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一なつの恋  作者: 環流 虹向
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22:00

BBQで腹が満たされて南国フルーツで口直ししようかなと思っていると、永海が悠とドリンクを貰いに行ってるのを見つける。


自分の好きな人と付き合っているかもしれない人と今まで通り仲良くしようとしている永海に尊敬の眼差しを送っていると、目が合った。


すると、永海は悠を先に席に戻るよう言って俺のところにやった来た。


永海「…1日の10分、前借りさせて。」


永海は俺の目より下を俯いて言ってきた。


一「いいよ。夜風当たるか。」


俺は永海と店の外に出て、店に向かう途中に見かけたバス停にあるベンチに座った。


一「どうした?」


永海「…帰りたいけど帰りたくない。」


一「…その心は?」


永海「夏とまだ一緒にいたいから。」


そう言うと永海は今にも泣きそうな顔をし始めた。


一「いたいならいればいいじゃん。なにがダメなの?」


永海「…今日の昼、ずっと目を合わせてくれなかったし、浜辺間違えた悠の事を迎えに行こうとしてて死にそうになった。」


俺が愛海の彼女と話してる時にそんな事があったのか。


永海「でも、私が泣くの我慢して沙樹の話に返せないでいたら、沙樹が気を使って夏を説得してくれたのか私の元に帰してくれたの。」


一「おー。沙樹ナイスじゃん。」


永海「けどね。その時、やっと目が合ってちゃんと話が出来るって思ったら愛海から何か頼まれごとされてそのままずっと話せてない。」


頼まれごと…?


今日の昼に愛海の彼女さんを自転車で迎えにきた事か?


永海「このお店来て愛海がどっか行った後に夏もすぐどっか行っちゃうし、悠は私が夏の事好きって知ってるのに付き合ってるの打ち明けてくれないのすごく嫌だ。」


一「…まだ付き合ってないのかも?」


永海「だってここ最近夏の様子変だもん。私の知ってる夏がいなくなっちゃうの嫌だ。」


一「そんな事言ったって人は変わるもんだよ。嫌ならもっと知りにいけよ。」


永海「…今日このお店に帰ってきたらそうする。」


と、永海は目を閉じて涙を止める。


いつもこうやって1人で全てを抱え込んで、人に頼らずいたのかなと思うと少し前の俺のようで胸が痛くなる。


一「目を閉じるのは好きな人の前だけにしろ。」


俺がそう言うと永海は驚いて目を開く。


永海「なんで?」


一「目で見てないと何されるか分からないからな。」


俺は立ち上がり、少しだけ気持ちの膿を取り除けた永海と一緒に店に帰るがやっぱり夏は店にいない。


もう先に江ノ島大橋に行ったのか?と俺は駆け足でその場に向かうけれど、夏らしき人はいなかった。


そのあと俺は夏に電話を何度か掛けたけれど、電池切れなのか出てくれない。


俺は仕方なく永海に電話で聞いてみることにした。


永海『何?』


一「夏、そっちにいる?」


永海『え、いるよ?』


永海のこと泣かせて、俺の約束すっぽかしてどこ行ってたんだよ。


一「夏と代わって。」


永海『分かった。』


と、言って永海は携帯を耳から離し、代わるにしては少し長い嫌な間があった後に夏が出てくれる。


夏『はい。』


…はい?

なんで敬語なんだ?


一「…あ、夏。今日した約束忘れてるだろ?」


夏『愛海のこと迎えに行ってた。』


ここは愛海の地元なのに迎えに行く必要があるのか?と思ったけれど、もしかしたら美未さん関連かもしれないな。


一「ああ、なるほどな。今から来れるか?」


夏『…なんで?』


なんか、俺と話すのが嫌なのか?

少し変な間もあるし、普段より声が暗い。


でも、永海のこともなんとかしたいし、姐さんが喜びそうなことを聞きたい。


一「恋愛相談。」


夏『 …俺にすること?』


やっぱりなんか嫌な間がある。


一「夏にしか出来ない。」


姐さんのことは夏が1番理解していそうだから、俺は話を聞きたい。


永海の恋愛を応援するのも、自分の恋愛を進めるのも、夏がいないと出来ない。


夏『…分かったよ。今から行く。』


そう言うと夏はすぐに携帯を耳から離し、永海に返した。


俺、夏の怒らせるようなことここ最近でしたか…?


したとしても、姐さんが男なのか聞いたくらいだと思うんだけど、夏がそんなに怒ることだったんだろうか。


永海『…一、無理だよ。』


と、俺がいろいろ頭で考えていると永海が震えた声で小さく呟いた。


一「今から俺が…」


永海『悠と夏がすごい仲よさそうにメニュー表見てるの辛い。……え?』


永海は何か続けようとしていた言葉も忘れ、何かに気をとられている。


一「どうした?」


永海『…悠が夏の事、追いかけに行った。』


俺はこの間夏だけの涙を拭いた姐さんのことを思い出して、一緒に胸をえぐられる。


一「今から俺と夏が話してみるから大丈夫。美味い飯食って腹満たしてろ。」


永海『これ以上、入らないよ…。』


そう言うと永海は涙を堪えているのか、何も話してくれなくなってしまった。


一「夏と2人っきりで話せるチャンス作るから…」


『永海…?』


ん?誰だ?


携帯越しに聞こえる声は俺の中であまり関わりのない男の声で誰かすぐに思い浮かばない。


永海『沙樹か…。どうしたの?』


ああ、沙樹か。

そういえば沙樹も永海とよく一緒にいるんだよな。


沙樹『僕の方が聞きたいけど。』


永海『…なんでもないよ。』


沙樹『永海。こっち向いて。』


永海『今はちょっと…、無理。』


沙樹『…分かった。』


すると、永海が小さく驚いた声をあげた瞬間、電話を切られてしまった。


…気になる!

気になりすぎる!


けど、奏たちは今携帯充電していてすぐ気づく確率が低すぎる!


俺は消化不良の恋愛映画を見た気分になり、永海の折り返しの電話が先か、夏が来るのか先か、この間見たようには流れない星を見て時間を過ごしていると誰かに呼ばれる。


俺は呼ばれた方を向くと夏と悠が手を繋いで俺の元に来ていた。


…付き合ってるからここまで一緒に来たのか。


若干望み薄になってきた永海の恋愛に心を痛めながら、2人の元に近づき聞きたいことを聞く。


一「なんで悠も来てるの?」


悠「一緒に散歩したくて。」


それって散歩デートですかと聞き返そうとしたけど、俺はとりあえず夏だけと話す場を作ることにした。


一「俺たち今から恋話するから女の子厳禁です。」


俺は渾身の変顔をして悠を近くの海岸に追い払い、夏と一緒に花壇の(ふち)に座り話そうとするけど夏と目が一切合わない。


…そんなに俺と話すのが嫌なのか?


一「…夏は悠と付き合ってんの?」


1番確かめたかったことを話せるうちに聞くことにした。


夏「付き合ってない。」


一「え?そうなの?」


夏「悠は付き合ってる人いるよ。」


え…?

じゃあなんで手繋いでここまで来たんだよ。


悠もなんで友達が好きな子と手を繋ごうって思ったんだよ。


俺は2人の関係性がますます分からなくなり混乱する。


夏「…で、何?俺、お腹空いてるんだけど。」


と、夏はタイミング良く腹を鳴らして俺を急かす。


腹が減ってたから今日は機嫌が悪いのか?

なんかガキ臭いな。


一「ああ、ごめん。永海のことで話したいことあってさ。夏って永海と良く遊んでるじゃん。今まで1番楽しかった場所ってどこ?」


俺がそう言うと夏はさらに不機嫌そうな顔をする。


夏「んー…、どこだろね。」


え?

夏ってこんなに素っ気なかったっけ?


俺は夏に永海との楽しかった思い出を思い返してもらって、少し好きの再燃をさせようとしたけれど失敗してしまった。


一「…俺、デートで誘いたい人がいるんだけどなかなかOKしてくれなさそうなんだ。どうすればいいと思う?」


俺は次に姐さんの誘い方を聞いてみる。


夏「俺はずっとデートしてないから分からない。」


え?

永海とのデートはデートじゃないのか?


2人だけで星空を見るなんて立派なデートだと俺は思ってたんだけど。


一「…好きな人いないの?」


俺は夏の核心を迫ることにした。

いないのであれば、永海を好きにさせる。

いるのであれば、誰か聞こう。


夏「いるよ。」


いるのかよ!?


俺が名前を聞こうと口を開く前に夏が言葉を続けた。


夏「けど、付き合ってデートしたから誘い方知らない。」


…んん?

付き合ってデートした?


悠じゃなくて別の恋人がいるのか?


でも、“した”って過去形だよな。

けど、好きな人はいる。


…どういうことだ?


俺が夏の発言で頭を混乱させていると、夏は全く俺を見ずにどんどん顔を歪ませてこの場にいるのが嫌なことを表情とオーラで伝えてくる。


俺は永海がされて特別喜んでいたことについての意味を手土産に出来ればと思い、キレられなさそうな質問する。


一「好きな子にあげるプレゼントとかどんな基準で選んでる…?」


夏「俺は物より思い出を作りたいから旅行とかかな。」


一「…そっか。」


永海、ごめん。

俺が思ってるより、夏は永海のこと好きじゃないのかもしれない。


俺や明たちの目線から見た2人はすごく仲が良くて、一緒にいるのを見るだけでクラスメイトが癒されるほど㊙︎公認カップルだったんだ。


けど、夏はそうじゃなかったのかも。


夏「そろそろ帰っていいかな。」


と、行って夏は立ち上がりズボンを叩き始めてしまう。


俺はとっさにその夏の腕を掴み、思い切って真意に迫る最後の質問をする。


一「…夏、俺と永海がキスしたら嫌だ?」


俺がそう言った瞬間、夏の目が見開き気づいた時には俺の頬が叩かれていた。


…なんだよ。

そんな顔、出来るのかよ。


夏「…あ、ごめ…、ん。」


と言って逃げようとする夏の腕を離さないように握りしめる。


一「…イラついてるのは分かってたけど、人に手ェ出すなよ。」


俺は少し痛みを分散させるために夏の腕を締め上げなから、自分も1発殴りたい気持ちを抑える。


どんなにイラついても手をあげたらあいつの子どもと自分が認めるようで嫌だったから、優しい言葉を見つけて熱された気持ちを冷やす。


一「でも、夏の気持ちよく分かった。俺もごめんな。」


俺は気持ちを落ち着かせながら夏に笑顔を向けようと顔をあげると、痛みで涙が出そうな俺よりも目を潤ませて顔を真っ青にした夏が俺に謝り続ける。


夏「ごめんなさっ…、ごめん。…ごめんね。」


一「俺もごめんな。腹減ってるんだよな。」


俺が夏をなだめようとするけど、全く聞かずに謝り続けて涙を流す夏。


一「おい。もういいって。」


そう言うけれど、夏は泣いて謝りながら俺を叩いた手をズボンに擦り付けて感覚を拭い去ろうとする。


一「夏、もう謝らなくていい。」


夏「ごめん。…ごめんなさい。ごめん、なさい。」


俺の言葉を無視して泣いて謝り続ける夏が過去の何かに囚われている感じがして、夏が恐怖を抱いている片手を掴み俺は立ち上がって夏の顔を近寄り叫ぶ。


一「おい!人の話聞け!」


すると夏はやっと俺の事を視界に入れてくれた。


一「俺は痛くないし、叩かれてない。」


夏「…で、でも、赤くなってる。」


しどろもどろな夏。

なんで叩かれた俺より、恐怖にびくつている顔を夏がしてるんだよ。


一「日焼け止め半分塗り忘れた。」


夏「でも…、俺の手に感覚ある。」


一「その手出して。」


俺は自分の片手を顔まで上げて、俺を叩き真っ赤になっている夏の手を俺と真似るように出してもらい、俺はその手に渾身のハイタッチをかます。


一「ハイタッチしただけだから。」


俺は脈打つごとに痛みが走る手で夏の手を持って、海岸で遊んでいた悠と店前まで戻る。


一「悠は先行ってて。」


悠「…なんで?」


一「秘め事だよ。言えるわけないじゃん。」


悠は俺を怪しむような顔をしながら夏の泣き顔を心配したまま、店に入っていった。


一「なにがあったのかは聞かない。けど、夏は悪くない。」


暴力は嫌いだけど、夏は気持ちをうまく表現するのが下手くそなんだよな。

だから、俺にずっと謝ってなかった事にしようとしたんだよな。


夏「でも…」


一「なにもされてない俺が言ってるんだ。そんな顔、永海に見せるな。」


俺がなにもされてないって言ってるんだ。

俺は朝、永海に同じところをビンタされてまだ痛むだけだから夏のせいじゃない。


一「月曜、暇?」


俺は今日ちゃんと出来なかった永海の恋愛を進めるために夏とアポイントを取ることにした。


夏「…うん。るあくんにしばらく休み貰った。」


一「じゃあ、朝デートしよ。」


永海と。


俺は夏と永海がした約束を果たしてもらうために、わざとデートと言う言葉を使って意識してもらうことにした。


夏「え…。」


と、夏は一瞬だけれどすごく嫌そうな顔を俺にしっかり見せ、それが清々しく感じて俺は思わず笑いを吹き出す。


一「嘘。俺、好きな人いるから。ごめんな。とりあえず、月曜の朝に百瀬公園で遊ぶの決定な。」


俺は泣きっ面の夏に駅前で貰ったゴワゴワなポケットティッシュを渡し、先に店の中に入ると俺を見つけた永海がすぐさま俺の元に走ってきて裏口に連れていかれる。


一「永海、月曜の…」


永海「分からなくなった。」


一「…え?」


俺は永海に月曜にバイトが入ってたら仮病でも使って休めと言おうとしたけど、しゃがみ込んだ永海は隣に座る俺のシャツの袖に顔を埋める。


一「…永海?」


永海「私、ただ理解してくれる人がいてくれたらよかったのかもしれない。」


一「どういうこと…?」


永海「さっき、電話してる時に沙樹が私の事…、抱きしめてくれたの。」


なるほど。

だから驚いてたのか。


永海「私、振りほどけなかった。…寂しいの少し消える気がした。」


永海は俺の袖を濡らし、どんとん生地を伸ばしていく。


永海「沙樹は私の家族のこと知ってる。夏が好きなの…、知ってる。」


一「…え?知ってるの?」


永海「夏のことは…、バレたって言い方が正しいけど。」


一「…まあ、見てれば分かるもんな。」


永海「沙樹が優しいのは友達だからって思ってたけど、分からなくなった。…どうしよう、一。」


そう言って、俺のシャツに綺麗にフェイススタンプをつけるも構わず、顔を上げて俺に回答を求める永海。


一「永海は沙樹のことどう思うの?」


永海「私の愚痴も暗い話も聞いてくれて、私が悩んでる時に悠より早く気づいてくれる優しい人。」


一「…優しくて、好き?」


永海「…分からない。でも、私の嫌なとこ知ってもずっと一緒にいてくれる。」


一「…嫌なとこ?」


永海「家族あんまり好きじゃないとか…。」


一「俺も今いるけど。」


永海「遅刻癖あるのとか…。」


一「俺、怒ったりしなかったよ?」


永海「付き合ってるのに、諦め悪いのとか…。」


自分の嫌なところを知ってくれる人の存在ってすごい温かく感じるよな。


俺も、そうだよ。


でも、それはきっと恋愛の枠に入りきれない人だから安心して頼りたくなってしまうんだ。


理解してもらえてる人と、

理解してほしい人と、

理解したい人が別になってしまうのはしょうがないとと思うんだ。


理解したいと理解してほしいが合わさって恋人にしたいって思うようになるから、きっと理解してもらえてる人に心が動くことは少ない。


ごめん、沙樹。

沙樹なりに永海を想って行動した結果はただ足止めしただけで、もう行く道は決まってるんだ。


俺はまた永海の唇に触れる2歩手前まで自分の唇を持っていく。


一「俺がこうした理由、分かる?」


永海「…遊び人の思考なんか分からないよ。」


と、永海は朝みたいなビンタを炸裂することなく、そのまま俯いてしまう。


一「永海がちゃんと夏が好きなの確かめるためだよ。」


永海「…え?」


俺は顔を離して無造作に曲がってしまった永海のまつ毛を直す。


一「誰でもいいって思ってるなら浜辺で俺とキスしてるはずだよ。」


永海「誰でもってわけじゃ…」


一「俺と似た条件の沙樹が男見せただけで分からなくなるなよ。沙樹の好きより、夏の好きが多いだろ?」


永海「…うん。」


一「相手への好きに自信が持てなくなったらその恋愛は終わりだよ。永海が終わらせてもいいやって思うならそうしなよ。」


永海「…やだ。」


そう言って永海は立ち上がり、携帯の液晶画面でメイク崩れを確認する。


一「多分、夏は店のすぐ外にいる。」


永海「ありがとう。」


と、永海は風鈴が聞こえるような優しい笑顔を見せてどこかに向かった。


俺は奏たちと合流して愛海の父親が営んでいる民泊に泊めてもらい、朝を迎えることにした。





→ 死ぬのがいいわ

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