22:00
「おーい。自分で歩けー。」
俺は奏の肩を担ぎながら、酔っぱらいの奏を家に送る。
外で呑むときはしっかり自制している奏だけれど、今日は絵の完成が嬉しかったのか酔った明と同じくらい騒いでその場を楽しんでいた。
その明は恋人である将が家に送ると言って、海斗は絵の完成を祝おうと愛子ちゃんに言われたらしくその足で愛子ちゃんの家に向かった。
ラブラブなカップルたちを見て俺は妬いたけれど、どうにもならないので自分の消化不良な気持ちをため息に混ぜて捨てる。
奏「ひぃーと。」
と、奏は俺のため息に何を思ったのか、俺の名前を呼んだ。
一「なんだよ。自分で歩けって。重いんだけど。」
奏「ひとはぁー、ねぇたん好き?」
またシスコンが始まった。
俺はそんな奏に呆れて適当に答えることにした。
一「好き好き。だーい好き。この間、デート行っちゃったよ。」
奏「…ぇえ?デート?」
一「浅草デート。一緒に夜明かしちゃったよ。いいだろー。」
そう俺が煽ると奏は俺の膝が崩れそうなほど体重をかけ、腕で俺の首を絞めてきた。
奏「ああぁぁああんっ!俺もねぇねとデートしたいいぃぃ!」
一「…かな、でっ。俺、死にそ。」
俺は酔っていつもより力が強くなった奏から逃れるために必死にもがき、死にかけでたどり着いた奏の家のインターフォンを押す。
「遅い。」
と、寝間着姿の音己ねぇが若干眠そうな顔をして出てきてくれた。
奏「うわぁっ♡音己ねぇ、今日のパジャマかわたんだねぇ!」
愛しの音己ねぇと再会出来た奏は音己ねぇに抱きつき、首元に腕を持っていくと軽くぶら下がる。
音己「ありがとう、一。」
一「うん。じゃあおやすみ。」
音己「おや…」
奏「一はぁ…、ねぇたん大好きなんだってぇ。」
と、奏はさっき言った冗談を音己ねぇの前で暴露した。
一「…お、おい。違うって。」
奏「ねぇねは、一のことずうぅっと好きなんだよね…?」
奏の発言に音己ねぇの全てが固まる。
奏「けど、俺はずっと音己ねぇに片想いぃ…。俺だけ片想いっ…なのぉ。」
と、泣き出しそうな声でそう言った奏は自分の腕の中にある音己ねぇの顔を引き寄せて唇を合わせた。
一「おい!何やってんだ!」
俺は急いで奏を音己ねぇから引き離すと、その拍子で奏はバランスを崩し地面に倒れる。
奏「俺ぇ…、ずっと音己ねぇ大好きなの。音己ねぇじゃないと全部やだぁ…。」
そう言って奏は倒れたまま泣き出した。
一「奏、酒の呑み過ぎだ。姉弟でキスするなんて酔っててもやっちゃダメだ。」
奏「みんな…、みんな好きな子とっ、ちゅーしてるのに。なんで俺はダメなのぉ。」
一「だから、姉弟は…」
音己「もういいって。とりあえず、家入ろう。」
音己ねぇは奏の手を掴み、体を引き上げる。
奏「音己ねぇ大好きなのっ。付き合おうよぉ…。」
音己「考えとく。」
そう音己ねぇは冷たくあしらいながら奏と俺を冷えていたリビングに通す。
音己「一、奏のパジャマ持ってきてくれる?」
と、好きを呟く奏を腰にぶら下げたまま音己ねぇは頼んできた。
一「でも、2人にして…」
音己「黒帯手にかかりかけた私だから大丈夫。」
一「…分かった。」
俺は急いで奏の部屋がある2階に行き、寝間着を探していると2人がいるリビングの方から何かが割れた音がした。
俺は床に脱ぎ捨ててあった昨日の寝間着と思われるものを持って急いで戻ると、いつの間にか上裸になった奏が抵抗する音己ねぇを床に押し倒して貪るようにキスをしていた。
俺はその奏を見て心臓に痛みを感じながら急いで音己ねぇから引き離す。
奏「なんで…、なんでダメなの…。」
一「…さっきから言ってるだろ。姉弟だからダメなんだって。」
奏「姉弟やめたいよぉ…。けど姉弟じゃないとねぇたんは俺と一緒いてくれない…。」
そう言って奏は床に倒れこむように泣き崩れた。
一「音己ねぇ大丈夫?」
俺は奏を脚と腕でしっかりと捕まえながら、床に倒れたまま俺たちに背を向ける音己ねぇに聞く。
音己「…だめ。一、帰らないで。」
初めて聞く助けを求めるような音己ねぇの声を聞き、俺も泣きそうになる。
一「帰らない。今日は俺、音己ねぇと一緒に寝るから。」
奏「えっ…!?俺も…」
一「奏はダメだ。」
奏「…なんでっ。俺、寂しいよ。」
一「寂しくても、危ないから…」
奏「俺、ずっとねぇたん守ってたもんっ…。」
一「そういうことじゃ…」
音己「3人で寝よ。」
と、俺が気づかない間に音己ねぇは俺が持ってきていた奏の寝間着を拾い上げ、泣きっ面の奏に着させる。
奏「ねぇねの隣がいい。」
音己「それはダメ。一が真ん中だよ。」
奏「…ねぇちゃんがいいのに。」
音己「これで我慢ね。」
そう言って音己ねぇは自分から奏にキスをした。
奏「…うんっ!我慢するね!」
音己「うん。それじゃあ寝よう。」
俺は音己ねぇの辛そうな笑顔で目の前が歪み、歩けないでいると音己ねぇは俺の手を引いて自分のベッドまで案内してくれた。
音己「明日は日曜日だから昼までゆっくり寝よう。」
奏「うんっ!ねぇね、おやすみねー♡」
音己「おやすみ。」
一「…おやすみ。」
音己「おやすみ。」
奏「おやすみぃ…。」
俺は2人の抱き枕になり、息苦しさを感じながら寝苦しい夜を過ごした。
→ 電車の窓から