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110 女王の間

 女王の間は物音ひとつしない不気味な空間だった。

 人間が本当に住んでいるのかさえ怪しい。

 月の光で照らされていた塔とは一変して真っ暗で荘厳な世界だ。

 この国で最も権力を持つ女王の居住する場所だけあり、際立って豪華な洋装となっていた。

 青や紫に金があしらわれた壁や床。

 今にも何かが飛び出して来そうな血の凍る廊下であった。


 闇夜の中で目に悪い異質な紅色の蛍光色を放つ扉があった。

 魔法陣だ。

 ドアノブまで硬く締められており、この魔法陣をどうにかしないと入ることはできそうになかった。


「……やれるか」


 スラッシュくんはロシュヤさんの方を振り向いた。


「僕に指図するな」


 手にした邪の剣をちょんと突き立てると、封印の魔法陣は解かれていった。


「す、すごい……!」


「早く入ったらどうだ」


 彼はどうにも不機嫌そうに接していた。

 自分を戦争の道具として長年酷使し、意中のソフィアさんを苦しめている元凶の巣窟に入るなど、気が気でないのかもしれない。

 こちらとしても女王抜きでもあまり長居はしたく無い。

 何はともあれまずはオーブだ。

 それから可能ならば奪われた歴史書のページだ。

 封印がなされていた扉の先は、薄暗い埃の被った書庫のような場所となっていた。

 部屋の四隅にはうっすらとではあるが、蜘蛛の巣のようなものまで張り巡らされている。

 思わず咳き込んだりくしゃみをしそうになる顔を覆いながら、早速あちこちをなるべく静かに探してみた。


「うーん……なかなか見つからないですね」


 どれもこれも封印を施してまでの内容ではなく、単に女王様の所有物としての側面が強いだけだった。

 一通りの捜索を終え、諦めて部屋から出ようとしたその時――部屋の床に何かが飛び出しているのが目に入った。

 紙切れのようなもので、引き抜いて読むことにした。


『銀翼の大鷲と黄金の獅子の間に眠る』


 何かの暗号だろうか、スラッシュくんやレイブンさんにも見せてみたが、皆首を傾げるばかりだった。


「それはかつての王家を示す言葉だ」


 あまりにもわからないことだらけなのでと、ロシュヤさんにも聞いてみたところ、このような回答が返ってきた。


「その昔マギアージュには『金』と『知性』の二つに分かれた王家があった。一つはどこまでも貪欲であれ、もう一つは誰よりも賢くあれ――とね」


 歴史書にあった内乱の王家とはおそらくこの二つのことだろう。

 国の方針で揉めた末に国民まで巻き込んだ戦争にまで発展したという。

 その時、両家の間で生を授かったのがマギア国王である。

 『金』と『知性』。両家の特性を兼ね備えたものが、新たにこの国を一つにしたのだ。

 しかしなんでそんなものが今になって……。


「へー。でも銀翼の大鷲っていうならさ。あれなんてそうじゃない?」


 レイブンさんが指さした方向には、鳥のようなオブジェクトが設置されていた。

 色こそくすんでいるが、おそらくあれが『銀翼の大鷲』であろう。


 ならば『黄金の獅子』――もどこかにあるはずだが……。


「それってこれのことじゃないか?」


 今度はスラッシュくんが本棚の中からライオンのレリーフを発見した。

 謎めいた文章の紙切れから考えて、単なる飾りとは思えない。

 この二つの間に眠るもの……?

 でも机しかないし……。


 そう思ってうっかりライオンの頭部に触れると、その両目が緑色の光を放ち、テーブルの中央に向かって光を集めた。

 やばい。なんかやばいぞこれ。

 しかし光が注がれただけで、物が焼けたり何か見つかったような痕跡はなかった。

 ということは。


「レイブンさん。あっちの鳥の像にも触れませんか?」


「やってみるよ」


 足りない身長を必死で背伸びしながら補い、ようやく鷲の像に触れた。

 鷲の方も目から光を放ち、赤と緑の光線が中央に混じり合った。

 すると机の下にある床の方が開き始め、中を覗き込むと箱のようなものが発見された。


「あ、開かないです……!」


 なにやら力ではどうにもならない『何か』が働いているようだった。

 試しにロシュヤさんの剣の柄で箱に触れてみた。

 先ほどまではぴくりともしなかった蓋が動くようになり、ようやく中身を拝むことができた。


「あった……! これが歴史書……!」


 間違いなく歴史書から破り取られたページの断片であった。

 じっくり眺めていたかったが、早々に蓋を閉めて本命のオーブを探しに部屋を出た。

 この部屋以外にも扉に魔法陣が仕掛けられている部屋がいくつもあり、各地回ってみたもののオーブらしきものはなかった。

 最後に訪問した場所こそ、女王の座る玉座のある空間だった。

 この部屋だけさらに強固な仕掛けが施されており、足元にまで魔法陣が展開されていた。

 無論あらゆる魔法を無効化する邪剣を持つロシュヤさんの敵ではなかったが。


 女王こそいなかったが、その空間は謎の威圧感と息苦しさが充満していた。

 まるで何者かに行動をみられているような。


 とりあえず私は目につくタンスやクローゼットなどを手当たり次第開けてみた。


「おや……なにかありますね」


『レースの下着を手に入れた!』



 …………。

 これはあれかな。女王様のそういうあれなのかな。

 開けてしまったクローゼットをそっ閉じし、スケスケの黒下着を戻していった。

 ここにオーブを隠していると思ったのに。

 しかしまたチャンスはやってきたようで、レイブンさんが玉座周辺を散策しているとこちらに向けて大きく手を振ってきてくれた。


「オーブ、あったよ!」


 彼は小声で叫んだ。

 その手には紫色の大きな球が握られていた。


「やりましたね! ……さっ、早くここから出ましょ――」


 その時突然ガタンという大きな音が響き、消えていたはずの燭台に火が点り始めた。


「な、なんだ!」


「おやおや。こんな時間に誰かと思えば新米兵士の皆さん……それと黒騎士様ではありませんか。こんなところで一体何を?」


 そこに立っていたのはサイオンさんだった。

 まさか橋での会話を聞かれていたのだろうか。


「くっ! やはりお前たちがつるんでいたんだな!」


 ロシュヤさんは激しい憎悪に満ちた表情でこちらに迫って来た。


「な、なんのことですか!」


「そうだ。それに俺たちがあんたを騙すメリットがない」


「うるさい! デタラメを言うな! どうせお前らも僕とソフィアをはめるためにわざわざこんな真似を……!」


「ははははは。これは愉快愉快。仲間割れですか、そうですか。……しかし女王様の聖域を荒らした罪は重い……魔法王国の兵士として、ここにいる全員始末させてもらいましょうか」


 そうして彼は全身から無数の魔法陣を発動させ、私たちに向けて攻撃を開始してしきた。

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