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106 勇者と黒騎士さん

「なんだ……誰かと思えばサイオンの手足か」


 ロシュヤさんは私を一瞥してすぐにそっぽを向いた。

 私のことなんてまるで相手にしていない感じだった。

 負けじと私も会話を試みて近づいた。

 すると彼は横目で視認すると手を突き出して拒絶した。


「僕に……関わらないでくれるか。キミは魔法使いなんだろう。国のためにせっせと頑張っていればいいさ」


「あの、ちがうんです。私……ロシュヤさんに協力したいんです」


「何?」


 彼は重々しい音を立てて甲冑ごと振り返った。


「キミに僕の何がわかるっていうんだ!」


 激昂するロシュヤさんの顔つきは漆黒の兜で隠れてはいたが、仮面の奥底で揺れる赤い光が見える。

 よく見ると隙間から瞳のようなものが睨みつけているのが分かった。

 ……会話だけ聞くとスラッシュくんと良い勝負なぶっきらぼうぶりだ。

 光を纏う勇者である彼とは対照的な存在だ。

 今にも掴みかかってきそうなロシュヤさんに怯まず私も返した。


「戦争を止めたいんですよね? そして、ソフィア様と一緒に……」


「……キミも聞いていたのか」


 一瞬彼は後ろに下がったが、仄見える歯は食いしばったままだった。


「だったら何だっていうんだ。所詮キミもいいように使われるだけの兵士なんだろう。キミなんかじゃ何もできやしないのさ。……もう帰ってくれ」


「ま、待ってください。私も1人ってわけじゃないんです。私の仲間も一緒になってここに来てるんです! 兵士になったのは……この国で調べたいことがあるからです」


「調べたい事?」


 その場を去りそうな勢いだったロシュヤさんは、その足を止めて私の話を聞いてくれた。

 私は勇者スラッシュくんの事まで、包み隠さず彼に打ち明けた。

 それを聞いて彼はそれまでと顔色を変えていた。


「……信用できないな。もし本当だと言うなら、ここにその勇者とやらを連れてきてくれ」


「わ、わかりました。ちょっと待っててください!」


 ロシュヤさんを後にして私はスラッシュくんを探して第1隊のいる場所に向かっていった。

 と、いってもどこにいるのかはわからない。

 手当たり次第解錠しまくって探していくのみだ。


「てうわあああっ! な、何でこんなところでお風呂に入ってるんですか!」


「あー悪い鍵かけるの忘れてた?」


 どう見ても本やら観葉植物やら置いてある、浴場とはかけ離れた空間でその人物は優雅にもお風呂タイムを楽しんでいた。

 格好からして兵士だった。

 甲冑のマスクだけ外さず他は全裸で入浴していた。

 私は目を逸らしつつも事情を説明した。


「グレンさんのいる部隊は2階にある黒い縁の真っ赤な扉が目印だよ」


「あ、ありがとうございます!」


 早急に扉の鍵を閉め、全速力で2階へと走った。

 やがて黒い縁の赤い扉が目に飛び込んできたので、私は止まる事なく扉を開いて入った。


「ふんっ! ふんっ!」


 そこには絶賛トレーニング中のグレンさんが汗だくになっていた。

 なんかこういう扉ハプニング系が流行ってるんじゃなかろうか。

 部屋に入ってきて私を見て、グレンさんはトレーニングを中断してやってきた。


「なんだシュタールのか。4番部隊が何の用だ。今忙しいんだ」


「あっ、えっとその……今日入ってきた1番隊の皆さんはどちらに……」


「ああ。それなら外で走らせているぞ。お前もやるか?」


「い、いえ。ありがとうございました……」


 なんだあれは。完全に脳筋部隊じゃないか。

 い、いやきっとあれだろう。

 魔法使いは魔法が使えない時はクソザコな問題を解決するために、身体能力向上のために日頃からトレーニングを続けているというアレだろう。

 2階から覗いてみると、本当に魔法使いたちが息を切らして走り回っていた。


「う、うわぁ……初日からスパルタだなぁ……」


「何してるんだミランダ」


「うわあああっ! す、スラッシュさん⁉︎ びっくりしたぁどうしてここに!」


「いや。一通り走り終わったので隊長殿に報告をな」


 たしかに彼の額からは大量の汗が滴り落ちていた。

 他の兵士はまだ走っているというのに、一番乗りで終えてくるとは流石は勇者である。


「じゃあ早速で悪いんですけどちょっと着いてきてもらってもよろしいですか?」


「あぁ。それは構わないが……どういった事だ?」


「スラッシュさんの勇者としての力が必要というか……」


 そこだけ聞くと彼は「行くぞ」と頷いてそれ以上は聞かずに走っていった。

 こういう素早い決断と行動ができるところがすごい。

 そうしてさっきの場所まで戻ったはいいが、なんとそこにロシュヤさんはいなくなっていた。


「あ、あれ! おかしいです! さっきまではここにいたのに!」


 ともすれば私が騙しているとさえ思われてもおかしくないシチュエーションだったが、彼は真剣な顔つきで捜索に協力してくれた。


「手分けして探してみよう」


 そうしてあちこち見て回ったものの、黒い鎧姿はかけらも見つからなかった。


「そ、そんな……せっかくここまできたのに……」


 仕方なく帰ろうとしたその時、背後から声が聞こえてきた。


「全く。とんでもないお人好しなんだなキミは」


「ロシュヤさん! ああ、よかった!」


「ふん……彼がその勇者かい?」


 ロシュヤさんとスラッシュくんは互いに睨み合った。

 並んでみるとスラッシュくんの方が身長が低く感じるが、実際は甲冑の靴底分ロシュヤさんが盛られているので、スラッシュくんの方が高い。


「もしキミが勇者というなら……その力を見せてみろ!」


「……!」


 そうしてロシュヤさんはいきなり黒刀に手をかけ、スラッシュくんに向かって斬りかかっていった。

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