12:00
学校で絵を描き進めたあと、俺は夢衣と約束していた映画を見るため家に行った。
夢衣「ありがと。」
夢衣は玄関から出てくるなり、俺にお礼を言った。
一「なにが?」
夢衣「遊んでくれるの。」
俺は夢衣の家に上がり、弁当屋で買った惣菜をテーブルに広げる。
一「遊ぶって言ったじゃん。夢衣のこと…」
と、俺は言葉を続けようとしたけれどやめた。
俺の優しさは夢衣には毒ってことは気づいてるんだからダメなんだ。
心配、大切、好きと思っていてもそれは友達として。
これ以上夢衣を勘違いさせちゃいけない。
一「夢衣のこと、ちゃんと見てないと危なそうだし。」
夢衣「なにそれー?」
夢衣は笑ってくれるがその笑顔は少し寂しげで俺は何度も言葉に詰まってしまう。
それを感じ取ってくれた夢衣は食事を止めて、俺の肩に自分の頭を置いた。
夢衣「…いっぱい考えたの。」
一「なにを…?」
夢衣「一との関係。」
夢衣は顔を俺の肩に埋めて腕を優しく掴んでくる。
夢衣「私、1人なるの嫌だ。もう痛いのするの嫌だ…。」
一「俺も明たちもいるじゃん。もうする必要がないだろ?」
夢衣「一緒にお出かけする友達はたくさん出来たけど、一緒に愛ごっこできる友達はいない…。」
一「それは友達じゃなくて彼氏とすることだろ?」
しかも“ごっこ”ってつけてしまうのはどうなんどろう…。
夢衣「彼氏じゃなくて信頼出来る人としたい…。」
俺の肩が温かいもので濡れていくのを感じて夢衣の顔をそっと手で触れて上げると、目を真っ赤にして夢衣は泣いていた。
一「…明は?」
夢衣「可愛すぎてしてるとこ想像出来ない。」
一「将は?いい感じだったじゃん。」
夢衣「将くんは違うの。」
夢衣は首を振って俺の候補だった2人を拒否る。
夢衣「明ちゃんはお洋服の友達。将くんは100年の友達。」
一「100年…?」
夢衣「うん。1世紀ずっと一緒にいようって言われた。」
なんだそれ。
どっかのプロポーズみたいな言葉だな。
一「それ告白じゃないの?」
夢衣「…ひーくんの友達とは付き合えない。」
夢衣は俺の目をまっすぐ見て自分の思いをしっかりと伝えた。
今、『ひーくん』って言ったのはずっと前からそう心に決めてたってことなんだろうか。
一「分かったよ。夢衣が付き合えるまで俺としよっか。」
夢衣「…いいの?」
一「夢衣がいいなら。」
夢衣「…また、動画撮っていい?」
2人で作った動画はいつのまにか30万円を稼いでいて、たまにランキングに載るほど人気にもなっていた。
一「金稼ぎしたいから?」
夢衣「うんっ。私の好きなことでお金稼げるならそれでいい。」
あのファンクラブを消すか迷っていたけれど、夢衣がいいならいいか。
俺も学費稼がないといけないし。
一「じゃあこれからビジネスパートナーとしてよろしく。」
俺は冷えた麦茶で夢衣と乾杯する。
俺と似た夢衣は体の快楽で嫌なことを忘れようとするからどうしても放って置けない。
気持ちを空っぽにする行為をして、その行為や自分のことを批判されたら夢衣は体に傷をつけてしまう癖がついているからちゃんとした人と出会うまでの期間限定の付き合い。
この奇妙な関係性はなんて言うんだろうか。
今まで聞いてきた枠組みに入らない夢衣は俺にとって本当に友達なのかも分からないが、大切で守りたい存在の1人だから俺は側にいることを決めた。
→ WING