65 私、再会です! VS龍の神
「確か皆さんが幽閉されているフロアはこの辺だったはず……」
私が落ちた場所も原典版と同じだったし、多分ここ『羽虫の巣窟』だったはず。
ガルガンドラ地下牢は罪人を閉じ込めるためにいくつか層が分かれていたはずだ。
最も重い死刑にあたる人物――つまり私なんかは最奥の最下層に叩き込まれたが、別に負けイベ突破しなくとも国王は全員いずれ死刑にする予定だった。
この羽虫の巣窟にはそれはもう背筋も凍る夥しい数の羽虫が飛び交い、吸血性の虫によってジワジワと身を食い殺されていくというおぞましい牢獄だ。
まぁここでくたばってもよし。
生き残って公開処刑してもよし。
王にとってはどちらでも良い地獄だ。
マックスさんたち大丈夫かな。食べられてはいないと思うけど。
足元に湧き出るムカデの大群に鳥肌を立てながら、私たちは仲間の捕らえられている牢に向かった。
「ゲヘヘ! 虫だ虫! 食べられるかな?」
「絶対にやめてください。私の目の前でそんなグロテスク極まりない現場を見せたらその喉と目を潰しますよ」
「ゲヘヘ! 怖っ‼︎」
今にもなんか美味しそうに食べそうで嫌だ。
ゴブリンは虫が怖くないのだろうか。
怪物に人間の常識を当てはめる方が非常識だが、それにつけてもこの気色悪い大群を見ても何も思わないのだろうか。
能天気な生き物だ。脳みその一部を分けてほしいくらいだ。
血に染まったように真っ赤な鉄格子の向こうに、ようやく見慣れた人影を見る事ができた。
マックスさんたちだ。
「おおミランダ! なんだよどうやって出てきたんだよ!」
「マックスさん! 今開けますからね!」
「えっ?」
私はまた前みたいに鉄格子を握り、ぐにゃりと鍵部分をへし折って扉を開けた。
顎を外して愕然としているマックスさんを無視して、奥にいる人を見つめた。
しかしそこにはスラッシュくんとジーカちゃんしかおらず、長老さまとその回復に当たっていたレイブンさんと妖精さんはいなかった。
「おお。お前! 必ずくると思ってやがりましたよ」
「……すまない。助かったミランダ」
「ま、待ってください! ここにいるのは今いるみんなだけですか⁉︎」
「そ、それがよ。どうも長老さまとレイブンたちは別棟に隔離されているらしいんだよ」
「ええっ⁉︎」
「……ジーカがそう言っていたのだ」
「ホントでやがりますよ。ジーカ耳が良いので、兵士どもの話聞いてたんですよ。そしたらあいつらはログレスの膝下に置いて監視するって」
「みんなを助けないと……ジーカちゃん、その3人が隔離されている別棟ってどこかわかる?」
「んー……そこらへんの兵士ボコって聞き出すしかねーですね」
「何を騒いでいる貴様ら! ……! さては脱獄者か!」
これまでは居なかった見張りの兵士が数名の仲間を引き連れて戻ってきたので、私たちはついに見つかる事になった。
「さっそく良いところにいやがったですてめーら。ちょっと教えてもらうですよ!」
駆けつけた3名の兵士をジーカちゃん、私、マックスさん、スラッシュさん(+αゴブリン3人)の累計7人パーティの大御所帯で迎え撃った。
結果は当然私たちの圧勝で、ジーカちゃんは倒れ込んだ兵士を掴んで案内させようとした。
「さぁとっとと教えやがるです。ここからあいつらが捕まってる別棟へはどうやって行くんですか」
「う……ぐ……だ、誰が貴様らなんかに……!」
「なら首をへし折るまでです」
「ま、待ってください! ここで乱暴しても何も良い結果にはなりません! それより私たちで別棟への入り口を一緒に探しましょう!」
「んな悠長なコト言ってられるかです。見つけられなくてチンタラやってたら、3人ともお陀仏でやがりますよ!」
「ゲヘヘ。おいお前。俺の相棒が一緒にやろうって言ってんだ。少しくらい協力してくれたっていいじゃねぇか」
「なんでやがります、こいつら」
「え、えーとその……この方々はまぁ旅の成り行きで出会った罪人たちです」
「そんな紹介無いぜ相棒!」
「誰が相棒ですかっ。下手な誤解を招くのでやめてくださいよ」
「……お前、なんか変なのに絡まれる習性でもあんですか」
いえいえ慣れっこですから――
いかにもな『ミランダ・スマイル 作り笑いの章』でも、彼らにはどこ吹く風だった。
とにかく今は私の記憶をかき集められるだけかき集めるという作業に勤しむしかなかった。
私のやってた時はなかった『別棟』だが、原典版にも地下通路建設計画などが上がっていた。
もし完成したというのなら、その抜け道が残っているはず。
私は記憶を頼りに、合流したメンバーを合わせて更なる地下へと進軍していった。
すると私の予想した通り、原典版では塞がっていて通れなかった地帯が開かれていた。
その先が恐らく別棟への入り口だ。
押し寄せる敵を粉微塵に砕いてゆき、私たちは石作りのエレベーターに登っていった。
こういう仕掛けまで思いついて作れるとは、流石は龍人の科学者だ。
西に聳える塔のてっぺんに、傷を負った長老さまが断頭台に首を埋められていた。
兵士はそれを蹴飛ばしたり殴ったりして遊んでいた。
あと一撃が突き刺さる――というところで私たちが駆けつけた。
「大丈夫ですか、長老様!」
「おお、お主はあの時の……随分大きくなってからに……」
「長老様、本当に大丈夫ですか?……」
「心配すんなです。このボケ具合は紛れもなくうちのじじいです」
「ごめんねミランダさん。僕たち2人ともこの塔に隔離されたみたいなんだ。処刑は明日なんだけど、僕もう高いところ怖くて怖くて」
「ギロチンよりも怖いんですか?」
「だって僕かけられないし。かけられるのは龍人の裏切り者、長老様だけ」
こ、こいつ……。
自分さえ助かればそれでいいのか。
兵士ガン無視で話しかけていると、やがて怒ったように突撃してきた。
「なんだ貴様ら! 死ねぇえええ!」
「それはおめーですよ!」
ジーカちゃんのトルネードキックが兵士の頭を揺らし、遠くまで弾き飛ばした。
強い衝撃を受けてすっかり気絶した兵士から、逃げるようにエレベーターに乗って降りていった。
これにて全員集合だ。
これだけの人数が戦闘に参加できるのか怪しかったが、どうやら全員攻撃に参加できる貴重な的避けだったようだ。
再び全員と巡り合い、一致団結の姿勢をとってあとはひたすら上を目指した。
押し寄せる兵士どもを倒しては投げ、倒しては投げしているとようやく玉座の間の付近まで生きたまま帰ってくることができた。
「待ってやがれですよログレス!」
「おやおやこれはこれは。お早いご帰還ですな皆さん」
「ふざけるな。もう逃げられんぞログレス!」
「神妙にお縄につきやがれです」
「……くっ、ははは。これはまた傑作ですよ。逃げる? この私が、非力な人間相手に。笑わせないでいただきたい!」
ログレスは手に持っていた青い真珠を握りしめて砕くと、王の間をいきなり横から突き抜けてきた怪物が現れた。
怪物には5つの竜の首が備わっており、一つは火を示す紅。
二つ目は自然を表す緑、三つ目は氷や水を表す青色。
四つ目に闇を表す黒と、最後に白き光に満ちた色になっていた。
「さぁ――龍人の神とやらよ。私の邪魔をする愚かな人間どもに天罰をお与えしたまえ‼︎」
そして私たち総勢9人もの大パーティで巨大な龍の『神』とのボス戦闘が始まった。




