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04 私、強くなります! 脱初級編

※今回はミランダさんのあ〜んな部分や

こ〜んな部分がポロリするお色気描写があります。

苦手な方は注意してください。

「やばいっ寝過ごしたっ‼︎」


 朝の日差しを窓辺から浴びて、私は起き上がった。


 そして景色の変わらない世界と自分の顔を確認して、とうとうこれが夢でもなんでもないという事実を突きつけられる。


 まだワンチャンゲーム好きの自分がまどろんで見た夢だと、心のどこかでそう思っていた節があったのかもしれない。


 まぁ――良い。

 そうとなれば話は早い。

 早速支度を済ませて今日は〝ある事〟をしに行くのだ。


 寝巻きを勢いよくすっぱらって、ミランダさんの持っていた荷物から替えの服を取り出して着替えた。


 ブーツの紐を結び、意気揚々と外へ乗り出そうとした。

 一階では私の物音に目を覚ましたマックスさんが寝巻き姿で眠たそうに徘徊していた。


「ふわああぁ……お早うミランダ。めちゃくちゃ早起きなんだな」


「マックスさんおはようございます! ちょっと朝から修行に出かけます!」


「おー……って! お、おいミランダ! 朝飯も食わずに行っちまうのかよ! あと初心冒険者の部屋はまだ開いてねえかもだぞ」


 そんな彼の声を背に受けて、私は宿屋の外に飛び出して行った。

 無論ビギナーズルームに行くつもりはない。

 土人形をあらかた借り尽くした私の、次なる獲物はそう――


「スライムさん」


 RPGでは定番中の定番。超有名どころのモンスター。

 大人になるまで生きててこの名前を一度も聞かないものなど、恐らくいないのではないだろうか。

 それくらい他の魔物とは一線を画する知名度を誇るのがスライムだ。


 ゼリー状の身体をぷるぷると揺らす愛らしい魔物。

 基本的に序盤の雑魚、人畜無害、人間の言葉を話す友好的なNPCもいる――といった特徴が有名な一方で、呪文しか通用しない・またはその逆で、人の体内に入り込んで爆裂させるという獰猛かつ恐ろしい特徴を備えた比較的『強い』スライムがいるのもまた事実だ。


 扱う作品によってそのイメージに天と地の差が生じるが、この『ファンタジア』シリーズに於いては、全作品共通で前者の特徴に該当する雑魚モンスターだ。


 ただし、雑魚とはいっても序盤のモンスターよりはだいぶ強い。

 それにちょっと特殊な方法でなければエンカウントできないレアなモンスターだ。


 言うならば中ボスくらいのモンスター。

 後に中盤付近のダンジョンで雑魚として集団で襲ってくる系の。


 誘き出す方法は至ってシンプルだ。

 ☆1レア度のアイテム、『甘い蜜』と『スライムの香り』を街にある木々に置いておくと、それに釣られたスライムとエンカウントできるのだ。


 ちなみにこの方法は各街で一回だけ行える。

 カラーバリエーションも確か豊富で、この街では『ブルースライム』という一番有名な種と戦えたはずだ。


 そいつはまだ他のスライムと比べれば見易い方で、呪文も特技も使ってこない、プルプルしてる事の方が多い俗に言う無駄行動が行動テーブルに多く組み込まれている奴だ。


 それでもステータス的には今の私よりもちょっと格上くらいなので、気を抜くと死ぬ……かもしれない。


 私はスライムに会うための供物――もとい材料集めに勤しんだ。

 この街のアイテムマップは全て把握している。

 赤い屋根の民家に『聖水』、『ポーション』と『甘い蜜』が。

 教会裏に『スライムの香り』が設置されてあるはずだ。


「ビンゴ……!」


 誰にもまだ掘り当てられていないアイテムたちが、わんさかわんさか。

 金欠の私にとってはお宝の山がゴロゴロしていた。

 これで一通りの準備は完了だ。


 あとは適当な調合してスライムくんを誘き寄せるのみ。

 『花の蜜』に手をかけてみると、粘液性に富んだ液体が手にまとわりつき、その液を今度は『スライムの香り』の紙袋に突っ込んでかき混ぜる。


 ゲームだと色々と過程が省略されているのだが、実際にやるとすこぶる気持ちが悪い。


 汁まみれでベタベタの手を振り払い、木の近くに合成したブツをそっと置いた。


 さぁこれであとはスライムくんが来るのを待つばかり――!

 無実のスライムくんには大変申し訳ないけれど、ミランダさんの経験値の糧となってもらおうか!




   ◇ ◇ ◇



「お腹すいたなぁ……まだかなぁ」


 粘り気のある紙袋と睨めっこして、早何年経っただろうか。

 というのはまぁ冗談だが、割と真面目に1時間は経ったと思う。


 屈んだ姿勢を続けるのもいい加減疲れてきたぞ。

 しかし何度目の前を見渡してもスライムどころかリスのような小動物さえ横切らない。

 置き場が悪いのかとどかすことも視野に入れてはいたのだが、下手に失敗してもいけない、と思いかれこれここまで経ってしまったのだ。


 ここで目を離した隙に現れるのは痛いが、仕方ない。

 大人しく朝食を(もう多分昼だけど)いただいてから出直すか。


 と待つのに耐えかねた私がそっと立ち上がってみると、なにやら背中の方からえらい圧迫感を感じ取った。


 ――ま、まさか


 そう思い振り返ってみると、そこには青々とした半透明の怪物がぷるぷると(うごめ)いていた。


「スライムさん……キターッ‼︎」


 甘い香りにつられて ブルースライムが襲いかかってきた!


 エンカウントテロップが流れるならばまさにこうだろう。

 全く待たせやがってこのこの。

 プルプルしてて可愛いんだよ!


 ようやく満を辞して湧き出た大物に、私は思わず歓喜の雄叫びを上げた。


 ブルースライムは私よりも遥かに大きく、全長大体10メートルはあるのではないだろうか。


「いや……こうして見るとデケー‼︎」


 もうなんか勢いに任せて突っ込んだらそのまま呑み込まれてしまいそうだった。

 そいつは私とエンカウントしてもただそこでプルプルと音を立てて震えているだけだった。


 これならいける!

 土人形さんの時同様、拳に力を込めてゼリー状の肉体に殴りつける。


 スライムさんはそのトゥルンとしたボディを歪ませ、風圧で破片が砕けて辺りに飛散した。


「やった――⁉︎」


 しかし未だ戦闘終了のアナウンスも出なければ、スライムさんが倒れた様子もない。


 というかこれホントに効いてるのか?


 スライムさんは砕け散った破片と共に大きめの体を湾曲させているだけだった。

 物理耐性なんてなかったはずだが――。

 攻撃力が低すぎてスライムさんの防御力を貫通していないのか。


 とりあえず私は間髪入れずにスライムさんをひたすらサンドバッグにし続けた。


「おらおらおらおらおらぁー!」


 私は懸命にスライムさんに向けて拳の雨嵐を浴びせかけた。

 それでもスライムさんは『無駄だ』と言わんばかりにどーんとでっかく(そびえ)え立っていた。


 既にあちこちにスライムさん〝だったもの〟が撒き散らされているが、特にそれらが致命傷になっている様子もない。

 砕けば砕くほど、なんかスライムさんが増えている気がしてならない。


 そしてそれが実現するかのようにスライムさんは合計16体もの個体に分裂していった。


「な、なんかめっちゃ囲まれてるーっ‼︎」


 やがて無数のスライムさんは一つになるように、私目掛けて一斉に飛んできた。


「わっ……わぁああああああ! 溺れるっ! スライムさんに溺れるぶぶぶ!」


 ゼリーの中に閉じ込められた私は苦しく、息が出来な――




「ってあれ……なんか息できるし」


 ――くなるなんて事はなかった。

 なんかスライムさんと一体化しちゃったような気分だ。

 視界も海とかプールで目を開けてるみたいだ。

 一先ず害は無いようだったが、それでも私はスライムさんから脱出すべく泳いでもがいてみた。


 消化とかされるんだろうかこれ。

 スライムさんの肉体が酸性だったら確実にゲームセットだった。


 そう考えると不幸中の幸いだが、もたもたしてるとなんか本当にスライムさんと一つになりそうで嫌なので、必死でスライムさんの海をかき分けた。


 ところがもがけばもがくほど、スライムさんはプルプル全身を激しく揺らし、私を飲み込んで離さなかった。

 なんとか顔だけでも出そうと頭を思い切り突き出してみた。


「ぷはっ!」


 どうにかそれは叶ったのだが、今度はスライムさんが私を押さえつけるように触手のように手(?)を伸ばしてきた。

 抵抗を続けてみるものの、徐々にブーツや装備が脱げていき、なんだかあられもない姿になっていってしまった。


「な、なんかくすぐったいで……あっ、あははははっ。や、やめてくださいスライムさんっあははは! ぱ、パンツは、パンツだけは――‼︎」


 身体を嫌々くねくねさせると、スライムさんの触手が中で暴れ回ってきた。

 全身くすぐられている感覚に、私は耐えきれなくなって涙が出るほど笑ってしまった。

 状況はちっとも面白くないというのに。

 ドレスのスカートはずり落ち、上着まで脱がされかかってしまった。


「だっ……誰か助け……あはははは!」


「ど、どうしたミランダ、大丈夫か!」


 私の叫び声に駆けつけてくれたのは、やはりここぞと言う時に頼れる男の中の男、マックスさんだった。


「あっぐはぁっ!」


 しかし彼はスライムによって絶賛脱衣ショーと化している私を一瞥すると、鼻から大量の血を噴き上げて地に沈んだ。


「ま、マックスさーん⁉︎」


 突然ぶっ倒れた彼を案ずるように身を乗り出した瞬間、私の頭上でアナウンスが鳴った。


【スキルを獲得しました】


「いや何でだぁあああ‼︎」


スキル名:お色気

効果:性別が存在する敵が相手の場合、自分の性別と異なる対象を『魅了』状態にすることがある


獲得条件:相手を『悩殺』して倒す

備考:『悩殺』とは『魅了』状態の相手を倒すこと



「こんな状況でこんなスキル獲得されても‼︎」


 スライムさん、性別無いし!

 あったとしてもオスかメスか分からないし!


 そういえばマックスさんってむっつりスケベだった。

 下着姿にまで身を落とした私を見て、堪らず興奮から鼻血を噴いて死んだのだろうか。

 マックスさんの性癖が窺い知れる瞬間だったが、それどころではない。


「――っ! そうだ魔法使えばよかったんだ。何やってんだ私」


 スライムさんに飲まれた事の焦りが過ぎて、肝心な事を見落としていた。

 冒険者の心得その①。

 攻撃が通用しなければ、それを繰り返すのではなく他の手段を試してみる。


「これでいいのかな、まだ使った事ないからわかんないけど――ええい!『火魔法(フレア)』!」


 私は精一杯頭の中でめらめらと燃える炎をイメージした。

 どこからともなく魔法陣が現れ、直径50センチ程度の小さな炎が飛び出した。


 炎はスライムのプルプルボディを焼いて、そこから穴を生じさせた。


 それを期に私はスライムさんからの脱出を果たし、MPの続く限り『火魔法』を唱えた。

 やがてスライムさんはぷすぷすと黒い煙を上げて固まっていった。


 ――今だ!


 その固くなった部位目掛けて、拳を勢いよくぶつけた。

 スライムさんは砕け散った部位から消滅していき、どうにか戦闘が終了した。


【ミランダさんのレベルが上がりました】


「や、やりました……ふぇえ……」


 かくして半裸の私はどうにかブルースライムの討伐に成功した。

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