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一なつの恋  作者: 環流 虹向
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22:00

俺は瑠愛くんに頼まれた事務作業を終えて、仕事前に音己ねぇと約束した個室の海鮮焼き店で夜飯を食べる。


一「音己ねぇって貝焼くの上手いよね。」


音己「好きなものは美味く食いたいから。」


そう言って、音己ねぇは塩バターでホタテを焼いていく。


一「…奏は今何してる?」


俺はあの後、音己ねぇと公園を出て1時間近くカフェで気分転換をしていたらその間に奏は家に帰ってしまっていた。


音己「部屋から出てこない。」


一「夕飯も?」


音己「腹減ってないって。…いつも一緒に食べてたのに。」


そう呟いた音己ねぇの顔は今日見た奏の顔と瓜二つで、なんで俺は幼馴染で親友の好きな人と付き合っているんだと何度も考えてしまう。


一「今度…、3人で飯行く?」


音己「奏、来てくれるかな。」


一「来てくれないなら家でピザパしよ。」


音己「うん。奏の好きなトランプキャプターもみじ見よ。」


一「見る。見終わるまで毎日行く。」


音己「見終わっても一の好きなメンマ見よ。」


一「見る。その子どもの話も全部見る。」


こうやって2人で奏のことを思っていても、奏は俺のことをどう思っているのか分からない。


…もしかしたら、嫌われたかもしれない。


一「…俺、奏だけには嫌われたくない。」


けど、俺が先に奏のことを嫌いになりそうになったから音己ねぇと付き合った。


そうしないとこれからもずっと音己ねぇのことを想うだけでこの人生を終わらせるかもしれない。


それでもいいと奏が思うならいいけれど、襲われて音己ねぇが奏を嫌うことは家族の距離が物理的に遠いあの家であってはならないことだと俺は思うからこうするしかなかった。


音己「…ごめん。」


一「音己ねぇのせいじゃないよ。好きになるのは自分でも変えられないよ。」


俺は焼き上がり直前のホタテに落としていた目線を辛そうに謝った音己ねぇに上げると、音己ねぇは声を出さずに泣いていた。


音己「昔から私のこと好きっていっぱい言ってくれるのは姉さんだからだとずっと思ってたから野放しにしてた。」


一「…誰でもそう思うと思うよ。」


音己「子どもの頃はお父さんとお母さんの真似して口にキスしてたけど、私が恥ずかしくなって奏が中学生になってからやめたの。」


…だから、キスが納得いかないって言って3週間で別れたのか。


音己「昔から私じゃないと嫌だって駄々こねてたのが可愛いって思ってたけど、それは私の思ってた感情とは違うものでずっと奏に勘違いさせてた。」


一「家族って愛があって生まれるもんじゃん。…音己ねぇたちの家族はそこら辺の家族の中でも距離が近くて仲よかったもん。」


俺の家はそんな愛はなくて、今はただ血の繋がりある年上の男と女がいて同じ腹から生まれた年下の女がいるだけ。


そういう家庭だから俺は奏と音己ねぇの家族がすごい羨ましかった。


一「俺が奏になれるなら代わりたい。酒に呑まれなければ自制できてたんだ。きっと俺よりいい彼氏になれた。」


音己「…一はいい彼氏だよ。」


一「ううん。いい彼氏が目の前に泣いてる彼女がいるのに他の人のことを考えるわけない。」


俺と付き合ってる限り、音己ねぇも奏も辛い思いを抱え続けるだけだ。


昼に音己ねぇのことをちゃんと好きになろうと思ったけど、その後の奏の行動を見てダメだと思った。


俺はやっぱり奏とも音己ねぇともずっと一緒にいたいから別に好きと思える人と付き合うよ。


音己「…私、そんなにダメかな。」


ずっと涙が止まらない音己ねぇは俺を求めるような目で見つめてきたけれど、俺は応えちゃダメなんだ。


好きは好き。


けど、俺の中でやっと新しく好きな人が出来て“好きだった”になってくれたんだ。


お願いだから過去から飛び出さないで。


俺は寂しがりやだからそんなことされたら抱きしめちゃうから。


…そしたら俺の大好きな奏が悲しむから。


ダメなんだ。


一「彼氏が仕事のない絵描きで彼女がニートの器用貧乏なんてどこのドラマ?そんなの現実で付き合ったら野垂れ死ぬよ。」


音己「私、働くよ。」


一「今の時代、共働きでカツカツなのに1人だけじゃ無理だよ。」


音己「…好きで付き合えるのって子どもの時だけなんだね。」


一「俺はずっと子ども。みんな子どもだよ。けど、失くしたくないものがどんどん生まれるから世間一般の大人ぶるだけ。好きで付き合えるのは失くしたくないものが好きな子だけの時だよ。」


音己「好きな子だけの時なんかないよ。」


一「うん。俺もない。」


そう思い込めば好きで付き合えるけど、後になって現実がその関係を叩き壊そうとするから修繕に抜かりない恋人同士が付き合い続けられるんだ。


今の俺はその維持が出来ないから、音己ねぇの求める存在にはなれない。


一「音己ねぇは俺よりもかっこよくてお金持ちで強そうな人がお似合いだよ。」


音己「似合う人より、ずっと好きな一がいいよ。」


なんで…、そんなこと言うんだよ。


諦めてくれよ。

俺は姐さんに出会えてやっと音己ねぇのこと諦められたんだから、音己ねぇもそうしてよ。


一「音己ねぇって頑固だね。」


音己「私も奏も頑固で一途なの、一は知ってるじゃん。」


一「一途なのはこの間知ったけどね。」


音己「私は一が一途なの知ってる。だから応援したけど、私のことは応援してくれないの?」


そんなに俺を好きって思っててくれたなら、もっと早く言ってくれればいいのに。

音己ねぇは周りを見すぎて自分のことを後回しにしすぎだよ。


一「…応援する準備の時間ちょうだい。今、いろいろやってるんだ。」


音己「分かった。…明日、むーこの迎え11時でいい?」


と、音己ねぇは近くにあった紙ナフキンで涙を拭き取り、焦げたホタテを弄りながら明日の話をし始める。


一「うん。音己ねぇと出かけるの楽しみって言ってた。」


自分の気持ちを隠すのが得意になってしまった音己ねぇがこの俺と一緒にいて幸せと感じてくれるとは思えなかったけど、こんなに求めてくれるなら少しの時間だけ一緒にいたいって思ってしまった。


こんな優柔不断な俺はちゃんと夏終わりに姐さんを諦めることが出来るのかまだ分からないけど、それは姐さんと約束したことだからちゃんと果たさないといけない。


俺はどっちも好きだった人にするためにこれからの日々をどう過ごすか考えながら瑠愛くんの家に帰った。





→ 言わなくても伝わる あれは少し嘘だ


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