94 私、潜入します!!
「おはようございます」
「おうおはよう」
連日のスロット疲れや諸々で私はすっかり眠りこけてしまっていたようだ。
マックスさんやみんなは既にお目目ぱっちりで起きていた。
朝食は私が起きてくるのを待っていたようで申し訳なかった。
早速寝巻きから普段着に着替えて食卓についた。
ベーコンにレタスを巻きつけたパンを食べながら、昨日思いついた提案をしてみることにした。
「兵士に志願するって?」
「はい。そうすれば敵だとみなされなくなるんじゃないでしょうか。今はどこも戦力不足で魔法の使える人間は重宝されると思うんですよ」
「そうだねマックスさん以外は」
レイブンさんが意地悪そうに微笑む。
「ぜ、全員で乗り込むよりは何名かに残ってもらったほうがよいのではないでしょうか。ほ、ほらもし何かあった時のためにも」
「そうだな……。一旦兵士として潜入して、マックスたちにはいざという時まで待機しておいてもらう方が安全だな」
「待つのはいいが、どうやって知らせる気だ?」
「お城のあそこです」
私が窓辺から指差した。
お城には2つの見張りの塔があり、兵士が度々交代して立っていた。
「あそこから合図を送るので、とりあえず何かある時はこれで。入ってから2日間合図らしい合図が無ければ何かあったと思ってください」
「大丈夫か? ちゃんと出られるんだろうな」
外回りの役目や見張りを志願すればいけるはずだ。
内勤になっても外に出る機会はいくらかある。
身動きの取れない状態になったら突撃してもらう。
「ジーカ、留守番ですか?」
「そうですね……でもジーカちゃんは切り札です。何かあった時は脇目もふらずに魔法使いたちをなぎ倒していっちゃってください」
龍人特有の固い耐性に、力もあって動きも機敏だ。
マックスさんと組めば大抵の敵は何とかなるだろう。
私がそういうと、ジーカちゃんはこくりと頷いてくれた。
「楽しみです。2日出て来なけりゃ突撃です」
「……マジで平和的に頼むぜお前ら。やべーことに首突っ込みたくはねぇからな」
「それは……今更でしょ。ねぇ?」
レイブンさんはスラッシュくんの方を見た。
勇者の立場もあって、これまで散々そういう面倒事には首突っ込んできたのだ。
マックスさんは「仕方ねえ」とため息をこぼした。
「よーし。そんじゃ行ってこい。オーブ絶対貰ってくるんだぞ」
「あぁ任せた」
こうして私たちは宿屋を出て城の方まで向かっていった。
といってもこのままの格好だと戦士や敵国の人間だと怪しまれる可能性もあるので、最寄りの防具屋で魔法使い然とした服やローブを買い込んでいった。
とりあえずこの国で流通しているものだ。
ダメ出しされることは少ないだろう。
魔法王国ともなれば、兵士のデザインもだいぶ違うことに気づく。
魔法に耐性でもあるのか、不思議な青い紋様が鎧全体に刻まれている。
次に武器は剣でも槍でもなく杖だ。
杖には無数の宝石が組み込まれている。
おそらく色的に上から魔力補助、火属性魔法強化、そして相反する氷属性魔法がセットされているに違いない。
入り口を守る2名の兵士は互いが互いの弱点を補い合うような魔法構成になっていた。
また、魔法使い同士の内乱や同士討ち対策も首からのペンダントで対応するつもりなのだろう。
だとしたらこの国、相当なキレものが警備を指揮している。
近寄っただけで刺し殺されそうな印象だったが、私たちはできるだけ怪しまれないよう自然に兵士たちの元に接近を図った。
「止まれ。この先は女王陛下がおわすマギアージュ城だ。何人たりとも不審な者を立ち入れるわけにはいかない」
「要件は何だ。事と次第によっては切るぞ」
いきなり喧嘩上等の戦闘宣言とは。
しかしここには争いにきたわけではない。
私は前に乗り出して事情を説明した。
「あ、あのですね。私たち3人、王国の魔導兵士になりたくて来たんです」
「なに?」
「今この国では戦力が不足しているとか……。私たちはかねてより女王様のお役に立ちたいと考えており……」
フードの底からレイブンさんが呟いた。
更にそこからスラッシュくんが続ける。
「頼む。俺たちをテストしてはくれないだろうか」
「どうする」
兵士は互いに顔を見合わせていた。
その表情からは一抹の懐疑心と不安な様子が感じ取れた。
「見たところ国民ではなさそうだが……どこから来た?」
「え、ええとそれは……海を渡ってあっちの大陸から……」
「ほほう。遠路はるばる女王様のためにやってきたということか」
「敵国の人間――ではなさそうだ。いいだろう。どのみちそれを決めるのは俺たちではない。選ばれるかどうかはサイオン様のご意志ひとつ……後はお前たち次第となる」
やがて彼らに案内され、木に囲まれただだっ広い閉鎖的な空間に連れてこられた。
「しばらくここで待っていろ」
「サイオン様をお連れしてくる。勝手に城に入ろうなどとするなよ」
「は〜い……」
そうして2人は音も立てずに消えていった。
「ふぃー。なんかめちゃくちゃ警戒してたねー」
ようやく緊張の任が解けたレイブンさんはフードを脱いで長い息を吐いた。
「ええ……。一筋縄ではいかなそうですけど……」
「だが、俺たちなら攻略できるだろう」
スラッシュくんは自信満々だった。
彼の辞書に諦めるとか負けるとかって文字はない。
やがてちょっと経った後、カチャカチャと鎧が擦れ合う音がした。
先程の兵士のうち1名がそこに、そしてもう1人金髪の長い髪をした男性が立っていた。
赤い貴族のような服に荘厳のマントをたなびかせ、真っ白なズボンを履いていた。
明らかに只者ではない風格を漂わせている。
恐らく彼がその「サイオン様」と見て間違い無いだろう。
彼の鋭く蒼い双鉾が私たちをじっと睨みつける。
「……君たちも志願兵というわけだね」
甘く透き通った声を木々に揺らめかせていた。
「君たち……も?」
「あぁ。このところそういう人は多くてね。まぁ案内するよ。ついて来たまえ。今からその資格があるかどうか私が直々に見極めてやろう」
「そういうわけだ。後の手筈はこの方に聞けばいい。いいな、サイオン様に失礼のないようにな」
そう言って見張りの兵士は入り口の持ち場に戻っていった。
私たちはサイオン様に連れて行かれ、城を裏口から入っていった。




