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プロローグ:『彼女』との死別

「それが貴様らの限界だ――人間よ」


 魔に堕ちたるもの――グレイズ・ヘスフォードが闇の嘲笑を零す。


「ぐっ……! やめろ。やめるんだグレイズ!」


 銀髪の鋭い髪の青年が声を張り上げた。

 真っ赤に燃える瞳は、憎むべき諸悪の根源に向けて睨みつけられている。


 だが、威勢だけで彼の身体は思うように動かせなかった。

 彼の周りに張り巡らされた紫色の光を放つイバラのトゲは、彼を拘束するのに十分すぎる力だった。


 グレイズの足元から伸び出るそれは、彼はおろか彼の仲間たちにまで届き、縛り上げて動きを制限していた。


 やがてゆっくりとグレイズの白く冷たい手が、一人の女の頬にかかる。

 女も青年の仲間であったのか、彼の魔の手が差し掛かると、酷く激しく動揺していた。

 怒りに震える拳が、彼女にかけられた毒牙に届くこともなく、時は刻一刻と悲劇に向かい無情にも過ぎていった。



「よく見るがいい。貴様ら愚かな人間が、いかにして死にゆくのかを。その目でじっくりと焼き付けるがいい」


「――っ! やめろ! やめろぉおおおグレイズ‼︎」


「お、おい嘘だろ! く、くそぉ……抜けねぇ!」


「何する気なんだ! やめてよ!」




『――ミランダ!』



 3名の仲間たちの呼びかけも虚しく、彼女はグレイズによって宙にその身を浮かされてしまっていた。


「大丈夫。大丈夫よみんな」


 そう言った彼女の顔は、苦しそうに笑っていた。

 抵抗しても無駄だと悟っていたのか、そんな気力すら残されていなかったのか。


 彼女は現状持てる力の全てを、仲間たちに向ける笑顔と言葉に注いでいた。


「私、信じてるから――。みんながいつか悪いやつをやっつけて世界に平和をもたらしてくれるって。だから笑って! そんな悲しそうな顔してたら、幸せが逃げちゃうよ! みんなはこれから生き残って、私の分までゼッタイ幸せになってもらうんだから!」


 そう言い残した彼女は、これまで見せた中でとびきりの笑顔を浮かべていた。

 その表情に、一片の悔いも恐怖も感じられなかった。


 全てを伝え、満足した事を確認すると、グレイズの凶刃が彼女の心臓を貫いた。



「あ……あ、あぁあああ‼︎ ミランダァァア‼︎」


 彼女は生前浮かべた笑顔のまま――、突き刺された箇所から真っ赤な生命を垂れ流して倒れ込み、そのまま動かなくなった――。



「哀しむ必要はない。これからお前たちも、彼女もみんな一つになる。人智を越え、究極の力を手に入れたこの私とな」


「貴っ……様ぁあああ‼︎ グレイズ‼︎ 俺は絶対に貴様を許さん! たとえこの身が朽ち果てようとも、何があっても貴様だけはこの俺が倒す‼︎」


「まだ理解らぬのか――愚かな人間よ。お前たち脆弱なる種は、偉大なるこの私と一つになる事で生命としての進化を、種としての壁を越え、その先にある到達点へと導かれるのだ。さぁ……お前も一つになれ、『双玉の勇者』よ――‼︎」


「黙れぇえええええええええっ‼︎」


 大切な仲間を殺された怒りと悲しみで、英雄は荊の鎖を解き放ち、魔のものと決戦に向かっていく。





 かくしてこれが、不運な彼女が辿った人生の壮絶な末路であった。


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