103 男子会です……?!
「ひどいじゃない! アタシとあんなことまでしておいて、忘れたとは言わせないわよっ!」
「お、おい! 誤解を招くような物言いをするな!」
泣き顔になって必死でスラッシュの腕に掴みかかってきたのはラフィーゼだった。
ふらふらと歪んだ足取りで勇者の足に交差させていた。
「なんだ。また妙なやつに絡まれてんのか」
「誰がオカマの変なやつよ!」
「……誰もそんな事言ってねぇよ大丈夫か」
マックスの二の腕に囲われ、彼は回る目を押さえてその場に座り込む。
ミランダが満腹になってお風呂場に赴いた時、まだ食事を続けていた2人は、窓から見えた存在に寒気がして余所見を決め込んだのだ。
しかしラフィーゼは酔いが回った頭ながらも共に戦った2名を視認すると、窓を突き破って宿屋に訪れたのだ。
当然スラッシュとレイブンは知らん顔をした。
が、彼の熱烈なスキンシップによって無駄骨となった。
飲み続けるラフィーゼをマックスは止めていた。
「ジャンジャン飲むわよ! スラッシュちゃんにレイブンちゃんのお祝いとアタシのやけ酒よ!」
「なんだか知らねえけどまあ楽しんでいこうぜ」
「お、おいマックス」
「来るものは拒まずだぜ」
「やだ〜超男前じゃなーい。キスしてあげる」
「寄るな。俺にその気はない」
力のあるマックスさえ無理やり押し倒す勢いで彼は口付けをしていた。
酒のせいではなく、純粋な吐き気を催させていた。
みかねたジーカが食卓を後にした。
「あっ、ねぇ待って。あの子何? もしかして龍人……だったりする?」
「あぁ。それもガルガンドラ様からの一級純正品」
「えやだー! 嘘でしょ? またまたそんな事言ってぇ。もー。アタシをからかおうってワケ? だって西大陸からあっちはものすごーく離れてるし、あっちの龍人さんたちは人間を毛嫌いしてて、向こう100年は下山していないって話よ?」
「ま、事実ってのは伝承よりも奇なりってこった」
お互い飲酒によってある程度仲良くなってきたのか、マックスとラフィーゼは楽しく会話をしていた。
スラッシュはその後信じられない光景を目の当たりにして口の中の飲料を全て吐き散らした。
「ちょっと汚いわよ!」
「お、おいジーカ! ここで服を脱いじゃ――」
彼の抑制にも聞く耳持たず、ぽんぽんと勢いよく人前で裸になっていった。
そして浴室に向かって走り出していった。
残された仲間たちや、その場に居合わせた宿屋の客たちが一様に顎を外していた。
「や〜んツノとふさふさの毛がとってもキュート〜。やっぱり龍人なのかしらね。お祭りのカッコにしちゃ、気合い入りすぎだし? っていうかアナタたち、一体何者なの?」
「……俺たちはある物を探して旅をしている。それがこの世界に光をもたらす為に必要なものだからだ」
「じゃあやっぱりアナタ勇者なのねスラッシュちゃん」
「……ちゃんはやめろ」
照れ臭そうに銀髪の頭をガシガシ掻くと、彼はさまざまなことをラフィーゼに話した。
旅のことや道中の事件など、見てきたもの体験してきたこと全て。
なぜ彼がそうしたのか。
スラッシュの判断では、目の前のオカマ男は悪い人間ではないからだ。
彼はとても気遣いができ、スラッシュらに限らずいろんな人に親切にしていた。
悪事を働くような輩には見えない。
彼に全幅の信頼を寄せ、自分たちの理解者になってくれるかもしれない。
と彼は考えていたわけである。
ラフィーゼは何度も相槌を打ちながら、パーティーのこれまでの旅路をなぞっていた。
「そうだったのね。……闇魔法の使い手か。実を言っちゃうとアタシもね、故郷を焼かれて逃げてきたのよ」
「……グレイズにか!」
「うーん。でも多分そういうことなんじゃないかと今なら思うわ。突然狂ったように力を求め始めた村長さんに、黒い謎の魔法、それに頭に聞こえてきた〝声〟」
「声?」
「ええ。故郷が焼かれるほんの少し前にね、この世のものとは思えないおぞましい怨嗟の声が聞こえてきたの。――みんな死んでしまえってね」
その時は村長の声だったのかもしれないと、彼は推察していた。
昔は民からも慕われており、心優しく生真面目な性分だったそうだ。
ところが、突如王国軍――かつてのマギアージュが進撃してきた際に、村長は民を代表し捕虜として捕らえられた。
それ以来、彼は人が変わったように異常なほど「力」を欲するようになったという。
欲望の行き着く果てに掻き乱された心、狂い始めた精神からとうとう村全体に火を放つという凶行までやってしまった。
その際、彼が使っていたのがその黒い魔法。
話を統合すると、ガルガンドラでグレイズが使っていたものと同質のものである可能性が浮上してきたのだ。
それを聞いた一行は目の色を変えてラフィーゼの話に食い入っていった。
「もしかしたら――アタシとアナタたちの目的って共通してるのかもしれないわ」
「……なあラフィーゼ。お前は兵士になってどうするつもりだったんだ。まさかとは思うが、その時の事について調べようと?」
「ええ。そのお察しの通りよ。ただアタシは復讐なんて野暮な真似をしようとは思わないわ。……あの日何が起きてしまったのか、村長さんにどんな変化があったのか、全て知りたいだけよ。それがただ逃げ回ることしかできなかったアタシの、無念のうちに死んでいったものたちへできるせめてもの罪滅ぼしよ」
「そ、そんな罪だなんて……。ラフィーゼさんのせいじゃないっていうのに……」
レイブンが苦虫を潰したような顔で彼を見ていた。
「ありがとう。……でもこれはケジメなの。じゃないとアタシ、いつまでも過去と決着をつけられないでズルズル引きずってしまうわ。そんなのアタシらしくないもの。――負けておいてこんなこと頼める義理じゃないってのは分かってるけど、もし何かアタシの故郷について何かわかることがあったら、可能な限りで良いわ。どんな些細な内容でも構わないから、アタシに教えてほしいの」
彼は真剣な顔つきで頭を鋭角に下げた。
それを見たスラッシュが肩を叩いた。
「顔を上げてくれラフィーゼ。そこまで聞かされれば助けるには充分だ。俺たちに任せてくれ。必ずあんたの故郷について調べてみせる。約束だ」
スラッシュがそう言うと、彼は恍惚とした表情で頬に手を置いた。
「いやだ〜! す・て・きー! マジ惚れしちゃうかと思ったわ〜。ありがとう!」
「…………すまない、今すぐ訂正させてくれ」
「なんでよ! 失礼しちゃうわね! ムキーっ! ……ほら飲み直すわよマックス!」
「えっお、俺かよ!」
こうして男どもはひたすら夜が明けるまで飲み続け、語り明かした。
就寝時間もとっくに過ぎ去った頃にも、彼らはどんちゃん騒ぎで笑い合い、意識が無くなるまでそれらを続行した。




