7:00
…分からない。
一睡して少し頭を整理したけど、音己ねぇが喜びそうなサプライズは食べ物ばっかりで全くサプライズとは言えない。
俺はなにか衝撃的に記憶に残るものを音己ねぇにしてあげたいと思うけど、何していいか分からずにとりあえずリビングと繋がっているベランダに行って日向ぼっこしながら考えようと部屋を出ると、リビングにはハーレム状態の瑠愛くんが悠の寝顔を撮って満足そうにしていた。
一「…おはよ。」
俺は息だけで瑠愛くんに挨拶して、渡辺が出ている作品を見漁ったみんなを起こさないようにベランダに向かうと瑠愛くんも一緒にやってきた。
瑠愛「なんかお悩みー?」
と、ベランダにあるローチェアに寝転がった瑠愛くんは俺の顔を見て何か思ったのかそう聞いてきた。
一「ちょっとサプライズ考えてるけど、全くいいのが思いつかない。」
瑠愛「…好きな人?」
一「うん。でも、瑠愛くんが思ってる人じゃないと思う。」
瑠愛「そっかぁ…。」
瑠愛くんはやっぱり姐さんのことを思ってたらしく、残念そうにため息をついた。
一「でも、その人とは来週の頭に旅行行って思い出作ることにしたんだ。」
瑠愛「…それで諦めちゃうの?」
一「うん…。だって、嫌われてるのにずっと好きって言ったらただのストーカーだし、押し付けすぎるのは重いって言われるらしいから。」
俺がそう言うと瑠愛くんは自分が座っていた椅子から俺が座ってるローチェアに乗り、俺の脚の間に寝転がって腹を枕にして俺を見上げてきた。
瑠愛「さきちゃん、そんなこと思わないよ。」
と、瑠愛くんは唇を突き出し、俺が言ったことになぜか少し不服そうな顔をする。
一「この間、流星群見たときにストーカー予備軍って言われた。」
瑠愛「さきちゃん照れ屋だからね。」
一「…でも、ずっと悲しい顔ばっかりさせてる。」
花火をやった日は笑顔を見せてくれたけど、俺の下手な線香花火を見てだったから俺が笑顔にさせたわけじゃない。
瑠愛「なんでそんな顔してるんだと思う?」
一「俺のこと、嫌いなのに俺がちょっかいかけるからでしょ。避けて当然だよ。」
瑠愛「雅紀は嫌いなことは嫌いって言うよ。一くんに嫌いって言ったの?」
と、瑠愛くんはいつにも増して真剣な顔で俺に聞いてきた。
一「嫌いだから会いたくないんでしょ…?友達なのに家も入れてくれない。友達なのに手も繋いでくれない。仕事の関係って言ってたのに…、夏とちゅーしてるの見たし…。」
瑠愛「…え?夏くんと?」
一「うん…。瑠愛くんにこの間、電話した時だよ。だから夏が仕事なのか聞いた。」
瑠愛「え…、え?でも夏くんってリリちゃんって子と付き合ってるよ?」
一「けど、姐さんはいつも夏に頼って、仕事じゃないのに泣いてるときに涙拭いてもらって、抱きしめてもらって、ちゅーして体温分けてもらってたよ。」
俺がその日のことを思い出し、泣き出しそうになると瑠愛くんは起き上がって泣く寸前で俯いた俺の顔を上げてくれた。
瑠愛「夏くんは雅紀の水だけど、栄養にはなってないよ?」
一「意味分かんない…。」
瑠愛「水は生きる上で必要だけど、栄養は体を動かす上で必要でしょ?一くんは雅紀のそういう存在だよ。」
と言って瑠愛くんは俺にキスしてきた。
俺は突然のことに驚き、落ちそうだった涙が引っ込む。
瑠愛「2つがあってちゃんと自分が動くんだよ。雅紀、一くんと会えなくなってから水しか飲んでなくて痩せちゃったよ。」
一「…今まで通り、ほっぺふにふにそうだったよ。」
瑠愛「見た目じゃなくて心の方ね。」
と、瑠愛くんは仰向けになり、俺を背もたれにして座った。
瑠愛「俺が雅紀に夏くんのこと紹介したんだ。」
一「…そうなの?」
瑠愛「うん。夏くん出会った時は無口な方だったけど、人の話はいっぱい聞ける子だから雅紀のいい友達になれるって思ったんだ。」
一「なったね…。」
瑠愛「それでも雅紀は夏くんのこと、まだ優治として思う部分があるから友達になりきれてないよ。」
一「どういうこと?」
瑠愛「夏くんはお金を貰わなくても雅紀と一緒にいようとするけど、雅紀はお金を払って側にいてもらおうとしてる。」
一「けど、この間…」
瑠愛「この間は俺と悠ちゃんの喧嘩に2人を巻き込んじゃって、俺たち2人が仲直りするまで雅紀が夏くんのこと連れ出したんだ。そのときに見かけたんだと思うよ。」
そうだったのか…。
けど、夏は仕事じゃないのに姐さんとキスしてたんだよな。
瑠愛「夏くんは…、寂しがりやな人たちにすごい優しいから、求めてそうな事をなんでもしようとするいい子なんだけど、俺は出来ないね。」
一「瑠愛くんも俺といてくれてるじゃん。」
瑠愛「夏くんは別格。ちゅーもその先も出来ちゃうよ。だから雅紀も悠ちゃんも頼るんだー…。」
そう話してくれた瑠愛くんは寂しそうに語尾を伸ばし、肩を少し震わせる。
一「…どうしたの?」
瑠愛「悠ちゃんと夏くんヤってるんだよね…。けど、俺と付き合ってない時と別れてた間にだから浮気じゃないよっ。」
と、声だけ明るい瑠愛くんを俺は後ろから抱きしめる。
瑠愛「寂しくしたよ…?でもさっ、そこの2人でしなくてもいいじゃん。恋の好きがなくても、友達以上の好きがあるの見えちゃうの辛いよ…。」
一「夏が言ったの?」
瑠愛「ううん…。昨日、夏くんに見送り頼んだはずの悠ちゃんが俺ん家帰ってきて、嫉妬する全部のこと吐いてくれた時に教えてもらった。」
…悠は本当に想いの伝え方が下手くそらしい。
わざわざ夏の名前なんか出さなくても、瑠愛くんとは想い合ってるんだから安心して身を任せればいいのに。
瑠愛「公園にピクニック行った時、俺が2人の間にはなんもないって言ったら、悠ちゃんは普通にしてたのに夏くんは顔に出しちゃうんだもん。それでも、そうやって顔に出ちゃう夏くんのこと好きなんだよなぁ。」
一「俺と一緒に嫌おう…?」
瑠愛「俺は一くんも夏くんも好き。大好き。ちょっと気持ちが辛いだけで嫌いになんかなれないほど好きだよ。」
と言って、瑠愛くんはこっちを振り向き、涙いっぱいの顔で俺の頭に抱きついてきた。
瑠愛「…こんなの雅紀にも誰にも愚痴れなかったから、一くんいてよかった。一くんの相談聞きに来たはずなのに俺の愚痴駄べりになってごめんね。」
一「いいよ。俺を頼ってくれるの嬉しい。これからも嫌なことあったら言ってね。」
瑠愛「うんっ…!一くんも俺に言ってね。出来るだけのことするよ。」
一「じゃあ、まずは今日するサプライズの候補を一緒に考えてほしい。」
瑠愛「分かった!」
元気に声を放った瑠愛くんは俺の顔から離れて、俺を枕にしながら一緒にサプライズしてくれる。
そんな中、俺はまた夏のことが嫌いになってしまう理由が増えてしまって気持ちが晴れなかったけれど、嫌いな奴のことを考えるより音己ねぇのために出来ることを瑠愛くんと一緒に考えることにした。
→ note-book