104 魔法王国の隊長さんたち
その日の眠りは浅く、早めの起床してしまった。
「ふぁあ〜……眠れなかったのに眠いです……」
《おはようございますマスター。今日は早起きですね!》
ここまで留守番になっててすっかり存在感を失っていた妖精さんが目覚めのスマイルを向けてくれた。
そういえば彼女、連れて行くことはできるんだろうか。
ローザちゃんみたく召喚獣……なんて扱いにはならないけど。
また私の部屋の荷物番として一人お留守番させるのは忍びない。
紹介してダメだったら申し訳ないけど宿屋にいてもらおう。
「うーん……まだ眠ぃですよ」
またジーカちゃんを巻き込んで早起きさせてしまった。
あれ相部屋だったっけ。
まぁいいか。
朝の準備を進めた後、日が出るまでの間シャワーを浴びてからゆっくり寝転んでいた。
やがて続々と人の生活音が聞こえてきた頃合いで、お部屋のノックを上品に叩く音が響いた。
さて、誰だ。
マックスさんではない。マックスさんはもっと「ごんごん」みたいな感じだ。
スラッシュくんは基本ノックしない。
レイブンさんは一回しかノックを行わない。
ということは――ローザちゃんか。
拳は少女のもので、音は軽く木の扉を鳴らす程度。
「ローザちゃん?」
「……よくわかったわね」
私の印象的に起きているとは思っていなかったらしく、起こしにサプライズしたはずなのだが、名前まで言い当てられたことで少々動揺しているようだった。
二人とも準備万端だったので、朝食をいただきに下の階へ降りていった。
「あらおはよう〜ミランダちゃんにローザちゃん。それと龍人ちゃん」
「えええ⁉︎ ラフィーゼさん⁉︎ どうしてここに?」
「……昨日飲んでいる時に押しかけてきたんだ」
寝不足気味に目に隈を浮かべたスラッシュくんがボソッと言った。
私たちが女子会に乗じていた頃、男子会なる飲み合いイベントが発生していたようで、男子どもは私以上に眠れていない感じだった。
待機のマックスさんやジーカちゃんはともかく、これから王宮に向かわねばならないレイブンさんとスラッシュくんにとっては地獄であることは想像に難くなかった。
眠気をおしてまで厨房に立つレイブンさん……料理人の鑑です……!
「あ、焦げたかも」
前言撤回……!
すみませんが、しばらく寝ていてください!
しかし厨房裏から聞こえた不吉な発言の数々とは裏腹に、朝食は耽美なるものだった。
特にカリカリのハムサンドエッグトーストは、私の身体に快適な朝を告げるに相応しい一品だった。
「ん〜美味しいわ〜レイブンちゃんの料理〜いいお嫁さんになれるわよ」
「なる気もないよ。あと帰ったら? 僕たちこれから行くわけだし……」
「冷たいじゃない! アタシたちもう仲間じゃない!」
えっ。もうそういう話が上がっていたのか。
「違う。こいつが勝手に……」
「スラッシュちゃん⁉︎ アタシは忘れてないわよ! アナタがかけてくれた熱い仲間宣言を!」
「記憶にない」
「そういう逃げ方するわけ? 絶対ロクな死に方しないわよ!」
ダンダンと机を叩いて抗議していたラフィーゼさんをガン無視してスラッシュくんは「行くぞ」とぶっきらぼうにつぶやいた。
昨晩何が起こったかは知らないが、大丈夫なんだろうか。
私たち3人とローザちゃんはラフィーゼさんに「いってらっしゃい」と見送られながら、兵士服に着替えてマギアージュの城へ向かっていった。
「なんかこの服動きにくいしダサくて嫌いなのよね」
しきりに服をつっつきながらローザちゃんがため息をこぼしていた。
これでも一介の兵士が着用するには十分すぎる機能性とデザインだったのだが、世界中にその存在を轟かせたいアイドル系気質の彼女にとっては物足りないようだ。
城門に立ち塞がっていた兵士が、私たちの姿を視認するとさっと引いていった。
「報告にあった新米兵士だな。おめでとう。さっ、まずは2階の広間に集合しろ。サイオン様がお待ちだ」
そうしてたどり着いた正門はとにかく広い空間だった。
そこかしこに魔法陣が点在してるばかりか、宙に浮かぶ燭台や魔導書など、魔法王国の名をほしいままにしている世界だった。
城内だというのに、魔法の絨毯で空を飛ぶものまでいたのだ。
私は面食らって足が止まってしまっていたが、ローザちゃんは別段珍しくもなんともないような面構えできびきび進んでいた。
西大陸では当たり前の光景なのだろうか。
ようやく見つけた階段を登っていくと、見慣れたお方が堂々と立ち尽くしていた。
「やぁ。諸君らで最後になるな」
その場には私たちの他にも合格を果たしていたと思わしき新米の皆さんが集結し、列をなしていた。
せかせかと私たちもその中に入っていった。
全員がきちんと整列を済ませた段階でサイオン様が口を開いた。
「ようこそマギアージュ王国へ! 今日から君たちは我が国を守る同士だ! 選ばれたその魔法の力で、王国兵団の一員として存分にこの国の未来に貢献するといい! さて、そうは言っても君たちはこの城ではまだまだ見習いの域を出ぬひよこも同然! これから君たちは各部隊に入ってもらい、それぞれ隊長の指示に従って色々と経験を積んでもらう!」
彼が手をかざすとカーテンが開き出し、そこには4名の荘厳な格好をした方々が横一列に並んでいた。
「まずは1番隊を司る特攻隊長、グレン・ブレイズだ」
紹介にあったグレン隊長は全身金色の鎧に身を包んだ老齢の兵士だった。
しかし彼も映えある魔法王国の一員だ。当然剣ではなく魔法を扱うのだろう。その証拠に彼は剣らしい剣を一切身につけていなかった。これは他の隊長も同様であった。
「よろしく頼む。……最初に断っておくが、俺は貴様ら小兵どもをサポートする気などは一切ない。生き残りたければ死ぬ気でやれ。以上だ」
低く渋い声から放たれた熱血コーチ宣言に、一同がざわついた。
初っ端から魔法王国兵団の厳しさを感じていたのだろう。
1番隊だけはやめよう。やめたくてやめられるものじゃないが。
なんかうさぎ飛びで城下120周とかさせられそう。
「次に2番隊で紅一点の隊長、グローリア・ミサイだ」
「よろしくねぇ〜。みんな仲良くしてねぇ〜」
地面に垂れ落ちるほどの長髪が青々しく、眠そうな垂れ目ととぼけた声をしているお姉さんだった。
お乳が惜しげもなく主張しておられるセクシーな服装だった。
紅一点ということもあってか、新米兵士(特に男性)の声が大きく上がっていた。
全く。すぐあーいうのに鼻の下を伸ばしおってからに。
あんな一見冴えないなりをしていても、魔法の力は抜群なのだろう。
彼女が前に出た瞬間から、なんだか近寄り難い謎の威圧感を感じた。
「そして堅実を誇る3番隊のリーダー、アルフィス・ラング」
「よろしくっす。みんなわからないことがあったらバシバシ聞いてほしいっす」
堅実を謳われるだけあって、髪型はぴっちり整ったおかっぱで、服装もしゃきっと乱れることなく整っていた。
緑の瞳と髪色で、常に笑顔の明るい雰囲気が漂っていた。
こういうのに着いていくのは安心するだろうなあ。
「そして最後に魔法オタクの第4隊、シュタール・レンだ」
呼ばれた彼は前に出ようとした瞬間、何もない地面に躓いて転び、ずれた眼鏡を直していた。
「ど、どうも。私がシュタールです。と、特技は魔法で趣味は魔法です。みんなと一緒に頑張りたいれす」
緊張のあまり震えていた彼は最後に噛んでしまっていた。
頼りなさげな彼を見て、どっと広間が湧き上がった。
……半分バカにしてるような笑いだったが。
大丈夫なのか第4隊……。
というか、今サイオン様から公式にオタク呼ばわりされてなかったかこの人。
薄ら笑いを浮かべながら彼はまた持ち場に下がっていった。
「そして私が魔法兵団を束ねるサイオン・アルヴィナードだ。さて、それではいよいよ諸君らの所属となる部隊を発表する!」
こうして私たちは全員バラバラに隊入りを果たすことになり、スラッシュくんはグレンさんの第1部隊。
ローザちゃんが紅一点の隊長のいる第2部隊に。
レイブンさんが堅実の第3部隊。
…………そして私が頼りないシュタールさんの第4部隊となった。
オチ要因私⁉︎
ていうか私の部隊だけやたら人少なくない⁉︎
それぞれ思うところはあったが、一先ず私たちは各隊長さんの指示に従って部屋まで向かっていった。




