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75 私、今度こそ出港です!!

「えっと……確認させて欲しいんですが……本当にその、海を泳いで来たんですか?」


「はい」


 停泊場の受付お姉さんは私を何度も見回した。

 事の顛末を丸々全て余す事なく伝えた。

 そんなの聞いたら誰だって半魚人か何かにしか見えないだろう。

 頭のワカメを取り除き、暖炉で身体をしばらく暖めてもらうことにした。

 全然寒くはないんだけどね。

 なんだか長いこと浸かり過ぎて最早海の方が恋しく感じてきた。

 本当に陸にいたのか怪しくなってきた。

 さて、まぁそれは良い。

 とりあえずみなさんを探さねば。

 多分ギブラル王と一緒にこちらへ帰って来てるはずだ。

 とにかく彼らを捜索してしみよう。


「おお。もしやミランダ殿では⁉︎」


「ギブラル王! 皆さんもご無事でしたか!」


 全員「待っていた」と言わんばかりに船着場に集合していた。

 やれやれ、ようやく再会できた。


「ミランダさん! よかったぁ。てっきり死んだのかとばかり……」


「そう簡単には死にませんよ!」


「そうか。とにかく無事でなによりだった。……捜索隊の船が見つかったんだな」


 本当は泳いで来ちゃったんだけどまぁ黙っておこう。

 今後「じゃあミランダさんの分は定期船いらないから泳いで来て」とか言われたら洒落にならんので。

 流石の私も泳いで大陸横断とかそんな馬鹿げた真似はするつもりない。


「くらーけん倒した張本人がいねーとあっちゃ、締まるモンも締まらねぇでやがりますからね」


「えへへ……でも大変でしたね」


「発見が遅れてすまなんだ。わしらも必死で助けが来るまで凌いでおってな」


 結局クラーケンにぶっ壊された船にしがみついて、どうにか救助を受けることに成功したらしい。

 しかし何度探しても私だけは見つからず、暗くなった後また翌日に調査を再開しようと考えていたらしい。

 うーむ。こんな事なら早めに泳いで向こう側までいけばよかった。

 そんな遠くに漂流しちゃってるとは夢にも思わず。


「よし。とにかく全員西大陸に行くぞ!」


「おーっ!」


 時間もちょうどギリギリだったらしく、既に船着場には西大陸への豪華客船が停泊しており、まもなく出港寸前だった。

 あわただしくもぞろぞろと数名を引き連れて私たちは船に乗り込んだ。


「出港〜!」


 いよいよ西大陸に向けて、大きな船が動き出した。

 もっと海賊船のようなものを想像していたのだが、この定期船こと『マリーン号』はただの移動用には惜しいほど荘厳な作りになっていた。

 揺れを感じさせない床のカーペットに、窓には全てカーテンが備え付けられていた。

 更に大勢が乗り込んでも有り余るほどのスペースを持ち、2階や3階にも部屋があった。


「俺、この船とならどこまでも広い海を旅したいぜ」


 船酔いしなくなったマックスさんが、上機嫌で船内ランチを楽しんでいた。

 本人は意図していないかもしれないが、高級嗜好なのかもしれない。

 いかにも「野生!」って感じな見た目なのにね。


「うーむ……ここのシェフもやるなぁ……」


 いくつかの海鮮丼やサラダを手に取って、味わいながらレイブンさんが歩いていた。

 たしかにここの料理は格別だ。

 それこそレイブンさんのに引けを取らない程。

 エビやカニのような海の幸たちは釣れたてぴちぴちなのだろうか。

 ぷりぷりと身が乗っていて本当に美味しい。


「ん〜幸せです〜」


 しかしイカ。あんただけは何故か許せぬ。

 忌まわしきクラーケンを連想させる触手を引きちぎり、ブチブチと口の中に放った。

 新鮮な食材は絶品である。

 ジーカちゃんもさっきから右から左へ料理という料理を食い漁って飛び回ってるし。


「メシは好きです。船としては登れねーのであんまりです」


 だから本来登っちゃダメなんだってば。

 とはいえ自分の気持ちに正直な彼女が私は好きだ。

 勇者くんはというと、遠くで上品にも席に着いてナイフとフォークでステーキ肉を味わっておられた。

 ご丁寧に紙ナプキンも首元につけてる。

 なんとなくシュールだ。


「隣いいですか〜」


「……ミランダか」


 私が料理をもって近寄るとさっと立ち上がって食事の手を止め、椅子を引いてくれた。

 ぶっきらぼうだけどこういうところに気が効くのは流石リーダーである。


「……すまなかった。お前の救出が遅れてしまったこと」


「べ、別に気にしてないですよ。こうしてまたみんなと会えたわけですし……」


「時々思うんだ。お前がいつか、俺たちの前から居なくなってしまうんじゃないか……って」


 わーお。勘が良いなスラッシュくん。

 あと数チャプター先で私は死別しますとも。

 でもそんな未来は絶対回避してみせますよ。


「大丈夫ですよ。私はどこにもいったりしませんよ」


「……俺がもっとしっかりしていれば……」


「スラッシュくんは十分しっかりしてますよ。それに何があっても私たちはずっと一緒です」


「ミランダ……」


 するとスラッシュくんはいきなり手袋越しとはいえ、私の手を掴んできた。


「これからはもう何があってもお前の手を離さない。絶対だ」


 その顔つきは真剣そのもので、鋭い瞳の奥には確固たる決意と揺るぎない信念を感じた。

 感じたのだが……。


 な、なんだ。この小っ恥ずかしいイベントは。

 これなんて告白?

 プロポーズ宣言ですか?

 真面目な雰囲気に茶々入れたくないのだが、もう少しこう考えて欲しいものだよ16歳くん。

 周りの高級そうな景色と相まって完全に結婚ムードみたくなってるから!

 そう女性の手を強く唐突に握るもんじゃないぞ。


「何してやがりますか2人とも」


 ケチャップまみれのお口で釘を刺してきたのはジーカちゃんだ。

 片手に持ちきれないほどの皿とエビの残骸を乗せて、満足そうにげっぷしてきた。

 ナイスタイミング。

 手を離さないと言われた手前にぱっと離すのは癪だったが、いつまでも握られているわけにはいかない。

 全く。勇者とフラグ立てるとかこの先色々と大変だぞ。


「な、なんでもないですよ! さ、さぁ! ジャンジャン食べちゃいましょう〜」


 勇者くんは羞恥心というものはなかったので、その場で照れることもなく、未だ私を真剣な目つきで見つめていた。

 実直というか真正面というか。

 素直過ぎて痛々しい……のかな良い意味で。

 若さ全開の青春がおじさんには眩しいよ。

 ご飯もそこそこに、一同はそれぞれ自由気ままに到着までの時間を過ごしていた。

 部屋で眠るものもいれば、デッキに出て遊ぶものもいたし、個室のシャワーを浴びるものもいた。私のことである。


《マスターぁあ!》


「う、うわぁあああっ! リーフルさん⁉︎」


 突然シャワーを浴びてる裸の私を後ろから抱きしめてくるナイスバディがいた。

 ずびずび泣きじゃくっているようだった。


《ずみばぜん……私、マスターの側にいながら……ぐずっ》


「い、いいんですよリーフルさん。落ち着いてください」


 しかし距離が近いなほんと。

 側から誰かに見られたら誤解されそうな距離感だ。


《私、海水だけはダメなんですよ。枯れちゃうというか……いつもの力の半分も出せなくなるんですよ》


「へぇ……そうだったんですね」


 そういう効果もあるのかあの海は。

 まあふやけそうだしな。

 しかし皮肉なことに当の主人は半魚人のごとく海水で歩き続けていられるようになってしまったんだな。

 リーフルさんだけ連れて行けなくなっちゃうな。

 一緒に泳いでみたりしたかったんだけど。


《マスターってお肌綺麗ですよね〜流石です》


「そうですか?」


 妖精さんも頭から葉っぱ生やしてる事を除けば、ナイスバディなお姉さんに見える。

 妖精と人間って同じ感じなのかな。

 歩いたりしてるから似てるみたいだけど。

 あ、そうだ。

 もう10時間以上経ってるし、そろそろ菜園の様子を見てみよう。

 楽しみだ。次のドーピングアイテムと1億の大金が私を待っている。


 妖精さんと身体の流しっこを終わらせ、私は自分の部屋で庭を開いた。

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