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一なつの恋  作者: 環流 虹向
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22:00

「…今、なんて言ったんだ?」


と、張り付いた笑顔のツツミさんが俺の今日分の清算をしながら聞いてくる。


一「すみません。こういう仕事、俺には向いてないので辞めます。」


ツツミ「“こういう”か…。」


ツツミさんはそう呟くと鼻で笑い、1度目を閉じ深呼吸をして俺の顔を見てくる。


ツツミ「“こういう”仕事が1番手っ取り早く稼げることは理解してるよな?」


と、いつも通りの笑顔で俺に聞いてくるツツミさん。


その笑顔がいつにも増して俺を威圧してくる感じが怖い。


一「理解してます。けど、自分が傷つけられてるような感じがして嫌になってしまいました。」


ツツミ「…なるほどな。」


ツツミさんは笑顔を崩さずになぜか携帯をいじりだした。


人の話を聞きながら携帯をいじる奴はどうしても性格が歪んで見えてしまう。

人が目の前にいるのになんで液晶に向かって言葉を出しているのか、俺には分からない永遠の謎だ。


ツツミ「今日で辞めるのか?」


一「一応今日までのつもりでシフト提出してました。」


ツツミ「じゃあ明日空いてるよな?」


…この誘い方すごく嫌だ。

絶対呑みの誘いな気がする。


一「あ…、少しなら。」


ツツミ「飯を食いに行こう。女はいるか?」


一「いえ。いらないです。」


俺の返答にツツミさんは笑いながらどこかに電話をかけ始め部屋を出るが、ジェスチャーでまだここにいろと言われて俺はツツミさんの電話が終わるまで事務所のソファーに座って待つことにした。


明日はなるべく時間稼ぎして食事には遅れて行こうかと考えていると、ツツミさんの私用の電話が終わり戻ってくる。


ツツミ「他のバイト先は見つけたのか?」


一「友達と一緒にフードデリバリーの仕事しようかなって思ってます。」


ツツミ「あー…!すぐ始められるやつな。」


ツツミさんはその後も俺の今後の話を根掘り葉掘り聞いてくるが、なんだか時間稼ぎのような会話に感じるのは気のせいなんだろうか。


俺はそう疑問に思いつつもしばらく話していると、事務所の扉をノックなしに社長の枉駕さんが入ってきた。


一「お久しぶりです。」


俺は立ち上がり、枉駕さんにお辞儀する。


枉駕「元気そうね。良かったわ。」


そう言って枉駕さんは俺の肩を掴んで一緒にソファーに座った。


枉駕「いちくんは今日で辞めちゃうの?」


一「…はい。」


この人のためにツツミさんは俺の足止めをしていたのか。

さっさと帰っていればタバコ酒臭い女に会わずに済んだのに。


枉駕「残念。コンカフェも興味なし?」


一「はい。時給がいいのは知ってますが気乗りしません。」


俺はもうこの2人に嫌われていいからなんとか早く家に帰ろうと率直に思ったことを言う。


枉駕「そうなのね…。明日の食事会、私も行っていいかしら?」


枉駕さんは俺の手を取り、気味の悪い圧力で手を握ってくる。


ツツミ「俺は大歓迎です。いっくんは?」


一「…少しの時間しかいられないですが、それでも良かったら。」


枉駕「嬉しい。ちゃんとその分のお給料は払うから。」


一「…給料?」


枉駕「いちくんの時間を頂いてるから当然よ。とりあえず今日の分ね。」


と、俺の腹の上に貼るように封筒を置き、枉駕さんは立ち上がった。


枉駕「じゃあ明日の夜、ハイカラ町端にあるカフェで待ち合わせいいかしら?」


そこからは学校からも姐さんのBARからも近い、俺的にはとても行きやすい場所だった。


一「はい。分かりました。」


枉駕「じゃあ、また明日。」


ツツミ「ご足労ありがとうございます。」


枉駕さんは俺のためだけにここに来たらしく、少し話をしたら帰っていった。


ツツミ「これ、最後の給料。」


と言って、ツツミさんが今日分の売り上げを俺にくれる。


一「ありがとうございます。」


ツツミ「明日は肉な。」


一「はい!店は…」


ツツミ「俺が調べておく。いっくんは主役だから財布もなにも持ってこなくていいぞ。」


ツツミさんは俺の肩を強めに叩き、いつもの笑顔で俺の帰りを見送る。


帰り道の途中で枉駕さんから貰った金を見ると15万もの大金が入っていて、静まり返った住宅街で声を出して驚いてしまった。


待った時間を合わせてもせいぜい20分程度だったはずなのにこんなにもらえれるとは。


俺はあまり気乗りのしない明日の食事会の給料に少し淡い期待をしつつ、2人の圧の疲労を感じながら家に戻った。





→ Happy Face


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