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一なつの恋  作者: 環流 虹向
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12:00

全ての荷物を車に乗せて全員で車に乗ると空気が薄く感じ、俺は窓を開けて助手席からの空気を1番に味わう。


俺はその空気をもっと味わおうと少し顔を出そうとすると、運転している海斗に頭の上まで窓を閉められてしまった。


一「なんで閉めるんだよ。」


海斗「もぎとりババァに頭取られるぞ。」


一「なんだそれ。」


俺はふざけた名前に素直にツッコんでしまう。


夢衣「それ知ってるぅ。窓から体出すとどこからか、おばあちゃんがバイクでやって来て体の一部を持っていっちゃうんだって。」


海斗の後ろの席に座っていた夢衣が会話に入ってきた。


海斗「そうそう。運転する人なら知ってる。」


一「えー…?音己ねぇ知ってる?」


1番後ろの席で奏と明に挟まれている音己ねぇに聞こうとするけど、3人して携帯で見る映画に夢中らしい。


音己「なんの話だ。」


けれど俺の声に気づいたのか、音己ねぇはミラー越しに目線を合わせてきた。


一「もぎとりババァって人。」


音己「人じゃなくて都市伝説な。都市伝説と言えばここら辺にりんごハウスがあるぞ。」


「「「なにそれ。」」」


みんな口を揃えて音己ねぇにツッコむ。


音己「りんご3つ分の猫が住んでいたとされる家。」


明「その猫好きぃい♡行きたい!」


音己「都市伝説だぞ?幻の家って言われてる。」


明「なにそれぇ…。くそじゃん。」


音己「噂話はくそだろ。」


奏「そんなことよりご飯どうするー?」


と、奏は俺の席まで届く腹の声を聞かせてながら話を変えた。


将「…あ!桃狩りあるぞ!」


将は急に声をあげ、窓越し見えた看板を指差して伝えてくれる。


ここから3㎞先に桃園があるらしい。


夢衣「モモちゃん元気かなぁ…。」


将「お土産で桃あげればいいんじゃん?」


夢衣「いいね!決定!」


海斗「後ろの3人は?」


海斗は次の角で曲がるかどうかを悩みながら3人に聞いた。


奏「そのあと海鮮食べたい。」


音己「えびホタテ盛り。」


明「桃、久しぶりに食べるなー。」


あの様子だと、行くことはもう決定しているらしい。


一「桃狩りして海鮮食いにいこう。」


海斗「分かった。」


海斗は高速道路に向かう道を行かずにそのまま桃狩りが出来る畑に行き、車を止めた。


そこでは成果店も開いていてたくさんの野菜と果物がこの間スーパーで見た値段よりも安くて驚く。


俺たちはその成果店で桃狩りの代金を払い俺たちの半分ぐらいの身長をしたおじいさんに連れられ、桃を取ってそこで食べさせてもらう。


「どうだい?」


明「旨味の水で溺れそうです!」


夢衣「果汁で喉潤うぅ♡」


みんなで桃の果汁と優しい甘みに驚いているとおじいさんはその様子に嬉しそうに笑う。


「とても繊細な子だからとても手がかかるんだよ。」


奏「水撒きとかですか?」


「いいや。水は時たまでいいんだが、香りがいいから虫がよくつくんだ。」


海斗「だからカバーつけてるんですね。」


「そうだ。こんな乾いた土でよくまあこんなにいい子に育つのが不思議でしょうがないよ。」


と、桃の豆知識を教えてくれながら俺たちの土産の桃をオススメし、取り方を教えてくれる。


せっかくなら姐さんのもって思ったけれど、朝の電話で会うことも話すことも難しそうだから天と栄美先生の分だけ包んでもらうことにした。


「桃は適度に食せば体の調子をよくしてくれる薬にもなるからまた食べに来てね。」


桃を箱に包みながらおじいさんはしっかり営業をしてくる。


将「はい!長寿の食べ物って聞いたことあります。」


「そうそう。けど食べすぎは毒だからね。」


一「毒?薬になるのに?」


「薬は毒だよ。毒で人の体に悪いとされるものを消してるんだ。何にも適切な量で体に入れないとダメになるからね。」


一「…そうなんですか。」


けれど、俺には適切な量なんかいつも分からなくてたくさんあるだけいいと思ってしまう。

少ない量で困ることはあっても多い量で困ることの方があまりない気がする。


そういう俺だから、相手の“適切”が分からなくて過度に与えることしか出来ない。


それでこの間の夢衣のようなことを招いてしまうんだ。


俺にとって適切と思っていても、その人にとって過度になってしまうけれど今の俺には分からなくて止められないんだ。


「「「ありがとうございました!」」」


俺たちは包んでもらった桃を大切に車に積み、おじいさんに手を振りながら海鮮の店に向かう。


一「あんな、おじいさんになりたい。」


俺があの優しさの雰囲気に憧れていると、海斗と運転を交代した音己ねぇは呆れたため息をつく。


音己「憧れてもその人にはなれない。」


と、寂しいことを音己ねぇは呟く。


俺はその言葉に肩を落としてると音己ねぇは俺の顔を一瞬見て小さく鼻で笑い、


「一は一でいいんだよ。」


と、俺にしか聞こえない声で言った。


俺はその言葉で改めてこれから自分がやらないといけないことを思い出し、行動をするためにスケジュールを立てた。





→ 繋いだ手から

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