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【短編】ホラー短編シリーズ

犬が見たもの

作者: 烏川 ハル

   

 夕方、犬を散歩させるのは私の日課の一つだ。

 その日も私は、赤いリードを手に、ジョンと一緒に家を出たのだが……。

 交差点の信号が青に変わり、渡り始めた途端。

 ジョンが突然、吠えながら走り出す。

「ワン! ワン、ワン!」

「あっ!」

 驚いた私は、思わずリードを手放してしまった。


 基本的にジョンは大人しい犬だ。

 確かに時々、何もない虚空に向かって吠えることがあり「人間には見えないものが犬には見えているのかな?」などと考えさせられる場合もあった。

 今回もその一例だろうか。ジョンは何を見たのだろう?

「待ちなさい!」

 呼びかけてもジョンが止まる気配はなく、私も犬を追いかけて走り出した。


 私は横断歩道を渡る際、少し歩幅を大きくして、白線に足を合わせて一本一本踏みしめるようにしている。

 それが私の癖なのだが、今はその余裕もなかった。横断歩道の白線に視線を落とすことなく、しっかりと顔を上げて、ジョンの後ろ姿を見据える。

 走る犬のスピードは速くて、油断をすると視界から消えそうだった。私も全速力で走っていたのだが……。


 交差点を渡り切って、数メートルも行かないうちに、背後から物凄い音が聞こえてきた。ガラガラガッシャーンといった感じの音だった。

「!?」

 一瞬ジョンのことも忘れるほどの衝撃で、反射的に振り返る。見えてきたのは、交差点に突っ込んで半壊した自動車だった。

 中の人が無事とは思えないような、(むご)い有様。思わず視線を逸らしたところで、事故車のタイヤ痕が目に止まる。

 それは、横断歩道の白線に重なっていた。幸い人通りの少ない交差点であり、歩行者は一人も事故に巻き込まれていないが……。

 なにしろ、私がたった今、渡り終えたばかりの横断歩道なのだ。もしも走らず、普通に歩いていたら、確実に轢かれていただろう。

 その点に気づいて、背筋がゾーッとするのだった。


「ワン!」

 十数メートル先の歩道で、ジョンはお座りして私を待っていた。いつも通りの、大人しいジョンに戻っている。

「ありがとう。おかげで命拾いしたよ」

 感謝を込めて犬の頭を撫でながら、ふと考えてしまう。

 本当に私を助けてくれたのは、ジョンそのものではない。私には見えず、ジョンだけに見えていたものが、私を危険から遠ざけてくれたのだ。

 もしかしたら、あれは守護霊か何かだったのかもしれない。




(「犬が見たもの」完)

   

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