22:00
夢衣と最後のデートを終えて瑠愛くんの家に帰ると、今日家に帰ったはずの悠が瑠愛くんと渡辺が出ている映画を見て楽しんでいた。
俺と夢衣は驚いたけど、2人が仲よさそうに抱き合って渡辺の狂気的な演技を見入っていてるに思わず吹き出してしまう。
一「これ、怖いよな。」
俺は夢衣と一緒に瑠愛くんたちがいるソファーに座り、途中から映画を見始める。
瑠愛「俺が知らない10年分の琥太くん見ようって思って借りてきたんだけど、すごいよ…。」
一「これは確か9歳だから瑠愛くんのショートムービーから大体4、5年?」
瑠愛「うん!いやぁ、おじちゃん感激涙腺爆発だよぉ。」
と、瑠愛くんが見えない涙を拭いていると風呂上がりの天がリビングにやってきた。
瑠愛「あ!天ちゃん、こっちで琥太くんのサディスティックバイオレンス見て!」
天「そんなにすごいの?」
天は疑い半分で水を片手にソファーで膝立ちしたまま映画を見進めていく。
そんなクギ付けで目を奪われてるならしっかり座って見ればいいのにと思っていると、音己ねぇから電話が来たので俺はみんなの邪魔をしないために自分の寝室に入った。
一「今、家?」
音己『そう。ミュージカルと飯食って帰ってきた。』
と、久しぶりに家族全員の休みが揃って出かけたことを嬉しそうに話してくれる音己ねぇ。
昔も何度かあったのを笑みが零れる奏から聞いてはいたけど、音己ねぇからは初めてでこれが彼氏の特権かと思っていると話の流れで明日の夜にデートすることになった。
一「音己ねぇと夜デートこんなにいっぱい出来るとは思わなかったなぁ。」
音己『暗いと眠くなるから。』
すごい野生的な答えで俺は静かに腹を抱えて笑っていると、音己ねぇはデートで行きたい場所を初めて言ってくれた。
けど…、なんでそこなんだろう。
一「なんで、姐さんのBAR…?」
俺は音己ねぇが無理していないか心配になり、ひと返事でOKを出すことが出来なかった。
音己『一が行きたいとこだと思ったから。』
一「…行きたいとは思うけど、音己ねぇとのデートで行きたいとは思わない。」
音己『そっか…。』
と、なぜか音己ねぇは残念そうにして黙り込んでしまう。
音己ねぇは俺と付き合ってたいと思ってくれてるんだよな…?
なのに、俺の終わりかけの恋愛をそんなにも応援する理由はなんなんだろうか。
一「…音己ねぇは俺と別れたい?」
音己『え…?』
一「俺の応援してくれるのは嬉しいけど、音己ねぇの気持ちが心配。俺、そこまで手助けしてもらわないといけないほど、テクがないわけじゃない。」
音己『…ごめん。』
一「音己ねぇは今、俺の彼女だよ?もっと俺が欲しいって欲張ってもいいよ?」
この間の夜飯は音己ねぇの気持ちがちゃんと見えたけど、俺が奏との仲に悩んでたからまともに返事をしてあげられなくて突き放してしまった。
けど、あのあと仲直り出来て、音己ねぇの1番がちゃんと奏ってことが分かって俺はホッとしたんだ。
俺は付け合わせの野菜のお浸しで、別に食わなくても食ってもどっちでもいい存在。
そんな小鉢の食い物でも1つあったら少し彩りが増えて目が喜ぶと思うから、俺は金目鯛の煮付けの引き立て役になるんだ。
だから一口食って終わる存在に、わざわざ醤油とかポン酢とかかけなくていいよ。
もっと雑に俺のことを食ってくれればいいのに、音己ねぇはちゃんと美味しく食べようとするからまだ好きなんだよな。
一「デートだから俺は手繋いで姐さんのBARに行くけど、それでいいならそこにしよ。」
俺は音己ねぇが初めてデートで行きたいと言ってくれたところを拒否してしまい、さらに自分の気持ちの迷いを隠すために強い口調になったことを心の中で謝りながら音己ねぇに伝える。
音己『ちょっと…、考える。』
一「うん。俺も考えとくから。明日、迎えに行くね。」
音己『うん。ありがとう。』
せっかく久しぶりの家族団欒で楽しそうにしていた音己ねぇを落ち込ませてしまったことに罪悪感を感じ、俺は明日ちゃんとお詫びをするためにサプライズをすることにした。
俺は恐怖で叫ぶみんなの声を遠くで聞きながら、今の彼女のために今出来ることを考えてみることにした。
→ You & Me