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後に文豪という渾名となった

作者: ナナシ

 何も書ける気がしない。

真っ白の紙を前にして私は削り立ての鉛筆を持ちながら何を書けばいいのか分からずに絶望した。

 文字を書く事は得意だ。

昔から………そう小学校の頃からずっと物語を書いてきたから想像したものを文章にする作業は得意だった。

 しかし、文章以外の方法………それも絵でもって表現をする事は私は大の苦手である。

「………あなたまだ何も書けてないの?提出期限は明後日ですよ?」

先生が呆れた様にそう言ってくるのを右から左に受け流しながら「えぇ、すみません」と心にない謝罪を口にする。

先生には申し訳ないが私は絵を描く事………風景画や模写ならまだ何とかなるが、人物画は大の苦手なのだ。

 写真を撮ってその写真通りに模写をすれば何とかなるかもしれないが、それでも書き上げたものはどこか歪になる。

何故私が人物画を描く事が苦手なのかと言えば、小学校一年生の女の子に私の絵を描いてとおねだりされて、仕方なく………本当に仕方なく絵を描いてあげた事があった。

その頃から人物画を描く事がすこし苦手だという意識があったので、何故私に頼むのだ…………と絶望したのは記憶に新しい。

 そして、何とか書き上げたその絵を女の子に見せて私こんなんじゃないもん!!馬鹿ぁあああ!!!!と号泣されたのだ。

以来私は人物画を描く事が大の苦手……というよりもトラウマになった。

 「…………先生、自分には人物画は無理です………どうしても、どうしても無理です………」

何とか鉛筆でデッサンしようとするがどうしてもあの女の子の泣き声を思い出してしまって、腕が止まってしまう。

 「仕方ないですね………それなら手や腕のデッサンを描いて提出しなさい、それなら出来ますよね?」

「ありがとう、ございます………」

 先生が妥協案を出してくれた事でようやく………そうようやく私は真っ白な紙に鉛色を走らせる事ができた。

自分の手を見て紙に絵を描くそのワンシーンを書いていく。

そして、白紙の紙のままでは面白くないから私は原稿用紙をそこに模写して、自分の頭の中にある物語をその絵の中に封じ込めていき、2日後の提出期日にやっと提出する事が出来たのであった。









 「え…………全員分張り出すとか、聞いてない」

提出してから翌日学校の玄関口の黒板に晒されたクラス全員の絵の中に私の絵もあった。

周りが全て人物画である中で原稿用紙に向かって執筆する絵というものが一枚だけあるという違和感に、学校の生徒達がこぞって私の絵を見ていく。

 (いや、やめてくれ………頼むから見ないでくれ)

絵の中にある原稿用紙に書かれた物語を口にして読まれるという羞恥に、私は自分の絵だけを剥がして捨ててしまいたい気分になったが、それをしてしまえばこれを書いたのが私である事が白日の元に晒されてしまう訳で、私はただただその羞恥に耐えることしか出来なかった。

 しかし、ふらふら、とぼとぼと教室に赴いた私に更なる絶望が待ち受けているだなんてその時の私は知る由も無かったのであった。

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