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一なつの恋  作者: 環流 虹向
8/21
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12:00

「あー!無事、完成っ!」


と、明が達成感満開な声を出して体育館の床に倒れこむ。


奏「乾燥があるから発送は月曜でいいよね?」


将「おう!全員来れるか?」


「「「「行ける!」」」」


俺たちは事務所が開く10時に合わせて学校に集まることを決めると、栄美先生がどこからともなくやって来た。


栄美「おー!完成か?」


明「はい!『天畔の織星(あまほとりのおりぼし)』って題名です!」


栄美「天の川をテーマにしただけあって、星がたくさん煌めいてるな。」


と、栄美先生が絵を眺めていると突然後ろを向き、音もなく歩いていた夏に声をかけた。


その手には数枚の絵を持っていて何に使うのか気になったけれど、朝のことが少し気まずくて聞けなかった。


夏も俺と同様、朝のことがあってか少し足取りを重くして絵の前に立ち、俺たちの描いた天の川を見上げるとさっきまで俯いてしょげていた顔が一瞬で揚げえびせんが揚がったように目を見開き食いついてくれた。


俺はその素直すぎる表情に目がクギ付けになってしまい、自分たちの出来上がったばかりの絵よりも長く見てしまう。


栄美「山多、この花たちの名前は?こんなに種類分けできるなんてすごいな。」


と、織姫と彦星の下に敷かれた絨毯のようにある星の形をした花たちの名前を栄美先生に質問された将が答えていく。


俺は絵のことしか魅力的に感じてこなかったから花の名前なんて数個しか知らない。


栄美「千空は本当に夜景が得意だな。」


奏「親がよく写真で送ってくるので模写してます。」


栄美先生はその花の絨毯の隙間から東京の夜景を見つけたのか、奏の背景画を褒めた。


俺もあんな風に繊細な色合いを使い分けたいけれど、まだまだ勉強が足りていない。


栄美「なるほどな。この織姫と彦星の服は梅宮のセンスが光ってる。」


明「ありがとうございまーす♡」


明の好きなポップ×メルヘンの色合いで織姫と彦星が着ているラメが入ったレースの服を褒める栄美先生。


その服は2人の素肌を隠そうとしているけれど、夜空のようなレースの向こうから肌が見える刺激的なランジェリーのような羽衣。


それでも色気が強くないのはこの2人が直に肌を触れ合っていないからだろう。


栄美「佐々木はいつも腑に落ちる面を思いつくよな。」


海斗「バカ面じゃなくて芯なしにして正解でした。」


栄美「なんだそれ。」


栄美先生は海斗の2択に優しく笑いながらそのキャラクターデザインを褒める。


あの2人がこの時間をとても愛おしそうに大切に感じている表情を表せたのは海斗の想像力のおかげだ。


栄美「けど、あんなに嬉しそうにしててもどこも触れ合えていない2人が日向の感性が生きてるな。」


一「…あんま嬉しくないです。」


この2人が触れ合ってしまえばただの塗れ場の絵になってしまうから、心で愛し合っているのを感じ取ってもらうためにわざとそうしただけなんだ。


栄美「後ろは夜景が見えているのに、左から差す日光からの影があと少しで別れてしまう2人の気持ちを表しているように俺は感じる。」


栄美先生、違うんだ。


この光は天の川に浸っている冷えた2人の体を温めるために差した日光であって、そんな寂しいものじゃないんだ。


だからこの2人の周りには水中にいるような気泡があるじゃないか。


…俺以外のみんなはこの気泡は天の川の星屑にでも見えてるのかな。


「…これって川の中?」


と、俺の意図に気づいたのかそう質問してくれた夏に俺は心が救われた。


一「よく分かったな…!」


俺は嬉しくなり思わず夏の隣に行き、一緒の目線で絵を見る。


栄美「そうだったのか。てっきり星だと思ってた。」


と、栄美先生が言うと奏たちも星だと思っていたと口を揃えた。


けれど、この隣にいる夏だけが分かってくれるだけで俺は嬉しい。


一「水中は雑音が聞こえることがないから。この2人には静かな時間を過ごしてほしかった。」


水中にいれば水に浮かぶシャボン玉が陽の光でよく煌めき、外の雑音が耳に届くことはない。


姐さんをそこに連れて行ってたくさんの綺麗なものをたくさん一緒に見たかったけれど、俺には出来ないからこの2人だけには叶えてほしかった。


俺は夏だけに水中にした理由を話し、俺の感性を理解してくれたことに喜んでいると夏が小さく口を開いた。


夏「…逃げてごめん。」


と、朝のことを謝る夏。


一「気にしてない。見せたんだろ?」


永海があの桜の天の川を見れたのなら俺は逃げられて良かったと思ってる。


夏「うん。」


一「見せたい人がいるなら見せないと。俺は見せられないから夏が羨ましい。」


この絵を姐さんに見てほしかったけれど、それはこの絵が入選しないと叶わないんだ。


だから夏のようにまだ会えて見せられる関係性が羨ましい。


夏「みんな、見せてくれてありがとう。」


そう言って夏は重そうに絵を持ってエレベーターに向かった。


俺たちは絵の完成に一安心して、教室で俺たちを待っている夢衣と昼飯に向かった。





→ First Singht

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