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一なつの恋  作者: 環流 虹向
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7:00

俺は奏の家で雑魚寝しているみんなの浴衣を取りに瑠愛くんの家にいる天に会いに行くと、玄関には海斗よりも桃汰さんよりも身長もガタイもデカい男が立っていて心臓が止まりそうになる。


「あ、すみません。お邪魔してます。」


と、小さく会釈した男の手には夢衣がお気に入りと言っていた財布と携帯くらいしか入らないリュックがあって思わず首を傾げてしまう。


「え!?一、髪の毛明るくしたんだっ!」


俺と男が目の前にいる存在の認識に戸惑っていると、肩まであった髪を耳下まで切って段々のチョコフォンデュのようなエアリーなショートパーマのヘアスタイルになった夢衣が俺を見て驚く。


一「夢衣がそこまで切ったの初めて見た。チョコバナナみたいで可愛い。」


夢衣「え?チョコバナナって可愛いの?」


俺たちがニューヘアの話をしてると、俺の隣にいたデカい男が笑った。


「大丈夫じゃん。俺いらないよ。」


夢衣「ううんっ。ココにいてほしいの。」


と、少しむくれた顔をしながら夢衣は靴を履き始めた。


一「…この人、誰?」


夢衣「あっ…」


「昨日、瑠愛くんたちと一緒に呑みした大咲 来虎(おおさき ここ)です。」


夢衣の紹介し忘れを綺麗にフォローした来虎さんだったけど、桃汰さんのことがあり素直には好きになれなかった。


夢衣「夏くんと知り合いの人だよ。」


来虎「一さんも夏と知り合いなんだ?」


夢衣「そうそう。悠ちゃんも一緒の学校だよ。」


そんなに個人情報をペラペラ話して大丈夫なのかと怪しんでいると、来虎さんはそんな俺の顔を不思議そうに見つめてくる。


夢衣「桃汰みたいな人じゃないよ?」


と、夢衣は俺の思ってることをあっさり見抜いて言ってきた。


一「あいつも最初そうだっただろ?」


夢衣「でも、夏くんの知り合いだよ?」


それもそれで俺的には腹立たしいことで、やっぱり夢衣が伝える来虎さんを好きになれない。


来虎「一さんがそんなに嫌なら俺は花火行かなくていいけど…。」


夢衣「やだ。来虎も行くの。」


一「おい。もう少し…」


夢衣「一、こっち来て。」


と、夢衣はさっき履いた靴を脱ぎ散らかして自分の部屋に俺を連れて行く。


一「俺、あんな大きいのに体当たりしたら骨折れる。」


夢衣「しなくて大丈夫だよ。来虎はいい人だもん。」


一「なんでそう言い切れるんだよ。」


夢衣「私の傷のこと知ったら泣いてくれた。」


一「嘘泣きかも。」


夢衣「可哀想とか痛そうじゃなくて、一みたいにケアしようって言ってくれたもん。」


そう言うと夢衣は目を潤ませる。


夢衣「来虎は私のことちゃんと人として知ってくれたよ。一みたいに私の1番になろうとしないで独りになりそうなときに側にいるって言ってくれたもん。」


一「…俺、1番になりたかったけどな。」


夢衣は俺のことをただのラブドールとしてしか思ってないから、1番もなにもそこら辺にあった道具でしかないんだ。


夢衣「…今も1番だもん。けど、一が付き合っちゃダメって言うからごっこして一緒にいてもらったの。」


一「じゃあなんで殺そうとするんだよ。なんで閉じ込めるんだよ。そうしなかったら俺、ちゃんと夢衣のこと好きになったかもよ?」


夢衣「…もう一の好きは聞きたくないよ。」


なんでみんな俺の好きを拒むんだよ。

俺の好意ってそんなに煩わしいものなのかよ。


一「もういい。来虎さんに襲われても俺、助けてあげられないからな。」


夢衣「いいもんっ!来虎はそんなことしない人だもん!」


一「なんで…」


俺が言葉を投げかける前に夢衣は勢いよく部屋を飛び出し、俺から逃げるように来虎さんと外に行ってしまった。


…なんで、そんなすぐに違う男に乗り換えられるんだよ。


俺、夢衣と別れたとき解放された嬉しさより夢衣と会えない喪失感の方が大きかったし、彼氏出来たの知って日光も月光も射さない埃臭い自分の部屋で1人泣いたのに夢衣はそんなこともしてくれないんだ。


俺はまだ夢衣の匂いが残っているベッドでふて寝をかまそうとしていると、天が心配そうに俺の側にやってきた。


天「…夢衣ちゃんと喧嘩したの?」


と、俺がヘアカラーを変えたことよりも夢衣とのことを聞いてくる天がとても優しく感じて今は家族と思えた。


一「また懲りずに俺よりデカい男を好きになった。女はそんなに守られたいのかよ。」


初めて俺は妹に愚痴をぶつけた。


天「女でも男でも守られたいって思うじゃないの?ひぃ兄だって音己ねぇに守ってもらったじゃん。」


一「音己ねぇは勝手に守ってくれただけ。」


天「ひぃ兄も私のこと勝手に守ってくれた。」


一「電話してきたじゃん。」


天「学校じゃなくてお父さんとお母さんから。」


そう言って天は俺の新しい髪をいじりだす。


天「あの時、家に強制送還されてたら本当に屋上から飛ぼうって思ってたよ。もう何やってもダメだなぁって思ってたし。」


一「天は俺よりダメじゃない。」


俺はベッドに埋めていた顔を天の方に向け、本音を伝える。


一「俺は頭打っても打たなくても医者にはなれない。もともと血苦手だし。保険の教科書に乗った人体の絵でも気持ち悪くなったから多分無理だった。」


天「私も苦手…。」


一「警察になるのも人の死体見たりするから無理。しかも、なりたいって強く思う信念ってやつがないからならない方が国のためでもあるって思うんだ。」


天「同じくぅ…。なってもすぐ辞めちゃうと思う。」


俺は仰向けになり、天を横目に家族に言いたかったことを言う。


一「すぐ辞めるものに俺の人生20年以上使うなら、金がなくてもずっとやり続けたいって思うことを死ぬまでやってたいって思うんだ。」


天「そうかも…。」


一「…俺の担任が世界の大半は自分にとっての無駄なものって言ってたの、すごい納得したんだ。」


天「なんで?」


と、天は俺の顔を不思議そうに見てきた。


一「父さんと母さんが俺の夢を無駄って思うのはその大半に入ったからだと思ってさ。だから天が頑張ってる夢も無駄とか趣味は定年にって思うんだって考えたら、あいつらの大切なものって本当に金くらいなんだなって思った。」


天「だから給料が良さそうなとこばっかり言うんだ。」


一「まあ、金は生きる選択肢を広げてくれるけど、その選択肢を選ぶ暇もない人生を送るなら俺は少ない金であいつらより少ない選択肢の中、生きてもいいかなって思うんだ。せっかく選び放題なのに選べないなんて悲しくない?」


天「…確かに。お金あってもあの家、ずっと殺風景だし、物なくて寂しい感じする。」


そういう物理的なことじゃないけど、天なりにあの家が寂しいって思うならいいか。


一「そんな家に友達0人な天が独りでいたのに、浴衣のデザインが全部違うのは何も出来ない奴には出来ないことだ。俺はあの家で白黒しか描けなかったから天の方がすごい奴。」


天「…なんか、ひぃ兄にちゃんと褒められたの初めてかも。」


一「そうか?俺、お世辞は吐くほど言ってるけど。」


天「ひぃ兄って吐きグセあるの?」


一「ない。吐きダコもない。」


俺は手の甲を見せて天を安心させる。


天「じゃあ本音?」


一「本音。」


やったぁ!とバカみたいにはしゃぐ天を見て、さっきの気持ちが少し晴れ、俺は天と一緒に奏の家に浴衣を持っていくことにした。






→ 在るべき形


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