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99 入団試験、終了です!!

「よーし。僕もみんなに続くことにするよ」


「アタシの分まで頑張ってねレイブンちゃん」


 ラフィーゼさんは別れ際に投げキッスをかますと、魔法陣の中に消えていった。

 戦う前にとんでもない置き土産を残してくれたなとレイブンさんは鳥肌を立てていた。

 彼の対戦相手はウォルツという老齢の魔法使いだ。

 とてもじゃないが現役で戦える兵士には見えないが、魔法とは歳を取って知識を蓄えると共に成長していくものなのだろうか。

 改めて見るとウォルツさんは衰えるどころか、全身活気に満ちており謎めいた圧迫感を放っていた。


「ふぃーやれやれこりゃしんどい戦いになりそうだわい」


「……ゼンゼンそう思ってない顔だよおじいちゃん」


 その実力はレイブンさんも認めるところがあったようで、口先ばかりだった新世代若者魔法使いたちと違い、観客の私にさえ底知れぬ力強さが伝わってきた。

 相手のペースに乗らせないと開幕炎魔法を放ったのはレイブンさんだった。

 ここまでそれなりに炎魔法を見てきたが、扱う魔法使いによってその威力や形状は実に千差万別だ。

 料理に用いることも多いレイブンさんの炎魔法は純粋に燃やす事に特化しているような感じであり、スラッシュくんのは剣の形で鋭く切り裂くことが出来る。

 クラークさんのも中々に殺意高めだったな。

 放たれた火炎がウォルツさんのローブの裾を焦がした。


「おお熱い熱い」


 こりゃあ敵わないという態度で逃げ回ったいたが、未だウォルツさんは魔法を使わなかった。

 レイブンさんは納得のいかない表情で彼に話しかけた。


「そんなんじゃ魔法使いじゃなくて『魔法使えない』だよおじいちゃん! 反撃のひとつでもしてみたら?」


 ここまで一方的に魔法攻撃を受けるだけのウォルツさんが不気味で仕方なかった。

 まるでレイブンさんの魔法を見極めているような。


「では若者のリクエストにお応えして、ぼちぼち反撃でもしてみようかな」


 突然大地から巨大な蔓の触手がいくつも出現し、レイブンさんの肉体を叩きつけた。

 意識を失いかけたように倒れかかったが、すぐさま体勢を立て直して炎魔法で焼き払おうとした。

 しかし蔓の触手は硬く分厚いもので、まともに焼き切ることはできなかった。


「くそっ! ずっとうろちょろ逃げ回ってると思ったらこんなことを……!」


 ウォルツさんのアビリティ『ためる』だろうか。

 ためるを使用すると、即座に発動しない代わりに設定された魔法の威力を倍にして発動する。

 雑魚の処理は高速がメインになる魔法使いにおいて、時間がかかり過ぎるのはデメリットにしかならない。

 しかし準備が整えばこのように倒しにくい不動の要塞が完成する訳だ。

 触手は攻防一体の万能兵器であり、レイブンさんを追い詰めていった。


「ちっ……もうしょうがないな。とっておきだったんだけど」


 彼は全てを観念したかのように構えを解いて棒立ちになった。


「諦めおったか!」


 彼の元に蔓の鞭が襲ってくると、黒い魔法陣が出現してそれを弾いた。


「なに!」


「『呪魔法』」


 レイブンさんがそう唱えると、足元から真っ黒で禍々しい手のようなものがいくつも出現してきた。

 この世の怨念を一つの空間に集め込んだようなおぞましい手が蔓の群れを薙ぎ払っていった。


「ばかな!」


 やがて漆黒の手がウォルツさんの喉元に食らい付き、彼を死ぬ寸前まで追いやった。


「そこまで! 勝者はレイブン!」


 脱出の術もなくし、すでに意識を失っているウォルツさんを見て、サイオン様が試合を止めた。

 だがレイブンさんの黒い邪悪な魔法は止められそうになく、そのまま暴走を始めていた。


「まずい――」


「『ブリザード』!」


 すぐさま私が氷魔法を発動させて黒い魔法を凍結させた。

 邪悪な魔法は凍りついて動きを停止させ、やがて崩れ落ちていった。


「あ、ありがとう。ミランダさん……」


 その魔法を使った後、レイブンさんはどっと疲れたような顔をしていた。

 おぞましい呪い魔法――カースは術者すら飲み込みかねない『禁断の魔法』と恐れられる絶技だ。

 ある魔道士によって考案されたが、その危険性と威力から闇魔法とは違うベクトルで魔を呼び寄せるものとして長らく封印されていた魔法だ。

 その片鱗を垣間見た一同がしんと静まり返った。

 審判たるサイオン様も。


「……なるほどね。ただもんじゃないってわけだ」


 ローザちゃんが最後の試合を行うべくグラフスクールさんと対面した。

 私たちの魔法の数々に魅入られて火がついたのか、彼女はいきなり巨大な魔法陣を展開していった。


「とっておきよ」


 彼女の放った魔法陣から、巨大な白い狼のような生き物が出現した。


「あ、あれはフェンリル⁉︎」


「……召喚魔法か」


 サイオン様は氷獣を眺めてにやりとした。


「召喚魔法を扱えるものは数少ない。極めて珍しい存在であるなローザ・アインハーツよ」


「き、きいてねーぞ上級モンスターの召喚魔法なんて!」


 グラフスクールさんは黒い髭面に汗を垂らして震えていた。

 それまで用意していた対策らしい対策もこの一手で無に帰したことだろう。

 滅多に拝めるものではないのだ。

 フェンリルは氷の牙から白い煙を巻き上げて低く唸った。


《どうする主殿。ひと思いに噛みちぎるか?》


「いやアルフ。氷魔法でトドメを刺すわ。力を貸しなさい」


《全く。主殿も獣遣いが荒い――》


 フェンリルが吠えると、彼女の両手から氷魔法が解き放たれていった。

 それまでの氷魔法と決定的に違っていたのは、それらが集まると巨大な氷のドラゴンになっていったことだ。


「『ブリザード・ワイバーン』」


 氷龍が冷気を撒き散らしながら突撃し、グラフスクールさんを部屋ごと吹き飛ばした。

 周囲は氷柱で埋まり尽くし、半分氷の仮面を被ったサイオン様が宣言した。


「そこまで! 勝者ローザ! これによって上位4名を決定したため、今期の入団試験を終了とする!」


「当然よ」


 彼女は主に私に向かって「貴女の氷魔法とは違うのよ」と見せつけるように髪をかき上げた。

 フェンリルはやれやれとため息をこぼして魔法陣と共に消えていった。

 すごい。

 召喚魔法なんて初めて生で見たぞ。


「すごいんだねー……みんな」


「う、うん」


 しかしこれで私たちは全員兵士としてマギアージュに潜入することができる。

 いやあ。本当激戦区だった。


 これまでの健闘を讃えるようにサイオン様が拍手をかけてきた。


「おめでとう! 諸君ら4人は選ばれし者である! 今日より晴れて我が国の兵士である。……だがその前に! 勝ち残った精鋭4人で今から戦ってもらう!」


「え、ええっ⁉︎」


 それはサイオン様による意外な提案だった。

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