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一なつの恋  作者: 環流 虹向
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12:00

最後のデートでは夢衣が決めた全身ペアルックを着て猿島に来た。


2人して肩を落とす白ワイシャツで黒パンツで傍から見たらとてつもなく仲がいいカップル。


夢衣は悠に褒められた脚を出して涼しげだけど、俺は細身で足首まである熱がこもりやすいパンツで汗がえぐい。


けど、このワイシャツと細身のパンツを合わせる服装は、夢衣が俺の体型に1番合うと言ってくれてずっとその形は崩さず今まで着てきた。


元は何を着れば自分に似合うか分からなかったからずっと制服を着て過ごしてたけど、似合う私服が見つかった時はガレット・デ・ロワでフェーブが当たるよりも嬉しかった。


夢衣「このサンダル、ずっと持っててくれるの嬉しいなー。」


と、夢衣は俺とのお揃いのサンダルを見ながら俺の脚の間で波打ち際の少し生温い海に足を浸し、夏の終わりを感じる。


一「彼女から初めて貰った残るプレゼントだから。」


夢衣「…歴代?」


一「うん。他の奴はガムとか義理チョコ。」


夢衣「彼女からなのに義理チョコ?」


一「そう。本命の彼氏に本命チョコは持ってかれた。」


夢衣「そんなことある?」


そう言いながら夢衣は俺の腕の中で顔を見上げる。


一「まあその時は彼氏じゃなかったけど、俺と別れる準備のために本命チョコあげてたらしいよ。これぞ、したたかガール。」


夢衣「その子嫌いっ。」


一「けど、2週間もしないで別れてた。そのことが学校中で噂になってダメになってた。」


夢衣「一が広めた?」


一「ううん。奏。」


夢衣「奏くん、いい人だね。」


一「やっと分かってくれた?」


夢衣「うん。ちょっと好きになった。」


ちょっとだけかよと思ったけど、好きになってもらえたならいいか。


一「なんか食いに行く?それとももう少し海見る?」


夢衣「食べるのは帰ってからでいいよ。人いっぱいなのあんまり好きじゃないもん。」


一「分かった。」


俺は近場の腰掛け出来る場所に座り、自分の脚に夢衣を座らせる。


夢衣「もっとこういうとこ、一と来たかったな。」


一「2人で時間が合う時に行こうよ。」


夢衣「…だって、ねねちゃんと付き合ってじゃん。」


一「付き合ってても俺は友達と遊ぶのおそろかにするのやめたの。いつまでも高校生の日向 一(ひゅうが ひと)じゃないよ。」


夢衣「…私もそろそろ大学生の小松 夢衣(こまつ むい)卒業しないとだね。」


一「まあ、あと1年あるけど。」


夢衣「確かに。そういえば、一が先に社会人になるの不思議だね。」


一「だな。けど、全く仕事決めてない。」


夢衣「絵の仕事じゃないの?」


一「オファーは来てるけど、俺は『これを描いて』より『これを描く』がいいから一旦保留にしてもらってる。」


夢衣「そっかー。仕事になると自分の好きなの描いたりするの減っちゃうのか。」


一「そうそう。だから金稼ぐのは別で、絵は自由に描けるようにしようかここ最近考えてる。」


夢衣「他の仕事したら時間なくならない?」


一「瑠愛くんのとこなら携帯1つで頑張ったら1ヶ月15万以上は稼げるようになってるからそれでもいいかなって。」


夢衣「いいなぁ。私もやりたい。」


一「人の悩み相談だぞ?たまに胃が痛くなる内容とかあるから夢衣にはきついかも。」


夢衣「じゃあやめとく。」


そう言って夢衣は持ってきていたお茶を飲み、喉を潤す。


一「夢衣は?どんな仕事したいとかある?」


夢衣「んー…、小さい頃から丘の上の海が見える家に住みたいくらいしか将来のこと考えてなかったら何がしたいとかない。」


一「夢衣って海好きだな。」


夢衣「じぃじとばぁばの家にあった階段途中の顔1個分の窓からいつも海見るの好きだったの。」


一「家族と海行った?」


夢衣「行ったよー。中学生になってからは冬も行ってた。」


一「冬は夏みたいに人がいなくてうるさくないからいいよな。」


夢衣「うん!冬の柔らかい海好きなの。」


一「あー、なんか柔らかい感じするよな。空気が冷えてるからか?」


と、俺が質問すると夢衣は目を煌めかせて俺を見つめてきた。


一「え、どうした?」


夢衣「みんな海は夏って言うからこの話しても誰も分かってくれなかったの。…やっぱりひーくん好きだなぁ。」


そう言うと夢衣の目から涙が溢れてしまう。


夢衣「私の好きを分かってくれるのひーくんしかいなかったんだ。だからいっぱい一緒にいたくなっちゃった。」


一「これからも一緒にいるよ。学校が始まっても遊ぶだろ?」


俺は夢衣の溢れていく涙を拭き取り、夢衣の想いを受け取る。


夢衣「…でも、忙しいでしょ?」


一「まあまあな。文化祭とか卒展とか色々あるけど、俺は今のとこどこかに就職する気ないから就活の忙しさはない。」


夢衣「いいな、文化祭楽しそう。」


一「来てよ。来虎さんと文化祭デートありじゃん。」


夢衣「んー…。来虎は社会人だし、京都住みだから来てくれないかも。」


一「そんなとこから来てたのか。まあダメだったら俺とするか。」


夢衣「ねねちゃんいるじゃんっ。」


一「3日間あるから恋人3人まで大丈夫。」


夢衣「…最低。」


夢衣の涙はいつの間にか引っ込み、むっすり顔になっていた。


一「女も“遊び”を“デート”って言うじゃん。そういうこと。」


夢衣「それならいいよー。明ちゃんたちも展示するんだよね?」


一「もちろん。俺はそれとは別で貸し教室1部屋を作品にする大役もらったから夢衣にも見てほしい。」


夢衣「え?一だけ?」


一「将も選ばれたらしいよ。匿名制だからどの作品か生徒同士は共有出来ないけど、夢衣には言えるから。」


夢衣「そうなんだ!じゃあ行かないとダメだね!」


一「うん。何か描いてほしいのある?」


夢衣「え?」


一「テーマ的なの。夢衣が絶対来るために。」


夢衣「んー…、なんだろう。」


夢衣はしばらく考えるがすぐには出てくない様子。


一「…夢衣の絵でもいいよ?」


夢衣「私の顔とかってこと?」


一「うん。夢衣可愛いし、画になる。」


夢衣「ありがとっ♡」


一「じゃあ、可愛い夢衣をいつでも見れるように写真撮るか。」


夢衣「はーいっ♡スタイル良く撮って!」


俺は自分が持ってきたカメラで夢衣が好きと言っていた海と一緒に撮り、夏の煌めきで少し痛く感じる海の光をなんとか柔らかくして夢衣の好きなものを詰め込んでいく。


その中でこの思い出をしっかりとカメラで納めていく俺を見る夢衣の目はやっぱり可愛らしくて、本物にいつも側にいてほしいと思ってしまうけどそれじゃ二人三脚で動かないといけないことになる。


だから2人して違う道へ進んでも手を振って見える距離感をこれからも関係を続けていけたらなって思うんだ。


今の夢衣もそう思ってるようにあの時涙を流してしまったんだろう。


俺もまだまだ夢衣を好きなところを諦めきれてないけど、これからゆっくりとお互いの好きが友達の好きへ変えられるように頑張ろうな。





→ ナツノオワリ


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