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一なつの恋  作者: 環流 虹向
7/2
6/188

12:00

みんなHRが終わっても実技テストついて討論してる。


今回のテーマは梅雨。

規定の大きさのキャンバスに個性を爆発させるのが毎回の実技テストだ。


その作品は来週から最上階の体育館に飾られる。

本物をじっくり見るなら来週を待たないといけないが、うちの学校にはそれより早く他人の作品を観れる在校生限定のアプリがある。


そのアプリでは全生徒の作品がペンネームで公開され、誰がどの絵を描いているか分からないようになってる。

知ってるのは担任の栄美先生と学長のみ。他のクラスの生徒はその担任の先生しか知らない。


その作品の評価欄には全ての先生からのコメントが書いてあり、他の生徒もそれを見て勉強することになっている。


実技テストは先生たちの評価後、生徒たちで作品を見て討論し合うのがいつもの流れ。


けれど、自分のペンネームを他人に教えると学校からのペナルティを受けるので、誰もかれもペンネームを出して絵の話をする。


学校側は全てをフラットに、絵だけを見て感じ取れるものを評価してほしいからこの方式を取ったという。


絵の向こうの人が気になるのはその絵の魅力に十分はまりきれてないからと学長は入学式に言っていたけど、俺はその人がどういう生き方や感じ方をしたらその絵になるのか気になってしまう。


俺はそのアプリで送られたDMにも来ている評価を読み、また落胆する。


『“いぬい”さんらしい孤独感が現れていて素晴らしいです。しかしこの雨粒は…』


と、雨粒の色塗りを指摘されるけど俺にとっても問題は『孤独感』。


俺は孤独感を表したくて“俺”を強い色と凹凸で表現してる訳じゃないんだ。


俺はここにいるってこと。


ただそれだけを伝えたくて“俺”を描いてるのになんで『孤独感』なんて言葉を使うんだ。


…俺って独りなのか?


「ひぃーとぉー。」


後ろの席から(あき)が俺を呼ぶ。


俺は誰にも気づかれないように静かに深呼吸をして振り向く。


明「ひと、ひと、ひと。“いぬい”って子の絵、見た?」


一「あ…?うん。」


明「この思い出の雨粒、最高だよね。先生は塗りの事言ってるけどこの歪み具合が“いぬい”って感じ。」


俺の描いた数十粒の雨粒の中に描かれた唯一無二の思い出たち。

その奥にいるホワイトゴールドの髪色をした“俺”が頭を抱えているのを雨粒が隠してくれている絵。


その雨粒を歪ました理由は1つ、俺の思い出の見え方を表したから。


一「…明はこの歪みどう思った?塗りとかじゃなくて表現の話。」


うーん、と明が空を見て言葉を考えている。

また、みんなが言う『孤独』を表すための歪みと言われたら俺は筆を折ってしまうかもしれない。


俺は言葉を生み出すのに手間取っている明が机に置いている細い手を見つめ、回答を待つ。


明「んー…。難しいことは分からないけど、俺はこの人が思い出を大切にしてるって感じたかも。」


一「…うん。」


明「この人、いつも周りをぼやかして1人の男の子をくっきり描くけど、コメントで見る『孤独感』とはまた別だと思うんだよね。

俺だったら孤独の男の子をくっきり描かないで下書きくらい薄い色合いで描いて、よく見ないと分からないようにする。」


一「なんで?」


明「孤独な時って、誰にも必要とされてない感じするじゃん。“いぬい”が孤独を思って描いてたらごめんだけど、俺だったら他人の目にも入らない存在のように描くかな。」


…だから、明は好きだ。


コメントには残してくれないけど、毎回俺の気持ちを汲み取ってくれる。

100近いコメントが『孤独感』と言ってくるけど、その意見には目を当てない。


今こうやって学校に来て絵を描いているのも、いち早く“いぬい”の共有をしたがる明がいてくれるからでもある。


一「…なるほどね。“いぬい”に教えてあげたいな。」


明「ね!卒業したらペンネーム教えあってOKになるから本当楽しみ!」


明はウキウキしながら荷物をまとめ出す。


奏「一、明!幹事の俺らが先に行かないとダメだろ!」


奏が職員室から帰ってきた途端、駆け寄ってきた。


周りを見ると半数が教室からいなくなっていた。


自分たちが幹事なのを忘れ、のんびりと話してしまっていたことに気づき、俺たちは急いで荷物をまとめてクラスメイトたちと姐さんの店に向かった。




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