7:00
朝が明けてしまった。
姐さんのことをずっと考えて夜を過ごした俺はるあくんと待ち合わせした駅前に行くと、ご機嫌なるあくんは音楽を聴きながら鼻歌を歌ってやって来た。
一「おはよ。」
イヤフォンをつけて全く気づかないるあくん肩を叩き、気づいてもらうとるあくんは俺を見て驚く。
るあ「どうしたの…?いつも前髪ぱっきりワックスで、柄Yシャツだったのに今日はだるだる気分なの?」
傷を隠しつつも寝癖で飛んでいる髪の毛と、部屋着の俺を見てるあくんは驚く。
一「るあくんは姐さんのこと知ってたの?」
俺は誰かに教えてもらいたくて姐さんのことを聞いてみる。
るあ「さきちゃんと何かあったの…?」
一「姐さんは男なの?」
俺は昨日からずっと理由が見つからない涙が溢れてしまう。
悲しいとか辛いとかじゃない。
多分、分からないことが怖くて涙が出てる。
るあ「俺はその質問には答えられない。ごめんね。」
るあくんは俺の涙を拭きながら申し訳なさそうに謝る。
一「…誰に聞けば答えてくれる?」
俺はその場でしゃがみこみ、頭を抱える。
みんな姐さんのことを知ってたけど俺だけが知らなかった。
何も知らない俺は勝手に恋愛感情を押し付けて、たくさん迷惑かけて、今も好きな姐さんをたくさん泣かせてしまった。
もしかしたらあの時、俺と会いたくないと言い始めたのもそのことが原因なのかもしれない。
るあ「さきちゃんしか答えられない。」
そう教えてくれたるあくんは持っていたミネラルウォーターで手を濡らし俺の寝癖を直していく。
一「…姐さんに会いたい。」
るあ「俺が電話してみよっか?」
一「うん…。」
俺は昨日携帯を投げ捨てられたから姐さんと連絡を取ることが出来なかった。
そのまま姐さんの家にも行ってみたけれど、全く応えてくれなかった。
るあくんは俺の寝癖を直しながらコール音がする携帯を自分の耳に当てて姐さんが出るのを数十秒待つ。
るあ「寝てる…、あっ…。さきちゃん?」
と、るあくんが話かけると姐さんの声ではなく、また別の男の声だった。
姐さんにはもう他に信頼の置ける人がいたのか…。
るあ「…わかった。うん。後でね。」
そう言ってるあくんは電話を切り、俺の顔を覗き込む。
るあ「今、優くんがさきちゃんの所いるんだ。…さきちゃん、今誰とも話したくないんだって。」
でも、姐さんの家には夏がいるんだよな…。
一「…なんで、優治なんだよ。」
俺が姐さんの側にいてあげたいのに、そこにはいつも夏がいるんだよ。
年齢も、性別も、出会った場所も、似たようなものなのに…。
るあ「今の優くんはさきちゃんのお水みたいな存在。他の味がついた飲みものもお水がないと成り立たないように、さきちゃんは優くんがいてくれたからさきちゃんでいれたんだ。」
一「…意味分かんない。なんで優治なの?俺は水になれない?」
るあ「なれることも出来る。けど、いっくんの気持ちは?さきちゃんのことどう思ってる?ちゃんと1人の人間として見てる?」
そうるあくんに言われた時、俺は自分の価値観が新たに創りあげられる騒音がし始めた。
今、俺は姐さんが好き。
でも姐さんは…、まだ確定ではないけれどきっと男なんだ。
俺の恋愛は女に好きを貰うことで満足で、俺の人生は奏たち友達に好きを貰うことで満足だった。
その俺の好きが分類されている壁が今、破壊されようとしてる。
るあ「俺はいっくんが好き。」
一「…うん。」
るあ「俺はいっくんに恋してた。」
一「え…?」
俺はるあくんの言葉に思考が止まり、頭を上げて俺の顔を覗き込んでいたるあくんと目を合わせる。
るあ「あの時、いっぱいちゅー出来て幸せだった。けど…、やっぱり男の子には欲情しないんだ。」
そう言ってるあくんはゆっくり立ち上がり、後ろにあった花壇の縁に座った。
るあ「いっくんの可愛い顔は好きなのに体は続きをしたいって思わなかったんだ。…それで俺はいっくんへの想いはおしまいにしたの。」
寂しそうに笑うるあくんは、今にでもどこかへ消えてしまいそうだった。
一「でも、俺…」
るあ「俺で気持ちよくなってくれて嬉しかったよ。でも、俺的に好き同士で体が交わうことが出来ないのが寂しいと思っちゃうんだ。…欲張りだから。」
俺は今にも泣き出しそうなるあくんの隣に座り、手を掴む。
一「もう、俺のこと好きじゃない…?」
聞いちゃいけない。
自分の感情が分からないからって人の好意を貰って維持しようとしてはいけないのに…、そんなこと分かってるのになんで言っちゃうんだよ。
るあ「好きだよ。人として、友達として。いっくんが好きだよ。」
俺が掴んでいたるあくんの手が握られて、その上に大粒の涙が落ちていく。
るあ「俺が好きな人たちはみんな幸せになってほしいって思うんだ。だから友達のいっくんが幸せと思える人生を送れるように手伝わせて。」
ずっとるあくんは俺のこと、友達と思っててくれたのか。
俺はその好意をずっと知り合いだけのものと思っていた。
しかも、ただ夜遊んでくれる知り合いだと思っていたから俺も気持ちをそこに置いていた。
けど、もう友達と思っていいんだ。
一「俺も…、るあくんの幸せになる手伝い出来るように頑張る。」
俺はるあくんが握っている手を握り返し、涙も拭くのも忘れてるあくんに笑いかける。
るあ「うんっ!…いっくん、好きぃ。」
と、言ってるあくんは俺に抱きつき耳元で盛大に鼻水をすすりながら泣く。
一「俺も好きだよ。」
俺はそのるあくんの背中を撫でながら、るあくんの気持ちも自分の気持ちも落ち着くよう冷える心身を抱きしめて温め合った。
→ 強くなりたい