25 新たな真実――New Game, New Wolrd
「ありがとうございましたクラークさん。助けていただいて」
「いや。それはこちらのセリフです。貴女があの時檻から解き放ってくれなければ、私は今頃奴に倒されていました」
《それにしても何者よ〜アンタ。あのヤバイ化け物を物ともせずに一刀両断するなんて》
「これは珍しい。リドラの加護を受けし精霊ですね。初めまして。私はクラーク。ただの騎士ですよ」
クラークさんは生ける英雄そのものといった風貌をしていた。
黄金に光る長髪に蒼玉の双眸。彫りの深い凛々しいとした顔立ちに鋭く尖った眉毛。
よく見るとその身に纏う防具は鉄製ではなく、ただの革製のよう思えるが、それを感じさせない程の圧倒的存在感を漂わせていた。
腰に携えた聖剣は荘厳な鞘に収まってなお、直視できないほどの光を放っていた。
この細胞レベルで『頼もしい』を醸し出す傑物を、私はどこかで見たことがあるような気がしてならない。
どこかの伝説の書で? いやいやそんなものではない。
なにかこう、もっと根源的な何かで――。
思い当たるものどれも納得がいかない。
「さっ、ともかく目的の物を手に入れましょう。ここにいつまでも居ては風邪を引いてしまいます」
ずっともやもやとしてどこに行くわけでもなく歩き回っている私に、聖騎士クラークさんは本来の目的を思い出させてくれた。
「そうだった! 『氷の特効薬』を!」
ついさっきまで魔獣ガリングが居座っていた氷の玉座付近に、小さな結晶のような壺を発見した。
両手でしっかりと抱え、リーフルさんに判断を仰いだ。
《ええ間違いありませんよマスター。これがかの『氷の特効薬』です。早速持ち帰りましょう》
「では不肖この私もしばしの間同行致します。またどんな危機が起こるか分かりませんので」
うおおおおマジかぁあああ!
クッソ強くて頼もしいNPC仲間になったぞ一時的とはいえ!
もうなんかこのまま最終決戦まで突き進みたいくらいの気分だったが、聖騎士さんの言うようにそう油断できるものでもない。
ほんの僅かに与えられただけの力であれだけの事ができてしまったのだ。
その源たるグレイズ・ヘスフォードの持つ闇の力はこの比ではないだろう。
死別の未来では一度に複数人もの人間を荊で閉じ込めていた。
さしもの聖騎士さんといえど、単騎での脱出が不可能に近かったあれを本家大元がやってしまえばどうにもなるまい。
私もどうにか『覚える』を済ませて対抗できたからよかったものの、次また同じように通用するかなんて全くわからない。
強い人1人増えたくらいで安心はできない。
しかしそれは別にしてもこのままパーティーに入って欲しい戦力だなぁと思う。
その場合最終メンバーはどうなるのだろう。
まずリーダーたる勇者さんは欠かせないですし、究極のHPタンク・戦士さんも必要不可欠。
サポート魔法が豊富なレイブンさんがいれば、隊の力はますます盤石なものとなる。
そして勇者さんに匹敵する力を持つ聖騎士さん。
……あれ私は?
ミランダさん、結局パーティー外れる事になるし!
いやいやいや流石にそれはまずい。
なんてくだらない事を考えているうちに、いよいよビッグフットさんたちが待つ場所まで戻ってきた。
なんとか無事生還してきた私たちを確認すると、彼らは拍手と大事で歓迎してくれた。
「さぁこれを――……えっとどうするんですか?」
とりあえずボスことイエティさんの前に『氷の特効薬』を掲げてみたものの、この先どうして良いのかまるでわからなかった。
《ええとそうですね……マスター。ちょっとそれ貰いますね》
妖精さんは氷の特効薬を受け取ると、それを勢いよく口を開けて飲み込んだ。
「ちょ……! 大丈夫なんですか⁉︎」
しかし妖精さんは私の呼びかけにも応じず、むしゃむしゃとせっかく苦労して手に入れた『氷の特効薬』を食べていった。
すると彼女は突然白い煙を吐き出し、奇妙な舞を踊り始めた。
もう私には何が何だかわからないその不気味極まりない儀式を一通り見守ると、やがて妖精さんの頭からポンっと一輪の花が咲き誇った。
《これをすりつぶしてイエティに飲ませてみて》
そう言った妖精さんの頭に咲いた青白い花を、私はぷつんと引き抜くと、手でぐしゃぐしゃと丸めてすり潰した。
汁で溢れかえった手をイエティさんの口の前まで持っていき、その中に流し込んでいった。
青く滴る雫がイエティさんの喉を通っていくと、みるみるうちに白い巨体が光に包まれていき、受けていたはずの傷が修復し始めていった。
そうする事数分が経過し、イエティさんはゆっくりと大きな身体を起き上がらせ、見事に復活を成し遂げた。
『おオ……ボス』
『我ラがビッグ・ボス……遂に蘇ッた……!』
一同から涙混じりの賛辞の声が飛び交っていった。
皆一様に抱き合い笑い、大ボスの復活を祝っていた。
イエティさんは洞窟の天井にぶつけそうなほど大きな頭を伸ばし、私の方を見つめてきた。
《……お、おお……お若い人間よ。まず儂を長き闇の眠りから解き放ってくれた事、種を代表して感謝しよう。本当にありがとう。》
「い、いえいえ。私は別に……。ここにいる聖騎士クラークさんが助けてくれたから……!」
私が退くと、クラークさんが前に身を乗り出してきた。
「初めまして雪原の巨人を束ねる王よ。私は騎士クラークと申します。どうやらあの洞窟の奥地には、あなたに牙を向けた巨悪から力を与えられた怪物が住み着いていたようです」
《ふむ……そのようじゃな。あの後傷つき、倒れていた間中ずっと儂は闇の中で声が聞こえた。殺意の波動に満ちた呻き声のようなものじゃったよ。そして何度も傷跡から奥地に向かい共鳴するような感覚に襲われた。……して奴は?》
「申し訳ありません。私が聖剣の力を使い、跡形もなく消し去ってしまいました。奴から闇の力を与えた大いなる存在の事も、その目的も聞きそびれてしまいました」
《それは致し方あるまい。そうでもせねば、あの小猿めを倒すことは敵わなかったのだから。むしろよくやってくれた。なにか褒美をとらせよう》
するとクラークさんは首を横に振って拒否した。
「それでしたらあちらの彼女に――私は元々闇を打ち払うべく洞窟に参上したまでのこと。聞けば彼女は貴方の仲間に耳を傾け、苦しむ貴方を救うべく駆けつけた勇気ある救世主なのですから」
《それもそうじゃの。……ええと人間の娘らよ》
「あっ、はい」
《そなたらには何と礼を申して良いかわからぬ。我が一族はこの恩を一生忘れはせぬ。一族より代々伝わる秘宝を、受け取ってはくれぬか》
そういうとボスさんは何やら小さな青い宝玉のようなものを手渡してきた。
「そ、そんな大切なものを……」
《今はこれしか出来ぬが、そなたの旅路にもきっと役に立つであろう。儂らが一族が常にそなたと共にあらんことをどうかお忘れないでいただきたい》
そうしてイエティさんたちビッグフット一族に伝わる秘宝を受け取り、私たちの100Gを求めていた旅路は幕を閉じた。
大勢のビッグフットさんに見送られて洞窟を抜けると、クラークさんとも別れる事になった。
「私も付いて行きたいものですが……私にはこの聖剣より与えられし使命がありますので」
「あっ、あのすみません色々と。それで――貴方のお名前を、フルネームで教えていただけないでしょうか」
私の出した懇願にクラークさんは一瞬不思議そうな顔をしたが、すぐに笑顔で答えてくれた。
「私はクラーク・アンドリシア。……貴女は」
「私はミランダ。ミランダ・クロスフィールドと申します」
「そうか、ミランダさん。また運命の導きがあれば――」
そう言い残して彼は雪景色の中に消えて行った。
――思い出した。クラーク・アンドリシア。
彼はこの『ファンタジア・クロニクルクエストⅥ』の原典版発売の数年後に誕生した海外移植版の追加ストーリーで登場するキャラクターだったということを。
私は震えた。
これまでいくつも浮上してきた不可解な点。
それらを全て結びつけるように一つの結論が導き出せた。
つまりこれは――この世界は、移植版の要素を引き継いだ全く新しいストーリーの可能性があるということだ。




