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06 私、どうにか頑張ります!

 勇者から告げられた無慈悲な決定に、私は動揺の色を隠せないでいた。


 そんな私にパーティーメンバーは困惑の表情を浮かべていた。


「どうしたミランダ。そんなに顔色を変えて」


「い、いやぁそ、その。スラッシュさん……。今そこに行くのは少々危険なんじゃないでしょーか……。だってそこヤバイドラゴンとか桁違いに強いモンスターとか出てくるし……」


 私は間違った事は言っていなかった。

 この世界でも有数の強さを誇る亜人――龍人が支配する城塞国家『ガルガンドラ』は、その険しい道中もさることながら、内部では様々な強制エンカウントエネミーが出現し、これがまた強いのなんの、無対策で挑むと壊滅するレベルだ。


 実際問題、ここから冒険の本格化が加速するといっても過言ではなく、耐性無しだと平気で四桁ダメージを叩き出してくる龍とか、即死攻撃を集団で繰り出してくる怪物や、歩き方を間違えたら延々とエンカウントさせられるモンスター地獄の魔宮など、とにかく骨太な難易度なのだ。


 なおこの地点で勇者たちが進めるルートは3つあり、その1つがこの『ガルガンドラ』に向かうルート。

 2つ目がここから船で渡って西大陸にある魔法都市『マギアージュ』に行くルート。

 そして最後にのどかな農村を通り抜けて田舎町『ポレオ』に向かうルートが存在する。


 この3つの地方は順不同で周れるが、最終的には必ず全てを周る必要がある。

 中盤での攻略必須な3つのオーブを集めるのがおそらく旅の目的であったはずだ。

 しかしこの中でも『ガルガンドラ』ルートが最も踏破困難なデカい壁であり、戦力・経験・知識を総動員でフル活用しなければたどり着く事すら敵わないのだ。


 初見殺し極まりない理不尽イベントも多く、数々の危険が伴う間違いなく現時点で選択すべきルートではない。


「……なんでそんなこと知ってるんだミランダ」


 勇者スラッシュくんの低く鋭い声が耳に突き刺さる。


「ぎっ、ぎく!」


 し、しまった。うっかり中の人の知識を披露してしまった。

 私たちはまだ行ったことがないという設定なのに……!


 焦る私は身振り手振りなんとか誤魔化そうと企てた。


「え、えっとそれはほら、あれですよ。む、昔行ったことがあるというかなんというか……あははは」


 ちょっと嘘臭く聞こえるかもしれないが、半分は歴とした事実である。

 私はこのゲームをクリアする度に何度も訪れているし、その都度ガルガンドラの攻略には頭を抱えていたのだ。


「それに私たち、まだそんなに強くないですし。ここはもう少し実力を付けてからでも……」



 勇者スラッシュ Lv36

 戦士マックス  Lv40

 魔法使いレイブンLv38



「いや嘘でしょぉおおおおおお⁉︎」


 パーティーメンバー全員をステータスチェックしてみたところ、全員余裕で適正レベル帯だった。

 しかも結構強めの装備だし……!

 私なんてまだ実家から一歩たりとも出ていないに等しいレベルのふざけた装備品なのに……‼︎


 彼らは皆、いつでもあの死が伴う危険地帯に潜り込める準備ができていたのだ。

 言うなれば私だけが――ミランダさんだけが取り残されていたのだ。


 まぁそれもそのはず。

 ミランダさんはお世辞にも強いとはいえるキャラクターじゃないし、大抵は前衛職に肉弾戦でお鉢が回り、余ったサポート枠もレイブン少年に取って喰われるのだ。


 そもそも彼女のレベルの上がりにくさときたら、ゲーマーの間では最早伝説として語り継がれているほどだった。

 私もなんとか頑張ってなんとか離脱前にレベル65くらいまで上げてみたものの、いかんせんステータスアップは極小だわ(体感1レベルにつき0〜1くらい)、レベル上がるのクソ遅いわで労力に見合った達成感は感じられなかった。

 そしてそこまでして離脱され彼女が消えた時、私に残ったのは空虚な徒労感だけだった。


 そんなわざわざストーリー中盤で離脱すると分かっている彼女のレベルを上げる物好きもそういない。

 更には彼女に預けた装備品からアイテムまで全てが離脱と共に綺麗さっぱり消え失せるのだ。最早荷物持ちとしてすら機能していないだろう。


 しかし今はプレイヤーではなく、その不遇なミランダさん本人になっているのだ。話は別だ。

 このまま乱雑な扱いを受けた挙句、死別する未来を迎えるのだけは御免だ。


 なんとか修行を重ねて強くなりたい。しかし時間がない。

 どうにかスラッシュくんたちの旅路の邪魔をしない程度に、育成はできないものだろうか。


 悩んでいるところに筋肉紳士、マックスさんがぽんと肩に手を置いてきた。


「どうしたんだよミランダ。なんか焦ってるみたいだけど、らしくねぇぞ」


「えっ……あっ、あの。わ、私まだ全然弱いですし、このままいったら皆さんの足手まといになっちゃいそうで……なんとか強くなって皆さんのお役に立ちたいと……」


 そういうと皆嫌な顔一つせず、にっこりと笑っていた。


「大丈夫さ! そんな心配しなくたって、いざとなれば俺たちがお前を守るからよ!」


「そうですよ〜。ボクたちは仲間なんですから。いつでも頼ってくださいよ」


「……レイブンの言う通りだ。どんな危険が待ち受けていようと、俺たちは一つだ。何があってもこの絆が消える事はない」


 なんかまとめモードに入っちゃったし……!

 そしてスラッシュくんのこのセリフもフラグ感満載だし‼︎


 こうなれば仕方ない。私も腹を括ろう。

 レベル8の状態で彼らを回り道へ案内しながらモンスター退治に勤しもう。

 そして適正帯に相応しい強さになったその時、ガルガンドラに向かうとしよう。


「わ、わかりました。なんとか皆さんについて行きます!」


 こうして翌日の明朝に、私たちパーティー一行はガルガンドラに続く絶壁の登山道に向けて旅立つ事になったのだ。

 それまでに私は、自分が出来うる限りの準備を遂行しようと人知れずあちこち駆け巡る事にした。

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