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一なつの恋  作者: 環流 虹向
8/23
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12:00

無事J ORICONNの絵を提出し終えて、俺は奏たちに会わせたい人がいると言って百瀬公園へピクニックに誘った。


明「誰かなー?」


将「こんなに改まってだから、恋人か?」


海斗「それかアーティストか?」


奏「その人、あとどのくらいで来れそう?」


俺はその人からのメッセージを確認して、あと少しで着くことを学校のロビーで人物予想するみんなに伝える。


「ごめん。待たせた。」


と、出入り口の玄関から1番近くの椅子に座っていた俺に声をかけてくれた音己ねぇに俺は手を振り、自分から駆け寄る。


奏「あれ?音己ねぇ?」


音己「用ってなに?」


一「俺、音己ねぇと付き合うことになったから。」


そう言うと明と将が叫び、奏と海斗の驚いたまま表情が固まる。


音己「…ち、ちょっと、やめて。」


一「J ORICONNの絵も提出できて一段落したし、今日はなんもないって言ってたからみんなで百瀬公園行って日向ぼっこしながらピクニックしたいなって思ったんだ。」


だめ?と俺はわざとしょげた顔を見せると、音己ねぇは観念したのか小さく頷いてくれた。


明「わぁ…♡幼馴染カップルって可愛いね!」


将「音己ねぇはもっと強そうな人を好きになるかと思った。」


一「俺、弱い?」


そう言うことじゃないと将は慌てて否定したけど、俺も前にそう思ったから傷つきはしない。


海斗「まあ、仲がいいなとは思ってたから頷ける。」


そう言う海斗の隣でなにも口にしてくれない奏の顔を俺は見れなかった。


一「みんな揃ったことだし、百瀬公園行くか。」


少し息苦しさを感じながらも俺は、この間行きそこなった百瀬公園で数人に祝福してもらいながら時間を過ごす。


明「いつから?」


一「おつかれ会した次の日。」


将「一段落したから付き合ったのか。」


一「そんな感じ。」


海斗「音己ねぇから?」


一「俺から。」


奏「…音己ねぇからだと思った。」


と、奏は初めて口を開き、そう言った。


一「この間、デートした時にいいなって思ったんだ。」


奏「この間?」


…本当に酒に呑まれて何も覚えてないらしい。


俺は大好きなヒーローの奏が酒のせいで欲望をさらけ出して自分の求めるものを強引に手に入れようとしたことに、少し嫌いになってしまいそうになる。


一「そう。浅草で何軒かハシゴして東京タワー見ながら一緒に朝まで過ごした。」


ね?と俺は嘘偽りないことを音己ねぇに確認する。


音己「…うん。だから朝帰りした。」


明「やだっ♡はれんち馴染みなんだ!」


海斗「朝に帰っただけだろ?」


将「一と音己ねぇってなんだかんだペース合うからなぁ。」


奏「…そっか。おめでと。」


ダメだ。


奏のそんな顔、俺耐えられないよ。


俺は買ったばかりの水を飲み干して、これから足りなくなる水分を補給するためにみんなの飲みたいものを聞いて1人売店に向かっていると明がやってきた。


明「おめでとー。」


一「あ、りがと…。」


明「なんで、音己ねぇ?さきちゃんじゃないの?」


と、人間観察が得意な明はそう聞いてきた。


一「…姐さんは俺じゃダメなんだ。」


明「なんで?好き同士だと思ってたけどな。」


一「ううん。違うよ。」


俺は自分の好きを自分で否定する言葉を出して、涙が堪えきれなさそうになる。


一「…あっ!あっちにめっちゃ可愛いワンピース着てる子いる!」


俺は誰もいない木陰を指して明の目を俺の顔から逸らし、急いで涙を袖で吸い取る。


明「えー?どこ?いないよ?」


一「あれ?白っぽいワンピースの子いた気した。」


明「あそこのゴミ袋と勘違いしたんじゃない?」


と、明は笑いやっと現れてくれた売店に駆け出す。


…音己ねぇとの約束はちゃんと守らないと。


俺はそう心の中で約束の結び目をきつく結んでいると、見たくないものが視界に入ってしまった。


ゴミ袋が風で飛んでいった少し先にある広場のベンチで、なぜか夏と俺が見た事ないスポーツウェア姿の姐さんが一緒にいた。


俺はその2人がなぜここにいるのか気になってしまい、アイスをどれにするか夢中な明に何度も呼ばれても目が離せないでいると姐さんが急に泣き出してしまった。


俺はその場から姐さんに駆け寄ろうと思ったその時、夏が姐さんの涙を拭いて抱きしめた。


俺はその光景を見て、どうしても確かめたいことを瑠愛くんに電話する。


瑠愛『やぽぽいっ。一くんどうしたの?』


一「…今、夏って仕事中?」


瑠愛『ううん!夏くんは少し前から夏休み休暇取っててしばらくの間は休みだよー?』


一「そう、…なんだ。」


瑠愛『どうしたの…?』


一「いや、先輩に仕事の心得聞いとこうと思って。」


瑠愛『なるほどね!じゃあ、伝え…』


一「ううん。俺から連絡取るから大丈夫。」


瑠愛『分かった!今日の夜からよろしくね!』


一「うん。また後でね。」


そっか。

2人は客とキャストの関係じゃなかったのか。


…俺が1番姐さんの側にいてあげたかったのに、姐さんが1番求めていたのは夏だったんだな。


だからずっと夏が姐さんの側にいて、姐さんは夏を頼るんだ。


一「明、ごめん。俺、学校に財布忘れたから取りに行く。」


明「…あれ?さっき使ってなかったっけ?」


一「さっきは電子。チャージ出来ないくらいカツカツだから取りに行かないと。」


明「じゃあ、俺も一緒に…」


一「大丈夫。…ちょっと1人になりたいし。」


そう言うと明は心配そうな顔をしながらも、ちゃんと戻ってきてねと俺に約束を取り付ける。


俺はその約束を守れるか微妙だったけど、数時間経てば戻れるはずだから言葉は何も出さずに1度頷き、1人出口に向かう。


俺はあの2人が同じ空間にいるってだけで自分の気持ちがいっぱいで、すぐそばで自分の気持ちを押し潰し始めた奏を見たら泣いてしまうから今はみんなの元に戻れない。


みんな、こんな自分勝手な俺でごめん。


でも、楽しい場所は楽しい場所であり続けてほしいから俺はそこには行けない。


「一!」


と、俺が静かに地面を後ろへ蹴っていると音己ねぇが俺を呼び止めた。


けれど、俺は後ろを振り返ることは出来なくて俺との関係性に1番困っている音己ねぇをさらに困らせてしまう。


音己「明が心配そうにしてた。どうした?」


そう俺の背中に話す音己ねぇに俺は答えるため胸が張り裂けそうな気持ちで振り返ると、音己ねぇの頭の向こうにいる姐さんが夏に頭を抱きしめられてキスをされていた。


一「…音己ねぇ、寂しい。」


音己「なんでも言って…?」


今、彼女になった音己ねぇにまだ好きな姐さんの事を正直に話せるバカにはなれないよ。


一「なにも聞かなくていいから、キスしよ。」


音己「…分かった。」


俺はその場で自分が求めていたよりも小さいひまわりに俺の舌を使って寂しさの肥料を入れ込む。


こんな事したってどうしようもないのに、音己ねぇをもっと悲しませてしまうのに、何度も繰り返してしまう。


変わろうとしても変われなくて、戻ろうとしても戻れない今の俺はもうどうすればいいか分からない。


けど、そんな俺にも分かった事が1つだけある。


夏は憧れじゃなくて、嫌いな存在になってしまった事。


これはただの嫉妬だけど、どうしてもその存在が俺の中で許せないものになってしまった。


俺はまた自分勝手な思いが生まれてしまい、自分が嫌になっていると音己ねぇはそんな俺を公園から連れ出してくれた。


こういう音己ねぇだから俺は好きなんだ。


俺のことをずっと見て、分かってくれる音己ねぇをちゃんとまた好きになろう。


俺はそう決めた。





→ 君のいない場所


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