オリエンテーションキャンプ一日目②
一日目はもう終盤に入り、夕飯のカレー作りが始まった。俺の役割は野菜の皮を剥く係だ。この係実は一番人気がない。皮を剥くのは楽しくないし、冷たい水で野菜を洗わないといけないのも人気のない理由だ。幸助は火を起こす係に配属されていた。少し向こうに春奈が見えた。あのイケメン翔飛と同じグループのようだ。二人で楽しそうに野菜を切っている姿が羨ましくて仕方がなかった。
「どうした?手が止まってんぞ?」
火を起こし終えた幸助は少し涙目になっていた。「なんかよくわかんねぇけど涙が止まらん」と呟きながら次の仕事をするためにグループの女子達の元へ向かった。それからちょっとして俺も野菜の皮を剥き終えたのでグループのみんなに報告することにした。少しトラブルはあったが、無事にカレーを完成させることができたので、グループのみんなと食べることにした。他のグループもほとんどカレーを作り終えていた。
「橘、ちゃんと風呂で体綺麗に洗えよ?」
口をむしゃくしゃしながらそう言った。まったく口の中に食べ物があるに喋るとは行事の悪い人だ。多分この後「春奈さんに嫌われるぞ」的な発言すると思ったので「ここではその話やめろよ」と会話を終わらせた。風呂の後はいよいよキャンプファイヤーだ。幸助の作戦によると、「俺が翔飛を足止めするから、橘は女子のグループから春奈さんを誘うんだ」とのこと。
「グループの中から誘うのは気がひけるな………」
「何言ってんだよ!積極的に行かねぇと恋は実らないぞ」
まったくその通りだ。そういえば妹にも「積極的にアタックすべし」との教えがあった。まだキャンプファイヤーは始まっていないのに緊張している俺がいた。
だんだんと強く燃え上がる炎はまるで俺の恋を表しているようだ。幸助に「行ってこい!」と背中を押され俺は春奈を探しに行くことにした。みんなだんだんとグループが出来上がり、座り始めたグループもあった。キャンプファイヤーでは実行委員会が考えた出し物に参加するか、キャンプファイヤーを見ながら友達とゆっくりするか選択することができる。恐らく春奈はゆっくりするタイプだと考えている。
「勝利君!」
春奈の声だとすぐにわかり振り返る。春奈は友達と一緒ではなく一人だった。
「一人なんだ」
「うん、勝利君と話したいと思ってね」
「俺も春奈のこと探してた。やっと見つけたよ」
「え!そうなの?ありがとう!」
俺たちは二人で会話するために炎から少し離れた所に座った。男たちの騒がしい笑い声が聞こえてくる。
「一日目はどうだった?」
珍しく俺から話をはじめた。
「あっという間に終わったよ」
君は夜空を見上げながらそう言った。緊張しているからなのかなかなか話が弾まない。好きな人と話すのはこんなにも緊張するのかと学ばされた。野球の試合の時とは違う緊張感だ。
「勝利君の班はカレー美味しく作れた?」
「うん、美味しかったよ」
「私たちの班は野菜がちょっと硬かったよ」
君の笑顔が炎で照らされる。思うわず俺も笑っていた。少し無言の時間が寂しく感じる。俺たち二人の間を風が通り過ぎて行く。この風が寂しさを運んできたのだろうか。
「勝利君はキャンプファイヤーの魔法知ってる?」
「この前春奈が言ってたやつ?」
「ううん、違う」と春奈は首を横に振る。
「キャンプファイヤーをこうして二人で見るとね、将来結婚するらしいよ」
春奈は俺の手を握り始めた。俺は慌てて手を離してしまった。
「ごめん、今の嘘だよ。私が勝手に作った話」
「ち、違うんだ」
驚きと恥ずかしさのせいで願っても届かないだろうと考えてた春奈の手に触れることができたのに離してしまった。また風が通り抜けて行く。さっきよりも風は強く冷たかった。少し肌寒くなり始めた夜に俺はそっと春奈の手を握る。
「違うんだ。本当はずっとこうしていたかった」
春奈は顔を真っ赤にしながら「ありがとう」と言った。二人の距離はまだ遠い。きっとこれから俺たち二人の距離も近くなるだろう。いや、近くしてやるんだ。妹が言っていた。
「恋は育つのが遅いんだよ。だから二人でゆっくりと冷めないように温め育てていくもんだよ」と。
きっと俺たち二人の恋は始まったばかりだ。
「春奈ちゃん!いたいた!」
俺たちはパッと手を離した。
「どうしたの?」
「キャンプファイヤーの後の天体鑑賞一緒にみよ」
「いいよ!じゃあね、勝利君」
春奈が行ってしまう。まだ俺は伝えたいことがいっぱいあるのに。
「あ、あの!連絡先交換しよ」
春奈は友達に「ちょっと待ってね」と伝えて、俺に連絡先を教えてくれた。本当は「明日一緒に船に乗ろう」と伝えるつもりだったのに。まあ、連絡先聞けただけ成長だ。
一日目はテントで寝ることになっている。男だらけのテントだけれど、割とみんな寝相はいいようだ。ただ、いびきがうるさい。みんな疲れているようでぐっすり眠っているが俺はなかなか寝つけない。春奈が手を握ってくれたことが頭から離れないしあの手の感触が忘れられない。女の子はこんなにも柔らかいのかと感じた瞬間だった。手を握ってきたと言うことはまさか両思いだったりして。バカバカと妄想を取り消した。「ピロン」とスマホがなった。頭の横に置いていたスマホの画面が明るくなっている。画面には「よかったら今から話さない?」と春奈からLINEがきていた。嬉しくて一人で布団をバタバタしていた。「いいよ!」とすぐに返信した。「じゃあ、テント近くのトイレで待ち合わせね」と返信がきた。俺はてっきりLINEで話すのだと思っていた。みんなを起こさないようにそっとテントから出た。トイレ周りには先生たちが集まっていた。もしかしたらこれから見回りに来るのかもしれない。急いで春奈と合流しないと。
「勝利君、こっちこっち」
春奈の小さな声が聞こえてきた。右手を招き猫のように動かしながら俺を呼んでいる。春奈と俺はテントから少し離れた場所で座って話していた。
「ここなら見つからないね」
周りにあまり明かりがなく星が夜空いっぱいに光っていた。
「こんなにもさ静かだとさ、世界に私達二人しかいないみたいだね」
「なにそれ。でも春奈と二人なら俺は大丈夫だよ」
「待って、なんか照れる」
顔を両手で押さえる春奈見ながら「二人で星を見れてよかった」と俺はボソッと独り言を言う。もう少しだけでもう少しだけでいいから、こうして春奈の隣に居たいと思った。
「あのさ、明日船に乗る体験あるんじゃん?」
「うん、それめっちゃ楽しみ!」
「良かったらさ!」
二人同時に同じことを言った。二人でクスクスと笑いながら春奈が「先にどうぞ」と言った。
「一緒に船に乗らない?二人で海を見たい」
「もちろん!いいよ!」
こうして俺は約束をすることができた。さすがに肌寒くなってきたので明日のことも考えてテントに戻ることにした。
「悔いのないようにしようね?思い出いっぱい作ろう」
春奈が別れ際そう言った。
「うん!楽しもう」
手を振り、俺たち二人はそれぞれのテントに帰った。
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