12:00
風呂場から漏れ出るシャワーの音がうるさくて目を覚ますと、扉を少し開けているのかシャンプーのいい匂いがしてくる。
将がいたベッドを見るともぬけの殻だった。
どうやら将がシャワーを浴びてるらしい。
俺は体を起こして体を伸ばし、若干残っている眠気を飛ばす。
するとちょうどシャワーを浴び終わった将がタオル1枚で出てきた。
一「おはよー。」
将「一も入れば?酒臭いし。」
一「ありがと。入るー。」
俺はそのままシャワーを借りてこびりついた酒とタバコの匂いを取る。
るあくんがタバコ吸わなくても、呑み屋にいた周りの客がタバコ吸っていてテラス席に避難したけれどそれでもついてしまった。
本当、粘着質で不快で嫌いだ。
俺は将に借りた服を着て部屋に戻ると将が外に出かける準備をしていた。
一「どっか行くの?」
将「夏休みバイトでまあまあ忙しいそうだから、今から画材買いに行こうかなって。」
一「そうなんだ。俺も行く。」
将「別にゆっくりしてもいいんだぞ。」
一「1人じゃやることないし。画材買ったらプール行かない?」
将「あー…、あり。水着は?」
一「レンタルあるところ知ってる。」
将「OK。じゃあ行こう。」
俺はカバンに自分の物をまとめて、将と一緒に電車に乗り画材屋に向かう。
将「毎日呑んで疲れないのか?」
俺が将の家に行くと聞かれるいつも質問。
きっと俺の体を気を使ってのことなんだろう。
一「寝れば元気100倍。」
将「少しは内臓休めないと長生き出来ないぞ。」
一「若いのは今この時しかない。今を生きて俺は死ぬ!」
俺は適当に返してその話から逃れる。
長生きしたってあの家の呪縛からは逃れられない。
俺の将来を捨てたなら俺の身も捨ててくればいいのに。
…まあ、世間体を気にするあいつらには出来ないか。
あいつらの苗字、家系、血全てが俺の体と住民票に刻まれてる訳で、俺がまともだった5年間は近所の人に見せびらかしてたからな。
世間体を気にする親だから金には困ってない。
犯罪さえ起こさなければ住んでる家と食費分の金は父親が毎月出してくれている。
通帳を管理してる母親は俺が金を使いすぎると連絡をしてくるが、放っておくと2、3日して金を振り込んでくれる。
金で俺を飼っているみたいなもんだ。
金を出すから自分たちの手の中で生きろと言われてるもの。
俺はそれを利用して行きたい専門学校に行って遊んでいる。
けれど、それもあと少しで終わる。
この後の未来は全く未定で何をするかも考えられない。
あの学内専用アプリで学校から就職のスカウトが来たと連絡が数回あったけど保留にしてもらってる。
別に金がほしくてあの作品たちを作ってる訳じゃない。
俺の存在がその場にいなくても残るから作ってるだけ。
もちろん、作品を売れば金になって飯が食えるのは分かってる。
けど、またスカウトしてもらった会社に飼われるってことが嫌で俺にはまだその一歩が出ない。
出来るなら金のない世界に行きたいけどそんなの無人島くらいしかないし、生き続けられる保証もないんだよな。
…俺って今後なにしたいんだろ。
俺は将と画材屋で道具を見ながらそんなことを考えた。
→少年少女モラトリアムサヴァイヴ