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一なつの恋  作者: 環流 虹向
8/12
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22:00

俺は姐さんにメッセージで『今から会いに行く』とだけ送り、姐さんのマンション前まで来た。


けど、姐さんからのレスはなくて姐さんが部屋にいるのかも分からない。


あの日見たベランダの景色を思い出しながら姐さんの部屋と思われる窓に明かりがつかないかなと思っていると、暗い部屋の窓が開くと同時に姐さんが現れて空を見上げていた。


どうやら姐さんも流星群のことを知ってるらしい。


俺は全身を使って姐さんに手を振りながら電話をかけると、姐さんの手元に1つの明かりが灯り、悩んでいるような顔がしっかりと見える。


話したくないなら強制終了させてしまえばいいものを、姐さんはなんでしないんだろう。


俺はいつまで経っても手を降ってる俺にも、電話のコールにも出てくれない姐さんに気づいてもらうことにした。


一「姐さん!」


俺は近所迷惑承知で1度だけ姐さんを呼ぶと、姐さんは俺を見てその場で固まった。


俺は電話に出てほしいと手を振りながらジェスチャーすると、優しい姐さんは電話に出てくれた。


さき『…なんで、いるの?』


一「姐さんと一緒に流星群見たくて来た。」


さき『1歩間違えばストーカーだよ?』


一「姐さんは俺を通報する?」


さき『…これ以上近づいたらする。』


なんでそんなこと言うんだよ。


俺は今にも涙が溢れ落ちてしまいそうな顔をしてる姐さんを抱きしめて、ひとりじゃないのを証明したいのに。


一「近づかないから一緒に流星群見よ。」


さき『分かった…。』


姐さんは顔を上げて俺を自分の視界から外して空を見上げてしまった。


…そっか。

星を見るってことは俺のことは見えないんだよな。


そう思っていると姐さんが何かを思い出したのか、部屋に入っていってしまう。


一「…見ないの?」


さき『お願い事するための準備しないと。』


願い事に準備…?

そんなの星が流れるまでに3回願い事を唱えるだけじゃないのか?


姐さんの不思議な行動もやっぱり好きで、昨日音己ねぇに半分にしてもらった気持ちが夜が深まるにつれて色濃くなってきてしまう。


俺はまた考えても分からないことだらけの姐さんを想っていると、そんなことも知らない姐さんは何か片手に持って出てきた。


一「何持ってきたの?」


さき『水だよ。』


…水?

水を準備して何になるんだ?


一「どう使うの?」


さき『ここにお星さまが入ったら飲み切るまで何度もお願い事を心の中で唱えるの。』


手のひらもない小さいコップに流れ星が入るなんて、姐さんは可愛いこと言うな。


…あの日、あの3人が話していた姐さんもそんなことをしていたんだろうか。


俺は過去を振り返ってもしょうがないのにふとそう思ってしまった。


一「…なにお願いするの?」


俺は姐さんが今なにを思って星に願いを叶えてもらおうとしているのか気になった。


俺がもし叶えられるなら叶えたい。

星なんかに願わなくても俺が叶えるよ。


さき『心の中で願うの。言っちゃったら叶わないって。』


誰かに教わったのか、そう言って俺の質問には答えてくれなかった。


けれど、さっきから姐さんはコップに入った水を見るために星空の下にある手元のコップと俺を視界に入れてくれる。


あの日よりもちゃんと俺を見ていてくれてる。


俺は星が気まぐれに流れる空を見ながら、姐さんの持っているコップにたくさんの星が入ることを静かに心の中で願っていると、しばらくして姐さんは水を一気飲みした。


一「…落ちた?」


さき『うん。2つ落ちた。』


さっき姐さんの家に向かって駆けた星が入ってくれたのかと嬉しく思っていると、姐さんが一呼吸置いて口を開いた。


さき『一と私は友達ね。男同士だから。』


と、姐さんは今までに聞いたことないくらい悲しそうな声をする。


姐さんは俺がずっと探し求めていた答えを教えてくれたけれど、俺はまだしっかりと受け止めきれずに空に浮かせてしまう。


一「…ずっと、友達?」


さき『そうだね。』


一「友達だったら家に入れてよ。」


姐さん。

俺の手が届かないところで1人泣かないで。


俺はどこにいるか分からなくても探し出せたり、扉を蹴破って強引に会ったり、自分の思いだけでどこかへ行ってしまいそうな人の腕を引き戻す思い切りはないんだ。


だから姐さんが涙で溺れていても近づかないでと言われたからそこには行けないんだ。


姐さんがまだ好きだから姐さんと約束したことはちゃんと守りたいんだ。


だから姐さんがそこの扉の鍵さえ開けてくれればいいんだ。


ドアノブは俺が回すから鍵だけ回してよ。


お願い。


さき『だめ。今は、だめ…。』


姐さんはその場にしゃがみこみ、姿が見えなくなってしまう。


一「姐さん、俺…」


さき『一の好きは聞きたくないよ。』


その言葉が俺の心臓を貫き息苦しく感じる。

そんなに俺の好意って姐さんにとって重荷なのかな…。


さき『今度、彼女出来たら紹介しに会いに来てね。』


そう言って姐さんは電話を一方的に切り、俺を一切見ずに部屋の中に入ってしまった。


姐さんの言葉は俺が彼女を作らない限り会ってくれないような言い草でもう姐さんに愛を伝えても意味がないのかもしれない。


でも、やっぱり俺はまだ姐さんが好きで新しく好きになる人なんか見つけられないと思ってしまった。


姐さん。

好きになる条件ってなんなんだろうね。

俺、もう分からないや。


俺はなにも答えてくれない姐さんに語りかけ、バスも電車もなくなってしまった街を1人歩いて家に帰った。






→ 星屑ビーナス


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