22:00
…なんだこれ。
俺の家の扉ってこんなに傷があっただろうか?
俺は自分の玄関の扉に何かを突き刺したような傷が数十カ所あり、それに首を傾げなから家に入ると天が飛びついてきた。
天「ひぃ兄、おかえり。」
「おかえりなさい。」
と、何故か天の同級生の渡辺も俺の家にいた。
一「なんで渡辺が家にいるんだ?」
渡辺「…部活も塾もないから。」
全くここにいる理由になっていない理由を言われてしまったが、天はそんなに怒ってない様子だから気が済むまでいてもらうことにした。
俺はそのまま洗い物を洗濯機にぶち込み、部屋に戻って荷物の整理をしようとすると隣に渡辺がやってきた。
一「どうした?」
渡辺「お兄さんって誰かに恨まれてる?」
と、天がイヤフォンで音楽を聴きながら作業に集中する姿をチラチラと確認しながら渡辺は俺に聞いてきた。
一「どっかの女にはそう思われてるかも。」
渡辺「いや、そういうのじゃなくて命狙われるレベルで。」
一「なんのこと言ってんだよ。」
俺はうやむやな質問をしてくる渡辺に苛立ちの目を向けると、渡辺は少し気まずそうな顔をしながら話し始めた。
渡辺「…よく分からない怖い人がこの部屋にだけ嫌がらせしてるらしいんだ。」
一「なんだそれ。天に聞いてない。」
渡辺「あいつはお兄さんに心配事増やしたくないって言って言わないつもりだった。」
なんだよそれ。
妹なんかに気遣いかけられる兄なんかどこにいるんだよ。
渡辺「昨日の夜、塾帰りにここに来たんだけどその時に若干殺されかけたんだ。」
一「…どういうことだよ。」
渡辺「僕の後ろから迫ってくる不審者にあいつの知り合いが僕を家に引きづり込んでくれたから助かった。玄関の扉、見てない?」
一「あの傷はその不審者がやったのか?」
渡辺「うん。2、3分ずっと叩いててやばかった。その後警察が来てどっか行っちゃったけど。」
一「…捕まってないのか?」
渡辺「…まだっぽい。あいつの知り合いにお兄さんが帰ってくるまでいてほしいって言われたから今ここにいる。」
そうだったのか…。
でも、今までそんな怖いこと俺が家にいる時には起こってなかったのにな。
一「天のこと守ってくれてありがとな。」
渡辺「…頼まれただけだから。」
一「渡辺は家に帰らなくて大丈夫なのか?」
渡辺「帰っても帰らなくても変わらない。」
一「そっか。じゃあここでゆっくりしてればいい。」
渡辺「あいつが嫌だろ…?」
一「天を1人にさせなかったお礼させてくれ。天も、もうそんなに嫌がってる様子ないし。」
俺は作業に集中している天と、天のことを見守ってくれた渡辺に今日買ってきた桃を食べさせようと思い、桃を冷蔵庫に入れて軽く冷やす。
一「そういえば天の知り合いって誰だ?」
今の天は学校とこの家くらいしかいないし、友達が出来たという話題は聞いていない。
俺が旅行に行ってる時に友達が出来たんだろうか?
渡辺「大学生くらいの男だった。」
俺はそれを聞いて天の元に行き、耳に挿していたイヤフォンを引き抜く。
一「おい。兄様の家に男連れ込むなよ。」
そんなことする奴じゃないとは思っていたが、家に1人で残るなんておかしいなと思ってたんだ。
天「…鼓膜ぅ。渡辺はひぃ兄に用事があってきたんだよ?」
天は耳をさすりながら眉間にシワを寄せ、俺を見上げてくる。
一「そっちじゃない。その前に男連れ込んだんだろ?」
天「…渡辺、言ったの?」
天は渡辺を睨みつけてあの日では考えられないほど目線で威圧している。
渡辺「言った方がいいだろ!キモい奴なんかクソほどいるんだからもっと危機感持てよ!」
天「でも今日来なかったじゃん!」
渡辺「今から来るかもしれないだろ!?」
2人は1日一緒にいても意見が合わなかったらしい。
俺が止めないと延々と続いてしまいそうなので、一度2人を引き離して落ち着いてもらうことにした。
俺は自分のベッドがある部屋に渡辺を連れて行き、渡辺の寝巻きになりそうな服を漁る。
一「その男どんな奴だった?」
俺は棚の奥に入っている全くサイズが合わなかったシャツとスウェットを取り出しながら男の特徴を聞く。
渡辺「なんか弱そうな感じ…?けどあいつと仲よさげだった。」
尚春先生が好きとか抜かしといて他の男に手を出すとは…。
血は争えないな。
一「そいつは朝帰ったのか?」
渡辺「僕が家に1回帰ってる間はここにいたっぽいけど。」
そんな隙与えるなよ。
全くなにも分かってないガキはこれだから困る。
一「印象は?」
渡辺「優しそうなお兄さん。けど絵描きながら泣いてた。」
一「なんで?」
渡辺「聞けなかったけどずっと泣いてた。」
2人もガキがいる中でよくも泣けるなと思うけれど、俺も姐さんを描いてる時に泣きそうだったことを思い出しそいつに同情した。
一「これ着ていいから。タオルは風呂場な。」
おれはこれ以上の男への詮索をやめて後で天から聞くことにした。
その後、静かに夜を過ごす天と渡辺は不意に目が合うたびに睨み合うが、そんなに目が合うのはなんでなんだろうな。
俺はそんな2人を見守りながら安全な朝が来るのを待った。
→ Shine