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一なつの恋  作者: 環流 虹向
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12:00

座学の授業中、俺は明と一緒に白目を向いて寝ていたところを将に写真を撮られてしまった。


さすがに今日はしっかり寝ないとダメみたいだ。


一「今日はバイト?」


海斗「俺はすぐ。」


奏「俺は14時から。」


将「俺はいい感じの子とデート。」


明「俺は夜から。」


みんな予定あり過ぎだろ。


一「えぇー…。明、一緒に昼寝しよ。」


明「いいけど、4時間くらいしか寝られないよ?」


一「いいのいいの。」


誰でもいいから俺の近くにいてほしい。

寝不足な時は嫌な夢を見やすいから誰かに起こしてもらいたい。


俺は学校が終わった後、明と一緒に帰り軽く飯を食って眠りにつく。


…またこの夢だ。


錆びた車で凍える寒さの中、知らない人たちと車の貨物部分に乗せられてどこかに連れて行かれる。

外では知らない言葉と遠くから聞こえる爆撃音。


この夢では俺は戦地いるらしい。


ただでさえ、この空間が怖いのに外から聞こえる知らない音全てが俺を恐怖で震え上がらせる。


その車は目的地に着くと青黒く光る石で出来た城に俺たちを降ろし、鎖を繋いだままその城に連れられると真っ黒なマントを着た巨大な魔女が現れてどんどん前に並んでいた人たちを喰らい、俺の番になるといつも目を覚ます。


俺は脂汗をシャツで拭いてゆっくりと起き上がると、明はすでに起きていてヘッドホンをしながらパソコンに向かって何か作業をしていた。


うなされてても起こされないはずだ。

だけど1人で家にいるより、明がこの空間にいることで安心する。


俺はまた布団に寝そべり目を瞑る。

そして、明が出す作業音を聴きながら頭を休ませる。


明の奏でる作業音はいつ聞いても心地がいい。


ペンタブで描かれていく絵は力強い音で筆圧が強く、ペン先の消耗が激しそうだ。

その中でたまに押されるタイプ音が俺の耳を飽きさせない。

微かに漏れてる音楽はずっと同じリズムが流れているからきっと1曲をリピートをしてるんだろう。


規則的な音楽のリズムと不規則に扱う道具の音が聞いていて本当に心地がいい。


俺がまた眠りに入ろうとした時、明が立ち上がった音が聞こえて目を開けると俺の目の前に明がやって来た。


明「おはよ。」


一「おはよ。どうした?」


明「天ちゃん、学校行ったって。」


そう言って、俺に携帯の画面を見せて妹とのメッセージのやりとりを見せてくれる。


一「そっか。ありがとな。」


俺がお礼を言うと何か言いたげに明は黙る。


一「なに?」


俺は初めて見せる明の真剣な顔に首を傾げる。


明「…夏にJAPAN ORIZINN CONCOURSの締切、あるでしょ?」


一「あー…、クラスの何人か出るって言ってたやつな。」


«JAPAN ORIZINN CONCOURS»

通称 J ORICONNは、世界に自分の名前を轟かせる1番手っ取り早いコンクール。

だから出場者も多く入選した3万点以上の作品が出展されている日本最大級のアートコンクール。


明「締め切りが8月25日までなんだけど一緒にやらない?」


俺はその言葉で今までの眠気が一気に覚める。


一「…でも、時間あるか?」


明「…俺さ、テンプレキャラしか描けないから1人じゃ自信ないんだ。一の絵は基礎のものしか見たことないけど、いつも俺には思いつかない構図や物を描いててすごいなって思ってたんだ。だから一緒にやってほしい。」


明は俺の目を見て真剣に訴えてくるので俺は起き上がり、そのままベッドの上で座る。


一「…バイトは?」


明「俺のはアイコンイラスト描くことだから作業に支障はないと思う。」


一「え?居酒屋じゃないの?」


明「うん。言うのが恥ずかしくて隠してたんだけど、俺結構人気なの。」


と言って、明は自分のSNSを開きプロフィール画面を見せてくれる。


…3万?

てか、もう少しで4万フォロワーになるじゃん。


あの有名なリボンをつけた白猫がゆめかわポップに描かれてるアイコンに目が行き、俺は学内専用のアプリで見たことある絵を思い出す。


そういえば、“またたび”っていう人はいつも既存キャラを描いていて何度も先生に酷評されてもそれを辞めなかった。


というより、辞めることが出来なかったという方が正しいのか…?


明「俺1人じゃ他の作品に埋もれちゃう。だから一の力、貸してほしい。」


お願いと言って、頭を下げる明。


一「でも、俺はキャラ考えるの得意でも何でもないぞ…?」


明「…手伝ってくれるの?」


俺は別に将来の事をなにも考えてなかったわけじゃない。


ただ、与えられたレールの外側を添いながら歩いていたから今まで生きてこられた。

けど、来年の春からはそのレールが途絶え、道なんかないただの広大な荒地。

その道をただ1人で歩まないといけない恐怖が俺をまたあのレールへと引き戻そうとする。


けど、そんな事を死ぬまで続けられないってことは分かってる。

分かってるけど、その1歩の踏み出し方が俺には分からなかった。


けどもし、このJ ORICONNが俺の背中を押してくれるきっかけになれるのであればやってみたい。


一「いいよ。一緒にやろう。」


明「…え。えぇ!?ありがとう!」


明は泣きながら喜んで俺に抱きつく。

そんな明を俺は抱きしめ返す。


一「奏たちにも相談してみない?俺たちで合作しようよ。」


明「いいじゃん!最高じゃん!やろう!」


俺と明は夏休みのスケジュールを組み立てながらみんなの返信を待ち望んだ。





→ 明日も


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