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一なつの恋  作者: 環流 虹向
8/26
170/188

7:00

俺は腕の中にいるひまわりと少し火薬の匂いが残った音己ねぇを力いっぱい抱きしめて、目を開ける。


今日は音己ねぇとデートをすることにした。


音己ねぇは水曜じゃなくても彼女だから快くOKをしてくれて、日をまたいで終電をなくした俺にベッドと体温をくれた。


一「音己ねぇ、牛乳飲もうよー。」


俺はまだ腕の中にいる音己ねぇを起こすために、自分の体を揺らし振動で音己ねぇを起こそうとするけど全く起きてくれない。


俺は眠り姫な音己ねぇを抱きながら、携帯を取り彼女の音己ねぇをもっと理解するために昨日の夜入れたマンガアプリを開いて音己ねぇが好きそうな少女マンガを読み進めていく。


けど、何回も読み返しても脳みそが働いていないのか文字が入ってこない。


こんな嬉しそうにしている主人公の顔がデカデカとフワフワキラキラ輝いているのに、なんでその顔をしているのか分からないでいると、顎置きにしていた音己ねぇの頭が動いた。


一「音己ねぇ、起きた?」


音己「…ぅうん。」


どっちだよと思いながら携帯を置いて、昨日俺がふざけて背中文字をした時に分かった音己ねぇの弱い背中に一筋の線を描く。


音己「んゃっ…!や、やめてよ。」


と、体を跳ねさせて俺の首元から顔を出し、顔を赤らめる音己ねぇ。


一「全然起きてくれないんだもん。」


音己「休みなんだからゆっくり寝ようよ。」


一「ニートは毎日休みだよ。」


そう言うと音己ねぇはシャツの下にある俺の背中に1本線を描いたが全く俺が可愛い声を出さないと、音己ねぇは不貞腐れてまた目を瞑った。


一「起きてよー。俺、すごい暇人。」


音己「プラン考えといてよ。運転はするから。」


一「一緒に考えるのがいいんじゃん。」


音己「じゃあ、関東。」


範囲広すぎだろと思いつつ、関東圏の夏のデートオススメスポットを検索して候補を出していく。


一「水族館?」


音己「腹減る。」


一「岩盤浴?」


音己「腹減る。」


一「登山?」


音己「腹減る。」


一「朝飯食ってないからじゃん。」


音己「…朝飯食うか。」


そう言って音己ねぇは俺の腕の中で起き上がりするりと抜けると、1人でキッチンに向かっていった。


俺は食べ歩きが出来る横浜中華街で決まりかなと思っていると、それよりも音己ねぇが好きそうなものが出てきた。


俺はその場所のことをじっくりと調べていると、飯を作り終えたのか音己ねぇが俺を呼びに来た。


音己「朝飯食わないの?」


一「菓子屋横丁どう?」


俺は最有力候補のデート場所の名前を出す。


音己「菓子屋…?横丁…、ってことは菓子いっぱい?」


と、たまたま駄菓子屋を見つけた奏のように音己ねぇは目を光らせる。


一「うん。レトロな街で菓子も飯もあるよ。」


音己「行く!どこ?」


一「埼玉でここからだと1時間くらい。」


音己「そんな天国横丁が1時間県内にあるなんて知らなかった。」


俺が思った以上に心高ぶらせてくれる音己ねぇの様子が可愛くてしょうがない。


俺は起き上がり、音己ねぇの頭を引き寄せておでこにキスをする。


一「俺の彼女は可愛いなぁ。」


音己「…未来のない彼女だけどね。」


と、デレた俺に背を向け部屋を出ようとする音己ねぇを俺はとっさに抱き止める。


一「そんなこと思ってたの…?」


音己「だって…、この間サンドイッチして寝た時も、ホタテ焼いてた時も、私の未来は一じゃなくて知らない誰かって言うんだもん。そう思っちゃうよ。」


…そう、思ってほしかった。


けど、昨日の夜の寂しさを埋めてくれたのは確実に音己ねぇで、これからも一緒にいてほしいって自分勝手だけど思ってしまった。


一「…俺、すごい自分勝手。」


音己「私も…、そうだよ。」


と、音己ねぇは苦しそうに言う。


一「好きな人がこっち向いてくれないから、ずっと好きだった人と目が合って抱きしめてもらってすごい嬉しくなっちゃった。」


俺は音己ねぇにこの気持ちを隠し続けるのは嘘をついているものだと感じて正直話すことにした。


一「好きだった人でも好きなのは変わらなくて、初めて見る音己ねぇも、付き合ってからの音己ねぇも、どんどん好きが増えるんだ。」


いいのかな。


ここまで正直に言って、あの道を潰してしまってもいいのかな。


一「だから…」


音己「待って。」


と、音己ねぇは俺に背を向けたまま胸の前にある俺の腕を震える手で掴み、俺の言葉を止めた。


音己「ちゃんと全部終わって、全部分かってからにして。」


一「…姐さんから聞いた?」


音己「うん。私は応援したいから昨日さきを連れてきたの。だから精一杯やってダメだったら今の続き話して。」


俺の腕の上に温かい朝露が落ちてきて、肌に触れるとなぜかすぐに冷めきってしまう。


音己「私は一のことちゃんと知ってるけど、さきはまだ知らないことがあるかもだからちゃんと伝えて。」


一「…分かった。」


俺は前を向いたままの音己ねぇの顔についた朝露を拭き取り、ゆっくりと腕から放す。


すると、音己ねぇは1度深呼吸をして顔だけ俺に向けて笑顔を作った。


音己「味噌汁作った。あとは目玉焼きとむーこのトマト。」


一「全部食べたいって思ってた。」


俺は音己ねぇの手を取って、一緒にキッチンに行き朝飯を食べてのんびりとデートの支度を進めた。





→ bird's sorrow


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