100 私たち、お疲れ様でした!!明日に備えます!
「勝ち残った4人って……」
当然それは私とスラッシュくん、それにレイブンさんとローザちゃんのことだった。
ここまで実力者揃いの強豪トーナメントを勝ち進んできた真の精鋭ばかりだ。
ローザちゃんはともかく、他2名は私の仲間なのだ。
まともに戦ったことなんて一度もない。稽古すらしたことがない。
オロオロと戸惑っている私に、サイオン様が不敵に微笑んだ。
「案ずるなミランダ・クロスフィールド。この勝負の結果で貴女の合格を取り消したりなどしない。貴女ほどの才能ある魔法使いを門前払いしたとあっては、王国魔道士として私の立つ瀬がない。無論キミたち4人もな」
彼は悠然と歩きながら私たちに語りかけた。
「だが今期で1番の魔法使いを決めるのもまた試験というもの。ここからはエクストラマッチというわけだ。合否には関わらないが、全員気を抜かず本気で戦って欲しい」
「私はそのつもりよ」
真っ先にサイオン様の元に足を踏み出したのは候補者きっての自信家、ローザちゃんだった。
彼女は戦いたくて仕方ない立ち振る舞いだった。
逸る彼女を宥めるようにサイオン様が手をかざした。
「やるしかないようだな」
強気な彼女に同調するようにスラッシュくんも前へ出て行った。
「え? なになにこれスラッシュくんたちと戦る流れ?」
「み、みたいですね……」
そうして4人がそれぞれ部屋の四隅に並ぶと、サイオン様が試合開始の宣言を行った。
最初に動き出したのはローザちゃんだ。
先の試合で展開したものより遥かに大きな魔法陣から、氷を纏った女神を召喚した。
人間らしからぬ青白い肌に、ほぼ剥き出しの乳房にヘソや腰の付近に氷のドレスを身につけており、背中からはクリスタル状の翼を模したものを生やしていた。
紫紺の双鉾に紫の唇、顔には他にも青色のフェイスペイントが刻まれていた。
「氷結の女神――スカジか」
サイオン様が食い入るように眺めていた。
神話クラスの霊獣を召喚できるなんて。
フェンリルをゆうに超える大きさの身体で、スカジは氷の翼で自由自在に飛び回っていた。
《ワタシを呼び出すとは、よっぽどの事ねローザ》
「力を貸しなさい。ここにいる全員倒すわよ」
《楽勝よそんなの》
「……くるぞ!」
彼女の放った息吹が周囲を凍りつかせる。
氷属性に完全耐性のある私が受けてもダメージを負ったところを見ると、一見氷だがその実無属性に近い特技だったらしい。
伊達に神を名乗っているだけのことはある。
だが氷の女神だというなら話は早い。
燃やしてしまえばいいのだ。
「『火魔法』!」
初級魔法フレアらしからぬ地獄の業火が氷の女神の身体を焼き払い、大きかった肉体の半分を失うことになった。
こういうのは通例召喚者を倒せば召喚獣も消えるものだが、まずは無属性ダメージを放ってくる厄介な彼女から倒す。
召喚魔法は強力な魔法故、そう何度も連発できるものではない。
再召喚の隙に魔法で攻撃すればいい。
一瞬で大部分を持っていかれてしまった女神は、よろよろと頼りなくふらついた。
「大丈夫?」
《な、なんなのよアイツ……あんな魔法受けたことないわ》
「油断していたつもりはないんだけどね……」
「俺のことも忘れるなよ」
すかさずスラッシュくんは弱点属性の炎魔法で追撃を行った。
が、そう何度も弱いところを突かれる神ではないもので、巨大な氷の盾を開いて炎をかき消した。
《もう炎は効かないわよ》
「なら光だ」
スラッシュくんは光魔法を両手から放ち、女神の盾を消し去った。
《嘘でしょ⁉︎ 今度は光魔法ですって⁉︎》
しかも盾を消しただけに飽き足らず貫通していたようで、彼女の胸部はそこだけ抉り取られたようにぽっかりと大きな空洞が開いていた。
更なる致命的なダメージを受けたことで、神話の女神は大きく後退すると消えかかっていた。
流石に相手が悪過ぎた。
「くっ。スカジ! エターナルサイクロンよ!」
《残った魔力をありったけ使わせてもらうわ!》
氷の女神は段々と小さくなってゆき、球体に姿を変化させた。
すると天に向けて無数の矢を放ち、風に乗せてそれらを降り注がせた。
「ぐあっ!」
スラッシュくんは盾で防ごうとしたものの、防具の一切を貫通する攻撃だったので、ダイレクトにその身を貫かれた。
レイブンさんもかわすことや避けることもできずに全弾直撃した。
ここ1番の大技を放ったことで女神は完全に消え去った。
残されたローザちゃんも激しく息を切らしていた。
「どうかしら……もう体力も限界でしょう?」
「ふー。恐ろしい技ですね……」
「な……⁉︎」
その場で立っていたのは私とローザちゃんだけだった。
驚いた表情で彼女は私を見つめてくる。
耐性も守備力も貫通するなんてとんでもない技だ。
並のHPならば消し飛んでいたことだろう。
しかしながら今の私はHP9999。
耐性をガン無視されたとしても充分耐えることができる。
「そ、そんな……嘘でしょ。私の最高の技を……!」
「じゃあお返ししますね。皆さんも巻き込みますが……『竜巻魔法』!」
そのトルネードはかつての大風などではなく、世界中の風という風を集結させた台風、大災害のような大嵐だった。
ローザちゃんは残っている魔力を使って氷の盾を開いていたが、それすら意味をなさなかった。
全てを飲み込み吹き飛ばしていた。
レイブンさんが倒れ、ローザちゃんも壁に激しく打ち付けられて気絶した。
勝負暖かに見えたが、まだサイオン様は宣言しなかった。
そこに立っていた最後のひとりはスラッシュくんだった。
流石は勇者様、主人公の意地を見せるふんばりだった。
ボロボロになりながらも彼の鋭い目は私の方へ真っ直ぐに向けられていた。
「ま……まだ終わりではないぞ……ミランダ!」
「スラッシュさん……」
彼は残された最後の力を振り絞り、光魔法を解き放った。
受け切ったり跳ね返すこともできる。
しかし私はそうしなかった。
彼のありったけの魔法を受けて倒れ込み、そのまま動かなかった。
サイオン様が手を挙げて叫んだ。
「勝者スラッシュ! 今期入団試験の最優良通過者はスラッシュ・バレンである! おめでとう!」
「……あ、ああ……」
しかし彼は困惑顔を浮かべていた。
サイオン様からの回復魔法を受けて、全員がゆっくりと起き上がった。
「おめでとうございますスラッシュさん」
「いやーおめでとう。やっぱり強かったねみんな。僕なんて何にもできなかったよ」
私たちがすっかり大団円のムードの中、悔しさで震えていたのはローザちゃんだった。
瞳の奥にはめらめらと炎を燃やし、悔し涙で潤ませていた。
私たちは何も言うことが出来ず、彼女を黙って見守っていた。
「さて、これで君たちは晴れて我がマギアージュ王国の兵士となる。各々がどの所属になるのかは明日発表となる。今日はここで泊まり込むもよし、自宅に帰るもよし。好きに解散してくれ」
サイオン様はそういうと、何かを思い出したように振り返ってきた。
「そうそう忘れるところだった。これが君たちに与えられる制服だ。明日の朝までに城へ来て、忘れず着てくるんだぞ」
「ありがとうございます」
受け取った制服は赤を基調とした金のボタンや意匠が凝らされた品のあるものだった。
ズボンは全員一様に白だった。
早速私たち3人はそれを着てみた。
全員きちんと着れていたようだったが、私のは少しだけぶかぶかとしていた。
「うむ。よく似合っているぞ」
そうして私たちは解散していった。
ローザちゃんだけはどこへいったか分からなかった。
だが彼女も制服を受け取ったので、必ず明日も来るだろう。
3人共に合格の報告をすべく、マックスさんたちの待つ宿に向かって行った。
◇ ◇ ◇
「じゃあ全員の合格を祝って〜カンパーイ!」
「カンパーイ!」
その晩の食事はお祝いのため豪勢なものだった。
コックとレイブンさんの共同作業によって、七面鳥やステーキ肉に野菜のシチューなど馳走の盛りだくさんとなっていた。
「めちゃくちゃうめーです!」
「おいおい。俺たちは留守番してただけだろうが……ったく。いやぁにしてもすげえなみんな。合格するとは信じてたけどよ」
「……かなりの強豪ばかりだった。正直誰が兵士になってもおかしくはない」
「そうなのか?」
「召喚魔法を使う人がいましてね……ローザちゃんって言うんですけど」
それを聞くとマックスさんが「ローザ?」と反応を示した。
「それならさっきあそこの席で名前を聞いたぞ」
「えっ⁉︎ 本当ですか!」
気になって隣の方の席に向かってみると、そこにはジョッキ片手に机へ頭をぶつけている銀髪の少女がいた。
「おいおいもう飲み過ぎだよローザ。悔しかったのはわかるが」
「こぉれが飲まずにいられるかってんだ‼︎ 私は認めないわよ絶対にぃ! 私がびりっけつだなんてぇ!」
……申し訳ない気持ちと息苦しさでいっぱいになって扉をそっ閉じした。
「どうだった?」
「何もありませんでした」
これは私の心の中にしまっておくとしよう。
彼女のイメージを壊してはならない。早急に忘れよう。
明日どんな顔して彼女と会えばいいのか分からなかったが、私たちは構わずご馳走にありついた。
すっかり傷も回復してお腹いっぱいになったところで、私はお風呂場に行くことにした。
今日の汗を流して明日に備えなければ。
祝・累計100話です。
皆さんの応援のおかげでここまでこれました。
これからも変わらずご愛読のほどをよろしくお願いします。




