだったため、どうやら本当に新しいものを呼び出したようである。
クリスタル消滅なんて前代未聞の事態であるはずなのに、そんな一大事にも即座に対応できるなんて流石だ。
壊してしまった事について謝罪をしたが、彼はもういいから下がっていなさいとだけ言い放った。
態度から察するに怒っているわけではないみたいだ。
むしろ驚きと喜びに満ち溢れているような。
期待と緊張――そんな言葉が似合う言動だった。
その後も順調に試験は続いていき、最後に勇者スラッシュくんがクリスタルに触れた。
クリスタルは黄金色の光を放ち、はっきりと大きな「7」の文字を浮かび上がらせた。
「お、おお……! 2番のあいつも桁違いだったが……7番もとんでもねえ魔力をもってるみたいだな……」
「な、なんだあの魔法……も、もしや光魔法じゃあるめぇよな?」
「まさか! 光魔法は千年以上前に消えたって話だぜ」
新たに会場をざわつかせた勇者が気に入らないのか、三白眼の青年は彼を見て舌打ちをしていた。
「ほぅ……キミは光魔法に選ばれし者か」
サイオン様がスラッシュくんを興味深けにじろじろと眺めた。
「全く。今期の志願兵は波乱の曲者揃いだ。今からが楽しみで仕方ないよ」
そうして彼は第一のふるいを終了した。
残ったメンバーは最初期に比べると大分減らされて16人だけになってしまったが、大方予想通りのメンツが集結していた。
新世代の魔法使い5人、私たち3人、それからラフィーゼさん。
残る7人は目立たないが、全員確かな実力を備えていそうな風貌をしていた。
「よし。それでは第一の関門を乗り越えし選ばれた志願兵諸君よ。これから更なるふるいわけとして、一対一での魔法決闘を行ってもらう!」
「魔法決闘だぁ?」
「まず最初にルールを説明する。これより諸君らにはこの部屋で戦ってもらう。使用できるのは魔法のみ。素手で殴りつけたり、武器を使用して攻撃する事はできない。確認次第即失格とする。勝敗は互いの意識がなくなるまでとする。組み合わせは私が無作為で抽出した受験番号の者同士で行われる。勝ち抜き性のトーナメント方式で上位4名を今期の合格者とする!」
「す、すごい……」
「へっいつでもかかってこいや……」
そうしてサイオン様がクリスタルの光で抽選らしきものを始め、空中に半透明な掲示板が出現した。
第一試合
1番 - 4番
ミランダ・クロスフィールド VS デナント・キール
第二試合
2番 - 9番
アルバート・ラグルー VS ポーマン
第三試合
7番 - 11番
スラッシュ・バレン VS ジンジャー
第四試合
16番 - 5番
ラフィーゼ VS ミアソフ
第五試合
3番 - 13番
レイブン・ジオフリード VS イレイン・トーチアス
第六試合
6番 - 10番
カインズ・ヴァン VS ウォルツ
第七試合
12番 - 8番
グレゴリ・ストールド VS ローザ・アインハーツ
第八試合
15番 - 14番
グラフスクール VS オルド・トルス
ここで勝ち上がった8名が更に競い合い上位4名を決定する。
その時点で決着とし、栄誉ある魔法王国の兵士となることを許される。
顔ぶれを見るにどれも強そうな輩ばかりだ。
「げへへ。お前の相手は俺だぜ姉ちゃん」
第一試合。私と戦う事になったのはあの三白眼の青年ことアルバートに付き従っていた者の1人、4番デナントだった。
スキンヘッドの頭に黒い鳥の刺青を入れていた。
「災難だったな。いきなり俺と当たっちまうなんて。ま、今期は運が悪かったと思って諦めるんだな、ぶははは!」
両者位置について互いを見つめ合った。
「では第一試合を開始する!」
「死ね! 『氷魔法』‼︎」
開始早々デナントは氷魔法の刃を向けてきた。
しかも彼の氷魔法は通常のものと違い、氷の破片が複数旋回しながら飛んでくるという彼独自のスタイルによるものだった。
しかし――よりにもよって氷魔法とは。
私は全てを立って受け止めてみた。
氷の刃は私を貫くどころか癒しを与えてくれた。
「ば、ばかな! こんなことあるはずねぇ!」
無傷の私が信じられなかったのか、今度は炎魔法を見せてくれた。
しかしそれも効かん。効かんとも!
燃え盛る灼熱の中にいて、平然とした表情の私を見て彼はすっかり戦意が喪失してしまっていた。
「もう終わりですか? じゃあ今度はこっちからいかせてもらいますね」
とりあえず私は「火魔法」を放ってみた。
その瞬間周囲には熱風が吹き荒れ、巨大な火球がデナントさんに降り注いで焼き尽くした。
「ぼぎゃぁああああああっ!」
彼の肉体は黒焦げの炭状態になり、その場に倒れ込んだ。
「そこまで! ミランダの勝利とする!」
「ご、ごめんなさい大丈夫ですか?」
即座にサイオン様の回復魔法が発動され、黒焦げになったデナントさんは無事復活した。
ほっとしたのも束の間、彼は黒い大穴の魔法陣に姿を消していった。
失格したらああなってしまうのか。
とにもかくにも私はなんとか第一試合を勝ち抜くことができた。
あと1勝だ。気を抜かずにやっていこう。




