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58 開戦

「来るぞ! 頭伏せろです!」


 機械龍は口部分に熱気を集めて私たちに向けて放った。

 ブレス攻撃のようなものだ。

 炎属性なので、かすってもダメージはなかった。

 しかし荘厳な王宮の床や壁はお構いなく焦げていった。

 私たちを倒せればそれで良いらしい。

 更に続いて機械龍は首をロケットのように伸ばして体当たりをかました。

 盾を構えていたマックスさんが八畳半ほど彼方に吹き飛ばされる。

 何回行動するんだこの機械龍は。

 伸縮自在の頭部を見えなくなるまで引っ込めると、前輪を司っていた部分がカッター状に変化し、周囲を引き裂きながら襲ってきた。

 その刃は守備力を貫通するらしく、今度は掠っただけでも傷ができてしまった。

 切れた右腕から血が滴り落ちていく。


「ミランダ、大丈夫か?」


「だ、大丈夫です!」


 やはりHPがいくらあっても痛いものは痛い。

 まずいぞ。いくら反撃しても倒れる気配すらないし。

 なんだか本来受けるはずだったダメージが、不思議な力でなかったことにされているみたいだ。

 この機械龍のカラクリを解かない限り、じわじわと切り刻まれて終わってしまう。

 ジーカちゃんも必死で応戦しているが、炎も爪による裂傷も効いていない。

 あの猿から覚えた闇の力で戦ってみるか。

 もしこの機械龍に同じようなバリアが張られているのだとしたら、闇の攻撃だけは通用するかもしれない。

 一見どこからどうみてもあの時の闇の力は感じなかったけれど、あの力なら無効化されずにダメージを与えられるかもしれない。


「『闇の雷』!」


 私の手から魔法がほとばしろうとした。

 だが何度やっても黒い雷が出現することはなかった。


「あ、あれ? なんで使えなくなってるの?」


 一度『覚える』で覚えた特技は絶対忘れることがないはずだ。

 消費MPの関係だというのなら、あの時より今の方が断然多いし、まだまだ余裕があるはずだ。

 理由は全くわからないが、この戦闘では使えないか或いはもう使うことができなくなってしまったか。

 まぁあんな見るからに本編に影響しそうな技はこんな重要な局面では使えないか。

 あの時と今の決定的な違いがあるとすれば、ストーリー進行イベントかサブイベントか。そして仲間がいるかいないかである。


 しかし闇の力が使えないとすれば、もう打つ手が残されていない。

 何かないのか、こいつに対する有効な攻撃手段は――


「誰か『雷魔法(サンダー)』を扱える者はおらんか⁈ もしそれならば奴の回路を遮断することができるやもしれぬ!」


 突然長老が何かを思い出したかのようにそう叫んだ。

 えっ。

 まさかそんな簡単な事でいいのか……?


「あ、あの私それできますけど……」


「じゃ、なんでもいいからそれでやってみるです!」


「わかりました。『雷魔法』!」


 今度は無事に雷を呼び出す事が出来、そのまま機械龍の全身に直撃していった。


『システムコントロール不能……エラー……停止……』


 長老の仰るように機械龍には効果的面だったようで、ぷすぷすと黒い煙を噴き出し激しく動き回っていた。

 今なら攻撃が通るかもしれない。


「マックスさん、スラッシュさん。やりましょう!」


「えっ? おっおう!」


「……わかった。皆、ミランダの一撃に合わせろ!」


 剣を携えた3人の戦士が別方向から龍の機械体を交差するように切り裂く。


 新たなる連携技――『三位一体撃(トライ・アタック)』だ。


 条件は恐らく剣を使える人間が3人以上行動可能状態にあること。

 3方向から一斉に切り裂かれた機械龍は、さっきまでの勢いを失い、ボロボロと鋼のボディが地に落ちてゆき、やがて完全に機能停止していった。


「やるぅ〜」


 勝利を確信したレイブンさんの指笛コールが響く。


「やりましたね皆さん!」


「ああ!」


「……フッ」


 3人は利き手を乾杯させるようにぶつけ合い、ぐっと互いに交差させた。

 3人での連携技は初めてだったが、うまく決まると気持ちがいい。


 というか、雷魔法でショートするレベルだったのか。

 やはり強い耐性や機能を備えていても所詮は機械か。

 長老も早く思い出してくれればこんなに苦戦しなくても済んだのに。


「さっ行きますですよ。こうしてる間にもまた妙なモンぞろぞろ持ってこられるかもしれねーですし」


 そうしてジーカちゃんの駆け足についていき、王の間に続く扉が開かれた。



「おやおや。これはこれは長老様。それにお客人の皆さん。よくぞきてくださいました」


 パチパチと遠くから手を叩く音が聞こえてきた。

 青々とした髪の毛に、銀色の瞳。

 そして一目で分かる王様然とした豪華な装い。

 黒く尖ったツノが、龍人としての何よりの証。


 間違いない。彼こそが西の軍のトップに立ち、ガルガンドラの現国王に君臨した第二王子、ログレスだ。

 なんとなく感じる雰囲気からも、こちらを歓迎している様子はなく張り付いた薄ら笑いがかえって不気味だった。


「ようこそ我が城に――私はログレスと申します。今は亡き兄上に変わってこの国の王として代理を務めさせていただいております」


「よくもそんな薄っぺらい見え透いた嘘をぺらぺらと喋りやがりますですねログレス。てめぇがみんなをだまくらかして洗脳し、裏で糸引いてることくれぇお見通しなんでやがりますよ」


「これはまたとんだ誤解と偏見がおありのようで『東』のジーカ殿。私はただこの国をあるべき姿にお導きさせていただく手伝いを行えたらそれで良いと――」


「うるせぇです! いいからとっととじじいから盗んだオーブを返しやがれです! そしてこの国を元に戻しやがれ!」


「はてはて。なんのことだか記憶にございませんね。それにこの国を元に戻す、とな。ならば今私が行っている事こそ、その元に戻す行為に該当するのでは?」


 ジーカが怒り狂っているのを見て、長老は彼女を引かせるために手を出して前に身を乗り出した。


「のぅログレスよ。わしらの国は大きい。じゃがそこに住まう国民たちはまだまだ小さく未熟な雛鳥じゃ。わし含めてな。権力や地位で飾ったところで、結局それは1人で生きるということなのじゃ。わしらは民として、皆と共に生き共に死ぬ。そうして慎ましやかに暮らしておったのじゃ。お主の今やっておることはそうした長年先人たちが築き上げてきた『平和』を無下にするような冒涜に他ならない。長老として、もう一度この国の正しき在り方について話し合おうと思うのじゃが……」


 しかしログレスは長老さんの語った話を、大層鬱陶しいものでもみるような嫌気がさした顔をしており、まともに語り合える状況とはとても思えなかった。


「冒涜ですか……。しかしですね。私から見れば長老。貴方たちや先人の方が充分にこの国を、いや我ら龍人たちを汚しきっている不届き者に見えて仕方ないのですよ」


 玉座から立つと、彼はゆっくりと私たちに向かって歩き出してきた。


「そもそも争いというものは常に起こりうるものなのですよ。歴史がそれを証明してくれています。一時の『平和』……。そんなくだらないものの為に、我々は本来あるべき力を見失ってもいいのですか? 貴方がたの主張なさる『平和』さえ、守るためには結局『力』が必要でしょう。私はこの母国ガルガンドラを、そんな『力』を持った国にしたいのですよ」


「じゃがどう考えてもお主はやり過ぎじゃ。それに自衛でどうこう出来ぬものは自然の定めじゃ。滅びるときは滅びる。そうやって生命は流転を繰り返してきたのじゃないのかね」


「やはり貴方とは話が噛み合わない。貴方や兄上のような平和や家族といった近いものしか見ずに、その先に待ち構える問題に目を向けようともしない愚か者には、この素晴らしい国を任せることは――いや、任される資格はない」


「オーブを返せ。あれはお主のような危険な者が持って良い代物ではない」


「自惚れるのもいい加減にした方がよろしいかと。あれは盗んだのではない。貴様という弱者が、私に抵抗もできずに持っていかれただけ。命をかけて守るべき大切なものであるなら、私から奪い返すこともできたはず。それさえ敵わず呆然と見つめているだけしかできなかった救いようのない弱者が貴方です」


 かなり両者は危険な距離まで接近し切っていた。

 どこからどうみてもただならぬ雰囲気だ。

 これ以上は――

 そう思った矢先の出来事であった。


「うぐっ!」


 長老の肉体を黒い闇の力が――ログレスの左腕が貫いていた。

 心臓一突き。

 突き刺していた手を雑に抜き取ると、その場に夥しい数の血液が流れ落ちる。


「じじいーっ‼︎」


 刺す直前に足を動かしていたジーカちゃんは、間に合うことなくその凄惨な現場を見せつけられることになった。

 彼女が蹴りを放つと、ログレスは闇の中に消えるように姿を消し、かと思えば再び玉座に座っていた。


「お前……なんてことを……!」


「分かり合えない人間はこの世界に必要ありません。そして貴方たちにも消えてもらいましょう」


 こうして龍人の王――ログレスと私たちの開戦は、思いもよらぬ壮絶な形で火蓋を切って落とされた。

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