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101 私とローザちゃん、お風呂で仲良しです!?

 意気揚々と開いた風呂場に立っていたのは、思いもよらない人物だった。


「あっ」


「あっ」


 お互いがお互いの顔を見て素っ頓狂な声を上げた。

 彼女は私と一戦交わったローザ・アインハーツちゃんだった。

 カッコいい魔導着らしきものを脱ぎ捨て、今まさにお風呂に入らんとしているところだった。


「ご、ごめんなさい」


 何故か謝ってしまった。

 こういう場面でなんて言うのが正解なのか分からないけども。

 しかし彼女は私をみるとメラメラと怒りを露わにしていた。

 というか、まさか同じ宿屋だったとは。


「私はですね! 絶対負けを認めませんからね! 今ここでもう一度勝負しなさい!」


「わっ、ちょそんな……そんなすっぽんぽんで……しかもみんなのお風呂で戦うなんて……!」


 私は至って正論だった。

 すっかり酔いはほどほどに収まっているようだったが、かつてのクールなローザちゃんの姿はどこにもない。

 ……うんクールだった……か?

 いやでもまあまあ理知的で荘厳な雰囲気だったぞ。

 それが今やうら若き女体を曝け出して素っ裸で凄んできてるなんて。

 とりあえず前でも隠してくれ。私の目のやり場がない。


「なんでやがりますかてめーら」


 そこに現れた更なる裸族の刺客はジーカちゃんだった。

 いくら龍人で人間の女の子とは肉体が違うとはいえ、銭湯入る前から全裸でやって来たというのかこの猛者は。

 ここ脱衣所なんだからここで脱ぎなさいここで。


「何この子……龍人? ……まさかね。龍人がこんなところでのんきにお風呂浴びに来るわけがないもの」


「そう思うのは勝手でやがりますが、ジーカは正真正銘の龍人ですますよ。ていうか裸で何やってんですか。風呂にも入らねーでそんなとこにいると風邪ひきやがりますよ」


「あんたにだけは言われたくないわーっ!」


 こうして3人仲良く(?)お風呂の中に入っていった。

 なんか奇妙な組み合わせだ。

 どちらも私と最初は敵対していたって共通点はあるけど。


「はぁ〜……やっぱ汗かいた後のひとっ風呂は良いわね〜」


 世界で一番そんな風呂好きっ子なセリフが似合いそうにないローザちゃんがそう言っていた。

 彼女は、それはもう心地良さそうに首まで浸かって顔を真っ赤にしていた。

 ちょっと意外だった。

 もっとこうサバサバとした高潔〜なお嬢様かと思っていたからだ。


「そうですね」


 合わせて私も笑顔で返す。

 しかし彼女は私を目の敵にしてるのか、ぎっと睨み返してきた。

 こ、こらこら。せっかくの乙女が台無しだぞ。

 ぐるぐる唸った後はふしゅーと息を吐いていた。犬か。


「認めないわ。大体なんであんなにすごい魔力を持ってるのにわざわざ兵士なんかやってんのよ」


「えっ、そ、それはですね……えっと……」


「別にあんたに関係ねーですよ。ジーカたちにはジーカたちの目的があるんですよ。ねっミランダ」


 じ、ジーカちゃん……。

 そんなバッサリざっくりと言わなくても……。

 「ねっ」て言われましても……。


「何よ。もったいつけてないでさっさと白状しなさいよ」


「え、いやあのだからその……」


「そもそもあんた何でやがりますか。ジーカとミランダは仲間ですが、あんたはミランダとどういう関係なんでやがりますか」


「ふんっ。別にあんたには関係ないわよ」


「この女嫌な奴です」


「お互いにねっ」


 喧嘩腰に聞こえやすいジーカちゃんの口調と、強気な魔法娘は相性がお悪いようだ。

 湯の中で煙に包まれながら互いに火花散らしあってるし。

 ここは私が2人の間に入って宥めなくては。


「も、もう〜怒っちゃダメですよ。せっかくのお風呂なのに。ね? ……もふもふ!」


「わっこらだからそれやめろって……あはっ、ははは!」


 お湯に湿ったジーカちゃんの頭の裏をわしゃわしゃーっとやる。

 さっきまでむっつり顔だった彼女の顔がくしゃくしゃになって涙を浮かべて大笑いしている。

 スマイルですよスマイル。

 世の中笑顔でいれば怖いものなんてありませんから。

 敵わなくなって水に逃げ込んだ彼女の後を私も潜って追い、再び後頭部わしゃわしゃの刑にした。

 思わず鼻に入ってしまったお湯をげほげほと吐き出しながら、笑いながらですっかりぐちゃぐちゃになっていた。


「そんなにもふもふしてるの?」


 やがてお嬢様も食いついて来た。


「こ、こらバカやめるです! あははは!」


「なによ。この程度ならうちのフェンリルの毛皮のがよっぽどもふもふしてるわよ。『召喚魔法』!」


「えっ、えっ⁉︎ ちょ、こんな湯の中で!」


 しかし彼女は裸のまま魔法陣を展開し、大きくて白い獣を呼び出した。


「な、なんでやがりますかこの犬みてーな化け物は!」


《犬ではない龍の小娘! 私はフェンリルだ》


 熱々の湯の中にいてフェンリルさんは大丈夫だろうかと心配したが、すぐにそれが杞憂だとわかった。

 というか、フェンリルさんが出現してからお湯が急に冷え切ったみたいに寒くなった。

 思わず湯から抜け出した私に、ローザちゃんが得意げな顔をした。


「ほら。もふもふしてるでしょ? 触ってみるかしら?」


「い、いいんですか……?」


《……主殿、こんなくだらない事で私を呼ぶんじゃない》


 若き乙女たちの素っ裸を眺めても、推定オスそうなフェンリルさんはとくに何もリアクションせず、呆れ顔で冷めた態度を取っていた。

 肝心の彼の毛は、熱々のお風呂で温められて火照った身体をひんやりとさせてくれる柔らかいもので、本当にもふもふとしていた。

 ふさふさとした毛並みは触り心地抜群であり、質の良い毛布を撫でているみたいだった。もふもふ!


《おいこら娘! 変な触り方をするな!》


「すごいです。本当にもふもふしてます!」


《聞いているのか。こ、こらやめろ娘っ。顔を埋めるな! 尻尾を触るな!》


「ちょっと! アルフは私の召喚獣よ。触りたいなら私の許可を取りなさい」


「触ってもよろしいですか?」


「いいわよ」


《ぬ、主殿ぉーっ‼︎》


 私の手に――いや全身によってもふられていく上級召喚獣さんを、自分がかつてそうされていたのを眺めるようにジーカちゃんはにやにやとしていた。


 もふりまくって遊びまくった私たちは、興奮も体温も冷めないうちに身体を洗い流し、ポカポカの状態でお風呂を出た。


「ちょっと待ちなさいよ」


 部屋に帰ろうとした私の手を、ローザちゃんが引き留めた。


「少しくらい寝る前に私の部屋に寄って行きなさいよ」


「えっ、いいんですか?」


「勘違いしないでよ。少しあなたに聞きたいことがあるだけだから」


 なんだその謎ツンデレは。

 今更体裁を保とうとしても無駄であるぞお嬢様。


「ほんじゃお構いなくです」


「ちょっと! あんたは入れてあげるなんて言ってないわよあ、こら勝手に入るなー!」


「あはは……」


 とりあえず断る理由も特にないので、私は彼女の泊まる部屋に入っていった。



《……あの、いい加減帰りたいのだが主殿よ……》

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