03 私、スキルを獲得します!
【スキルを獲得しました】
土人形愛好家
効果:種族『土人形』に与えるダメージが増加(大)
取得条件:土人形に500回以上何かしらのアクションを起こす
「へーこんなスキルもあるんですね」
マックスさんから差し入れてもらったお水を飲んですっかり体力回復した私は、ゆるり気ままにステータス画面を読み漁っていた。
どうやらこれを読み込んでもまだ光が点滅しているので、他にもスキルを獲得したようだ。
一個一個確認するのは手間なので今度は一覧でオープンしてみる。
【スキルを獲得しました】
幸運の女神
効果:クリティカルヒット発生率が5倍。更に8回に1回程度、空振り判定が起こる前にクリティカル判定を挟み込む
取得条件:クリティカルヒットを通算20回以上出し、クリティカルヒットで止めをさす
武器なきものの魂
効果:武器を所持していない場合、たまに耐久度を無視して武器を破壊する事がある
取得条件:武器を1回以上破壊する
忍耐の心
効果:戦闘が長引けば長引くほど、その戦闘で得られる経験値が増加する(最大2倍)
取得条件:経験値を得ていない状態で戦闘を2時間継続する
備考:10秒以上の放置状態は継続時間にカウントされない。
「うわ〜色々あるな〜。そしてどれもあまり見たことがないレアスキルばっかりだ!」
効果内容と取得条件を見てもレアスキルというより、マイナースキルな気もするが、与えられて損するわけではない。
それにどれもこれも現状の私にぴったんこカンカンなスキルたちばかりだ。
これでしばらく武器無しでも土人形と連戦できる。
そういえばクリティカルについても当初2%だったのが、スキル効果によってこれで10%以上になるのだ。
昔やり込んだ時に武器効果と合わせて常時クリティカル状態のキャラとか造ったような気がする。
同じことを彼女でもやれるなら、もしかしたら死別の未来が遠のくかもしれない。
条件厳しかった気もするが、とにかくやるぞ。
強くなる為ならなんでもする。石に齧りついてでもやってやるぞ。
「さーて休憩終わり! 次は別の土人形さんと……」
◇ ◇ ◇
「やぁどうだいミランダさ――て何これええええええっ‼︎」
私が一心不乱に土人形たちを狩り尽くしていた頃、通算5000体目の土人形討伐に差し掛かった段階でマックスさんの絶叫がフロアにこだました。
「あっ、マックスさん。ちょうどよかった。この土人形さんたちもう復活しなくなっちゃったんですよ。時間置くのもったいないので他に何か紹介してくれませんか?」
「――っていやいやいやいや! み、ミランダさん。土人形普通は絶滅しないから! どんだけ倒し尽くしちゃってるの⁉︎ もうやめたげてよぉ! 土人形のライフはとっくに0だよ⁉︎」
マックスさんは夥しい土人形の死骸をかき分けて、ここまで進んできてくれた。
たしかに言われてみればちょっと狩り過ぎた感は否めなくもないが、なにせこれだけ倒しても経験値は1程度で、レベルもまだ「6」なのだ。
序盤のうちはスピーディーにテンポ良く経験値を稼げていたのだが、次第に一撃で倒せるようになっていくうちに、スキル『忍耐の心』が発動しなくなってきて、経験値もしょっぱいものに変わっていってしまったのだ。
無限に復活する土偶相手なら良い勝負できると踏んだのだが、250回を境に人形は(元々無いはずの)生命活動を停止していったのだ。
仕方ないので隣へ――次また隣へ――と繰り返していたらこうなってしまったというわけだ。
土人形の血(泥?)にまみれた私の手を引っ張って、彼は一先ず宿屋に連れて行ってくれた。
外に出てみると夜もすっかり更けてきてしまっていた。
嗚呼……まだレベル「6」だというのに、今日という日が終わってしまう。
破滅へのカウントダウンが刻一刻と迫って来ていると思うと、いつも楽しみにしている夕食の時間が、たいへん陰鬱な気分になってしまう。
椅子に座って食事を待っていると、やがてふんわりと香ばしい匂いが鼻腔と食欲を刺激していった。
「さぁできましたよミランダさん、みなさん」
チーム1のショタっ子サポーター『レイブン』が食事を運んできてくれていた。
彼は能力値こそ平凡だが、豊富なサポート魔法や特技を覚える縁の下の力持ちだ。需要は少なくともミランダさんよりある。
それに茶髪+やや褐色+そばかす+ショタと外見でも見逃せない属性満載なのだ。
ちなみに彼の年齢はなんと22歳。
所謂『合法ショタ』という生き物だ。
料理も彼が担当していたということが、この世界に入ってみて新しく判明した。
「いただきまーす」
熱々のシチューは疲れ切った身体に染み渡る一品だ。
白い煙を吐きつけながら、木のスプーンで次々と掬っていく。
「ん〜‼︎ 美味ひい〜!」
前の世界でもこんなに美味しいシチュー食べたことはなかった。
優しいミルクとチーズの濃厚な味わいが、舌に絡みついて喉に溶け込んでいく。
「あはは。ミランダさんってばどうしちゃったの? そんなに今日の分味付け変えてないと思うけど〜」
旨味の余韻に浸り過ぎて思わず中の人が出てしまった。
まずい。シチューがではなく。
ここでは私はみんなの仲間『ミランダさん』として振る舞わねば違和感を与えてしまうのだ。
既にマックスさんにやらかしたの見られて色々手遅れかもしれないがっ!
「す、すみません余りにもレイブンさんのご飯が美味しかったものでつい」
「変なの〜いつもと同じなのに〜。でも喜んでもらえてよかった!」
ショタが特に疑うこともなく笑顔になっていたのでこちらもほっと胸を撫で下ろした。
あぶねえ〜。
レイブンさんが精神年齢までショタでよかった。
その後食事を済ませた私は宿にある風呂場に直行して行った。
何はなくともまずこの汗でびしょびしょの服を脱いで、早く湯を浴びたかったのだ。
この手の世界観だと中世ヨーロッパを連想させるのだが、何故か開発者のこだわりかシャワーが備え付けられている。
文化的にそれどうなんだってツッコミが飛び交う事もあったが、今は気にしない。
あるもんはなんでも使っていこうじゃないか。
「はあああ〜癒されるぅうう」
暖かいお湯の散乱が、今日一日で流し切った私の汗を落としていく。
石鹸で泡を立てて身体を擦り、垢を落としてまた湯を浴びる。
色々身体を弄ってみると、ミランダさんホントに身体キレーだなと思う。
ムダ毛の一つもない真っ白な卵肌。羨ましい。
まだ18の身空でこの美貌。生きていればまだまだやれることがあったろうに。
彼女の辿った悲惨な人生と、これからの不幸にほろりと涙が止まらなくなってしまった。
しかし泣いてばかりもいられない。
私が強くなって彼女の破滅の未来を回避してやるのだ。
文字通り汗と涙をシャワーで流し、さっぱりとしてから風呂場の戸を開いた。
するとそこには銀髪の勇者こと『スラッシュ』くんが立っていた。
彼は素っ裸の私を視認すると耳まで顔を赤らめ、慌てて顔ごと目を背けた。
「す、すまないっ……!」
彼はぶっきらぼうにそう呟いた。
遅れて私も「裸を見られた」という事実が頭に入って頬が熱を帯びてくる。
さっとタオルで身体を隠し、そそくさと退出していった。
「あ、あははは〜ごめんね変なもの見せちゃって。すぐ出るから!」
音速の速さで全身タオル巻きにして着替えを手に取り、私は2階の部屋に向かって行った。
確かこの宿の2階にある右の一室が私の部屋だったと記憶している。
流したはずの汗が落ちてきて、ばくばく鳴る心臓を押さえてベッドにへたり込んだ。
……しかし言ってて何だがミランダさんの素敵な身体をして『変なもの』とは咄嗟とはいえ無礼な事を言ってしまったな。
なんか自分の裸見られたみたいでついそう出てしまったのだ。
あんな貧相だった自分と違ってミランダさんはむしろ見られるべき身体なのだ。
堂々と見せつけるスタイルで行ってもなんのバチも当たらないだろう!
いや流石に裸はまずいか。でもこれからは自信持っていこう。
彼女の分まで幸せになって、いや幸せにしてあげるんだ。
寝巻きに着替えて私は本日の成果を確認することにした。
そういえばあの時からずっとドタドタしててロクにステータス確認してなかった。
レベルだけはなんとなくアナウンスされるからちらっと目は通してたけど。
名前:ミランダ・クロスフィールド
職業:町娘
種族:人間
性別:女
年齢:18
Lv6
HP 28
MP 30
こうげき力: 15
ぼうぎょ力: 8
すばやさ : 24
まほう力 : 18
しんこう心: 10
うんのよさ: 0
きようさ : 9
固有スキル :なし
取得済みスキル
『不屈のタフガイ』、『土人形愛好家』、『幸運の女神』、『武器なきものの魂』、『忍耐の心』、『永久の土人形ハンター』
習得済み特技:『小回復魔法』、『火魔法』
装備
頭防具:花の髪飾り
上半身:宿屋の寝巻き
右 手:銀のブレスレット
左 手:なし
下半身:宿屋の寝巻き
足防具:皮の靴
装飾品:おまもり
こうして見ると我ながら1日にしては中々強くなったのではないだろうか。
初期の貧弱過ぎるステータスが嘘のようだ。
ちゃっかり回復魔法や炎魔法まで覚えちゃった(どちらも超初級だが)。やったね。
まぁそれでも街の外に出るには全然足りないんだけども。
スキルもあれ以上はいくら土人形を叩いても入手しなかったので、これ以上連中を相手にしても変化はないだろう。
ちなみに土人形5000体を撃破した際に獲得したスキル、『永久の土人形ハンター』とは、強く見つめるだけで土人形を倒せるという土人形さんからしたら溜まったもんじゃないチートスキルだ。
とはいえここまでの取得条件の厳しさに見合った強さは全然無いので、獲得する事自体滅多にないトロフィースキルみたいなもんだろう。
コンプリート走者以外は目もくれないだろう。私も多分今後活用する事はない。
何故なら私は次の日――いよいよEランクのモンスターを相手にしにいくのだから。
「ふっふっふっ……待っててねモンスターさん……!」
楽しみで不気味な笑いを上げながら、私は未来に向けて期待を込めて床に着いた。