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88 モンスター賭博場です!!

「ぐぅう……なかなか役が揃いません……」


 獲得コイン5190で進んでいた私ではあったが、当初ロイヤルでストレートなフラッシュを引き当てた代償か、幸運を使い切ってしまったことで2000コインまで泣かず飛ばずの状況が続いていた。

 まずい――。

 これでは散財したスロットの二の舞ではないか。

 なんとかワンペアでもいい!

 賭け金1コインからでもいい!

 揃ってくれ!


 ハートのA(1)、スペードの6、ダイヤのQ(12)、ハートの7、クローバーの4


「Oh……」


 ようやく私は事態の深刻さを理解した。

 確実に負ける。ヤバイ。

 欲を消して1コインの賭け金で済んでいるからダメージはそうあるものじゃないと思っていたが、よくよく考えれば1回5000Gもの大金を失ってるのだった。

 全枚交換……ううむ。また空札まみれになりそうだ。

 このお姉さんも実は闇賭博カジノの出先でこれも仕込みなのかもしれないと勘繰ってしまう。

 目の前の厚化粧に罪はない。

 罪は人、罰は欲。

 なにを残そうか……。とりあえず左端のクローバーの4を残しておこう。

 役ができて勝利すれば、その後のダブルアップに高確率で「ハイ」で勝利ができる。

 クローバーの4だけ残して全替えを試みた。

 こいこい……。


 スペードのA、ハートの5、ハートの8、スペードの4が新たに配られた。


「きったぁあああ! 4のワンペア!」


「おめでとうございま〜す」


 1コインが2倍になり2となる。

 うんしょぼいがここから倍々にしてやる。

 左端のクローバーの4だけが残され、他全てのカードが厚化粧の山札に吸い込まれていき、シャッフルされた。


「ハイ・アンド・ロー?」


「ハイッ!」


 めくられた絵札はスペードのK(13)だった。


「よっしゃあ! 次も貰いじゃ!」


 その後私は神がかり的なダブルアップの連続を繰り返し、通算25回目のダブルアップに成功した。

 さっ……!

 3355万4432コイン……‼︎

 おおおおおお、おおち、落ち着けおちけつ。

 これでプリズム装備の半額まできたぞ!

 だ、だがももももし、もしこれでまた勝てばつぎは6710万超。

 そうしてまた勝てばい、……1億コイン⁉︎

 う、うーむ。4人分は最悪無理にしてもなんとか2人分くらいは入手できる……!

 い、いやもし間違って2億になれば4人分も夢じゃない。

 そして幸いなことに26回目の大局にして目の前のカードは奇跡の「ハートのA(1)」。

 ほぼ確定で「ハイ一択」。

 やばい。6000万だぞ?

 ここでやめる手はない! 次の出方を見てやめればいい!


「ハイ! ハイですハイ!」


 現れたカードはスペードの7だった。


「よっしゃああこれで6700万んんんんっ‼︎」


「おお。やりやがったですね! あんなにボロ負けしてやがったのに大勝ちですよ!」


 総額6710万8864コイン。

 3355億G分!

 どうだぁ‼︎ 失った1700億分取り返したぞオラ!

 自分の後始末は自分でつける。これギャンブラーの鉄則だ。


「エヘ!」


 もう笑っちゃう。

 このまま永遠にダブルアップだけしていたい。

 しかしこんな奇跡は二度と起きないだろう。

 立て続けに2や13など最高と最低のカードが現れたのだ。

 ローリスクでウルトラスーパーハイリターン。

 1コインでもバカにできないということか。

 ここまできたらあと300万。

 ダブルアップだと22回くらい成功させなければ……。


「無理ゲーだわ改めて」


 そろそろもういいだろうという勇者くんの顔を見て、私は稼ぎ場を後にした。

 忘れてはならない事にカジノ景品の「VIP会員証」獲得ということがある。というかそれが本来の目的だ。

 ちなみに会員証は500コイン。びっくりするくらい安い。

 金だけで買おうとすると250万Gもするが、カジノで遊べば楽勝だ。

 楽勝で買って次に進むはずが……こんなにも使い込んだ上に貯金にまで手を出してしまう羽目になるとは……。

 いやはや恐ろしい。カジノの闇だ。


「お客様〜。500コインと引き換えにVIP会員証でよろしいですね?」


「はい」


 これで私たちも今日からVIP会員だ。

 会員証って確か先頭の人物が持ってるだけで効果があったような。


「おお。これはたしかにVIPの会員証でございますね。おめでとうございます! ささっ、どうぞこの奥で存分にお楽しみください」


 しかし黒服の男は私だけを通すと、他の2名は通さなかった。


「大変申し訳ありませんが、お連れの方も会員証が無ければこの先に進ませることはかないません」


「な、なんだそれ!」


「……仕方ない。俺が稼ぐ」


 とうとうここにきて、遊びを知らない16歳の青年がカジノに向けて人肌脱いだ。

 よ、よすんだスラッシュくん。呑まれるぞ!


「俺は勇者だ。ジーカの分まで会員証を手に入れてここを越えてやる!」


 彼は勇み足でポーカーテーブルについた。

 しかしジーカちゃんが彼を引っ張った。


「スラッシュもスロットやるです」


「……あれはやらん。負けるのが目に見えている」


「それがいいです。全員負けて痛い目にあうです。ジーカはそれを望んでますです」


 腹黒く悪い笑みを浮かべて勇者くんを地獄に導こうとする様子は完全に悪魔のそれ。

 破滅の使徒である。

 負けて悔しがる様を見たいのだろう。

 それを楽しむ側になってはいかんぞ。

 あのガンブルさんみたくとんでもない奴になってしまうぞ。

 石のように座り込んで頑として動かないスラッシュくんを無理やりジーカちゃんは服を引っ張って今にもちぎろうとしていた。


「す、すとーっぷ! そうだスラッシュさんジーカちゃん。別のゲームもやってみませんか?」


「なんです。まだあるですか」


「いっぱいありますよ!」


 私が案内したのはモンスター賭博場だった。

 ここではカジノ職員によって人間を襲わないように調教されたモンスターたちが、互いに競い合い最後に立っていたモンスターを当てる事ができればプレイヤーの勝利といったゲームが行われる。

 ターンは10まで。

 それ以上かかっても決着がつかなければ無効試合となりかけていたコインは返却される。

 組み合わせは1戦闘ごとに切り替わり、勝っていた分をそのまま上乗せすることもできる。

 勇者くんにとってモンスターとは人間を襲う化け物という認識でしかなかったため、この異様な光景にひどく驚きを隠せない様子だった。


「おー。なんかおもしろそーです! いよいよジーカも戦えるですね‼︎」


「違いますジーカちゃん拳をしまって! 戦うのはお店の人が用意してくれたモンスター同士だけです!」


「なんでですか! ジーカに賭けてジーカが戦えばぼろ儲けできるでやがりますのに!」


 意外にも賢いお話だった。

 てっきりあのモンスターどもの血湧き肉躍る激戦を見て、自分も野生の血が騒いだのかとおもった。

 まあそれができたら最強だよな、と思うのと同時にみんなジーカちゃんに賭け始めるから胴元が破産するだけだなとも思った。

 よってそんな理不尽ゲームを運営が許可するはずはないので、仕方なく私たちは用意されたモンスター欄の中から賭けるモンスターを選ぶしかないのだ。


「モンスター賭博場へようこそ! お客様こちらはじめての方ですか? もしよければルール等のご説明を致しますよ」


「あっ、はいお願いします」


 私はもう知っているので聞き流す程度だったが、他の2人はここも初めてなので真剣にバニーさん(ポニーテール)のお話に耳を傾けていた。


「ではこちらが今回のモンスターリストで〜すっ」

 彼女は大胆にも露出させた胸の谷間から紙切れのようなものを取り出した。

 サービス心旺盛である。流石に先端までは隠されていたが。


「どれどれ……?」



――――――――――――――――――――


モンスターリスト


①スライム     オッズ:1000倍

②グランドシャーク オッズ:1・2倍

③マッスルボア   オッズ:3倍

④アイスドラゴン  オッズ:0・05倍


――――――――――――――――――――



 どう考えてもネタ枠なスライムを除けば、基本的に「アイスドラゴン」一択なゲームだが、低オッズがすぎる故に最低100コインは賭けないと利益としてかえってこない。

 ならばここは強気で賭けるとしよう。

 ドスンと重めに10000コインを投下する。

 これで勝てば500コインが追加され、10500コインをかけられる。


「はーいではアイスドラゴンに10000枚ですね? でわはじめまぁーすっ」


 みるみるうちに賭博場内で戦闘が始まっていった。

 私たちは遥か高みから見物している。

 攻撃がこちらに届くことは絶対にないし、こちらから攻撃を補助したり妨害することもできない。

 開幕スライムがぷるぷるしていたが、どう考えても無駄行動。

 勝ち目は無きに等しい。

 マッスルボアによる体当たりがアイスドラゴンを揺らすが、ケロッとしている。

 体当たりして隙だらけなボアを横から刺したのがグランドシャークだ。

 ボアが肉となって食い散らされ、観客が歓声の声を上げた。

 残る三体となったモンスターたちは互いに睨み合い、牽制を続けていたが、最後に行動するアイスドラゴンの放った「ブリザード」によって周囲は凍結した。

 ボアを食らったグランドシャークは手も足も出せず氷の塊となって崩れ死んだ。

 勝ったな。


 そう思っていた矢先、なんとスライムが運良く氷から脱出していた。


「そんなことある⁉︎」


 そして彼はそのぷるぷるとした身体をアイスドラゴンの両足に巻き付かせ、巨体を大きくすっ転ばせた。

 頭を強く打ちつけた龍は気絶し、そのまま動かなくなった。

 レフェリーがその場に駆けつけて判定を煽いだ。


「アイスドラゴンが戦闘継続不能なため、この勝負1番、スライムの勝ちぃいい‼︎」


「そんなことってある⁉︎」


 おかしい。あり得ないだろ今の。

 こんなの1000回に1回あるかないかくらいの奇跡だぞ。

 いやこんな奇跡引き起こすくらいならスロットくらいあたってくれよ!

 逆に珍しいぞこれ!

 しかし観客の中にはスライムにかけていたものもいたようで、多額の賞金と記念トロフィーをもらうと「これで借金生活からもおさらばです」と涙ながらにカジノを出ていった。


「残念でしたね。また次の勝負でお会いしましょう」


 ポニテのバニーさんにそう慰められても、私はそのまましばらく呆然と抜け殻のように立ち尽くしていた。

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