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一なつの恋  作者: 環流 虹向
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22:00

東京に帰ると姐さんが夜飯をご馳走してくれるということで、そのまま俺は姐さんの家に行くことにした。


一「え?姐さん米炊けるの?」


俺は鍋で白米を炊いたりして意外と本格的な夜飯を作っくてくれる姐さんのキッチンを覗き見して、驚く。


さき「米だけね。ばばに教えてもらった。」


一「姐さんは、ばあちゃん子?」


さき「そうだね。ばばが育ててくれた感じ。」


一「ばばのおかげで俺たち出会えたから挨拶したいな。」


俺は姐さんのくびれに抱きつき、北海道で買ってきた魚でマリネを作っている手元を眺める。


さき「結構山奥だよ?」


一「姐さん東京育ちじゃないの?」


さき「静岡で育ったよ。しかも、お線香あげるだけになっちゃう。」


一「…そっか。ばばの好きな花とか覚えてるならそれも持ってきたいな。」


さき「ひまわり好きだったよ。この前、一が合宿行ってた時にお墓参りしてて、ちょうどひまわりの写真が来たから見せといた。」


一「そうなの?」


さき「うん。ちょっと寂しいひまわり畑だったけど、一みたいなひまわりいたからその写真好きなの。」


一「え?俺みたいなひまわりって何?」


俺は姐さんが取り出した携帯でその写真を見るけど、あの日見たそっぽ向いているひまわりしかいない。


一「俺、こんな風にそっぽ向いてるように見えたの?」


さき「違う違う!ここ見て。」


俺は姐さんが少し拡大してくれた画面端にいるひまわりを見つけた。


さき「みんなは太陽追いかけてるのに、このひまわりだけこっち見てくれてるの。名前の通り日向 一って感じ。」


姐さんはそのみんなとは違うひまわりを見て微笑んでくれる。


一「来年は一緒にひまわり畑行こ。」


さき「いいよ。ここのひまわり畑行ってみたい。」


一「分かった。行けるように仕事頑張ろー。」


俺は姐さんを1度きつく抱きしめて、これ以上邪魔しないようにベッドに座って夜飯の出来上がりを待つ間、溜まったメッセージを流し見していると奏から音己ねぇとのツーショットで夏休み最後のドライブに行ってきたことを教えてくれていた。


俺はそれを見て今の彼女に明日の朝に会おうとメッセージを送ると、姐さんがトレイで出来上がった飯を運んできてくれた。


一「ありがとう。姐さんの手料理初めて食べる。」


さき「味噌汁作ったじゃん。」


一「あれ、お湯入れるだけじゃん。」


俺はその味噌汁も食べたかったなと思っていると、姐さんはトレイを置きにキッチンに戻り、帰ってきたその手には味噌汁があった。


一「…最高の夜飯じゃん。」


さき「だねー。全部が新鮮。」


俺たちは自分たちが好きなもので溢れているテーブルを前にゆったりと夏休みと秋休み最後の日をすごす。


一「そういえば、秘密1個ずつ残ってるね。」


さき「そうだね。何か聞きたいことある?」


姐さんは自分が2つ以上の秘密を喋った自覚がないようで俺にそう聞いてきた。


一「じゃあトラウマ克服したのか聞きたい。出来てないなら俺と克服しよ。」


さき「…一は男でしょ。」


一「ボディメイクであんなくびれができるなら胸も尻も作れるって。」


俺は久しぶりに姐さんの味噌汁を飲みながら説得する。


さすがにもう音己ねぇにセラピーを率先してやってほしくないし、2人がしてるのをこのベッドで寝るたびに思い出すはちょっと嫌だ。


一「俺は友達として姐さんの幸せを願ってるから手伝わせてよ。俺、結構友達想いなんだ。」


さき「それ自分で言っちゃうんだ。」


一「うん。口も硬いし、優しいし、指テク上手いよ。」


さき「…確かに。」


と、昨日のことを思い出したのか姐さんは頬を染めた。


一「トラウマ克服してもしてなくても、俺としよ。姐さんといっぱい一緒にいたいから。」


さき「恋人出来たらどうするの?」


一「結婚してなかったらみんなフリーだよ。だから俺、性病検査ちゃんとやってる。」


さき「真面目なのかダメ人間なのかよく分かんなくなってきた。」


と、姐さんは箸を置き、腕を組んで頭を整理し始めた。


一「けど、悠とやったんだよね?それって克服してない?」


俺がふと思ったことを口に出すと姐さんはゆっくりと頷いた。


さき「悠ちゃんだからかもしれないけど、女の子の体触れられるようになったのは私の中ですごい大きいことなんだ。だから2人には感謝いっぱいなの。」


一「…音己ねぇとはいつしたの?」


さき「初めて会った日に、手首掴まれて揉めって言われたのが始まり。」


一「俺、マンション下で姐さんに振られて傷ついてたのに、姐さんは音己ねぇの胸揉んでたんだ。」


さき「ご、ごめん…。揉んでる間は一の昔話聞かせてあげるって言われたから…。」


どんな条件で音己ねぇは乳捧げてんだよと少し腹を立てながら、姐さんが音己ねぇに教えてもらった俺の昔話を聞いていく。


その昔話は牛乳を持って来てくれていた時のものだけじゃなくて、学生の頃やここ最近の俺の遊び方の汚さも話していたらしい。


さき「音己って一のこと大好きだよね。いい幼馴染のお姉さんいて羨ましい。」


俺はそう言った姐さんの顔に少し違和感を感じた。


一「初めて会った時、音己ねぇはさきさんって言ってたけど、なんで呼び捨てで呼ぶようになったの?」


さき「…手でしてもらってる時に呼び捨てで呼んでもらってからそうなった。」


一「いつしたの?」


さき「…一が会いに来た時。」


一「いつ?」


さき「…流星群の日。」


俺はそれを聞いて思わず姐さんの脚に倒れ込み、顔を自分の腕で隠しながら膝枕をしてもらう。


一「だから『今はだめ』なんだ。」


さき「ごめん…。音己、疲れてる時に暗い所にいるとすぐ寝ちゃうから…、あの日は終電逃しちゃったの。」


一「悠としたのいつ。」


さき「その日の前日…。」


一「だから勃ったんだ。音己ねぇのこと好きなの?」


さき「…分かんない。」


そう言った姐さんの顔を見るために俺は視界を遮っていた腕を取ると、姐さんは顔では違うと言っていたけれど目が音己ねぇとの思い出を辿るようにベッドを見つめていた。


一「いいじゃん。好きならアタックしなよ。」


さき「…でも、音己は一のこと好きな感じするけど。」


一「可愛い弟とずっと一緒にいた可愛い幼馴染だからだよ。変な虫は近寄らせないからちょっとずつ頑張ればいいじゃん。」


俺は体を起こし、残りの飯を食べ進める。


さき「一は音己のこと、好きじゃないの?」


と、姐さんは俺の想いを聞いてきた。


一「それ、俺の最後の秘密だけどどうする?」


さき「…聞きたい、かも。」


姐さんは自分の頭の中ではもう諦めてるようで、少し寂しそうな声で呟いた。


一「好きだよ。」


さき「そっ…」


一「けど、恋の好きはもう終わってる。初めて知った大人なお姉さんの音己ねぇを保育園児の俺が好きになって、最低な嘘ついて嫌われた。だからそこで初恋は終わり。」


さき「…今は?」


一「今はちゃんと仲直りして、たまにデート行くだけだよ。」


さき「デートって…」


一「“遊び”を“デート”って言うじゃん。そういうこと。」


さき「音己はちゃんとデートって思ってるかも。」


一「俺の汚い遊び方知ってるのに、デートって思っちゃうお花畑の頭じゃないのは姐さんも知ってるでしょ?」


さき「…そう、とは思うけど。」


一「触り合いしたのは音己ねぇの体を俺が触りたくなっちゃったから。やっぱり性には勝てないよ。」


さき「…なんで私の性癖バレたの?」


一「俺が盛りすぎたの止めるため。予習あったから気持ちよかったよ。」


さき「…そっか。」


一「けど、もうしないよ。大切な人の好きな人に手を出すのはさすがに出来ない。」


俺は夜飯に落としていた目線を姐さんに上げて、笑顔を向ける。


一「姐さんと音己ねぇが一緒なら、俺が奏と海外飛んでも寂しくないね。」


さき「…寂しいよ。」


一「寂しかったら音己ねぇと一緒に俺たちのとこ遊びに来てよ。音己ねぇ留学行ってて今4ヶ国語話せるらしいよ。」


さき「音己って何者なの…。」


一「俺と奏はスーパーマンって呼んでる。なんでも出来ちゃうし、いろんな人救っちゃうから。」


さき「スーパーマン…、納得かも。」


一「でしょ。スーパーマンだけど、恋愛のことになると頭の中お姫様になるから。」


さき「そうなの?」


一「うん。だから少女漫画で大騒ぎしてる。今度一緒に漫画をのんびり読む日でも作ればいいじゃん。」


さき「いいかも。」


一「音己ねぇ今ニートで将来の仕事考え中だから、ついでに経営のこと教えてあげてよ。スーパーマンだからすごいこと出来そう。」


さき「経営興味あるの?」


一「音己ねぇは社会に飲まれるのが嫌らしいから、すぐに口出ししてクビにされるの。この間は当日クビになってたよ。」


さき「そんなことあるの?」


と、姐さんは音己ねぇの新しい顔にたくさん笑顔を見せてくれる。


これでいいんだ。


音己ねぇは好きだった人で、姐さんは今日ちゃんと振ってもらって気持ちの区切りをつけて、どっちも大切な人と一緒にいられる未来を手に入れられた。


それだけで俺は満足だよ。


一「2人が幸せになったとこ見れるように手伝うから、姐さんも音己ねぇにもっと好きって思われるように頑張ろうね。」


さき「うん。ありがとう。」


俺が動いたらあっという間に今まで見ていた景色が変わってしまったけど、これを望んでただろ?


姐さんは俺以外の強い人。


夢衣は俺以外の理解がある人。


姐さんは俺をずっと1番好きと言ってくれた。


足を進めるからたくさんの景色に出会えて、たくさんの人に出会えて、たくさんの思い出が出来る。


だから、今の俺はこの恋を今年の夏に置いていくことにするよ。


これはもう持っていなくていい気持ちで、絵を描くには少し煩わしいものだから。


俺は今からの俺に期待して未来を歩んでいくから、俺の好きな人たちは俺の見えるところで手を振り返してくれるだけでいいよ。


俺はその時に見えた笑顔で十分幸せを感じられるから、側にみんなを感じられるだけで幸せだから、俺の手を引かなくても大丈夫。


自分で歩いて自分の行きたい場所に行ってくるよ。


そこで見た景色と気持ちをしっかり絵にして、みんなに俺の想いが伝わる画家になれように努力するからこれからも応援してね。


俺も、応援してるよ。


頑張って、想いを叶えてね。


俺は一夏の恋に捧げた自分の思い出をしっかりと記憶に刻み、また始まる明日を好きが溢れるこの部屋で迎えることにした。





→ ハッピーエンド


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