12:00
今日は家の中にいても暑いと思うほどの真夏日で、俺たちは近くの湖に泳ぎに来た。
全員水着は持ってきてなかったので代えの着替えを持ってきて、なるべく薄着になって湖を楽しむことにした。
そんな中、夢衣は俺の背中にずっと乗っていて他のみんなの所には行く様子がない。
一「泳がないのか?」
夢衣「今日はこういう気分なの。」
そう言うと、夢衣は肩を掴んでいた手を首に回し、さらに距離を近づけてくる。
少し息苦しく感じたが俺は少し遠くにいる奏たちの所に戻ろうと進行方向を変える。
夢衣「そっちじゃないー。」
一「これ以上離れたら河童にさらわれるぞ。」
夢衣「河童なんかいないよ?」
一「いるよ。俺、湖底神殿に連れてかれそうになった。」
夢衣「えー?本当?」
一「本当。もう少し向こう行った時に足掴まれた。」
俺は初めてこの湖に来た時、水泳の授業で奏より一足先に学んだ平泳ぎを自慢していたら何かに足が絡まってそのまま溺れ死にそうになった。
その時、誰よりも早く俺を助けに来てくれたのは音己ねぇで目が覚めた瞬間にビンタされた痛い思い出がある。
俺はまた過ちを繰り返さないように奏たちの方に戻っていると、突然足が攣った。
一「…やばい。足攣った。」
俺は痛みで脚が上手く動かす事が出来ずに、だんだんと体が沈んでいってしまう。
夢衣「ひーくん!頑張って…!」
夢衣は俺の首元から離れて脇を持ち、俺の顔を水面ギリギリに保つので精一杯で全く岸辺に泳げない。
一「…誰か、呼んでっ。」
俺は肺にあった僅かなの酸素を使って、夢衣にお願いすると限界が来ていた体がどんどん湖底に沈んでいく。
さっきまであった夢衣の腕は数m沈むと離れてしまい、その代わりに湖底から無数に伸びる黒い手が俺の体に巻き付いてくる。
…まただ。
あの時もこの感覚が俺の体を湖底に連れ去ろうとしていた。
けれどあの時よりも河童は増えてしまったのか、俺の体を包むだけじゃ気が済まないらしく、湖に射す光さえ俺に届かないようにしてくる。
…俺は溺れたいわけじゃなくて、ただ浸っていたいだけだったのにな。
そう思った瞬間、俺の口から無数の泡が溢れ出て煌めき眩く輝いた景色を最後に見ようと薄れていく意識を必死に保っていると、泡の中から1匹の足元にヒレが付いた人魚が俺の痛む口に酸素を入れて自らも一緒に水面に向かい泳いでいく。
一「…ハアァッッ!」
俺は水面に出た瞬間、肺いっぱいに空気を吸い込み少し喉に引っかかる湖の水に咳き込む。
「上がってきた!」
「よかった!生きてた!」
「とりあえず、みんな岸辺に上がろう。」
「死んだかと思った…。」
「助かって…、よかったっ。」
俺は息をするのが精一杯で岸辺まで連れて行ってくれる人魚の肩に掴まることしか出来ず、助けに来てくれたみんなにお礼をすぐに言えなかった。
岸辺に上がり、顔の水滴を拭いて少し痛む目を開けると俺の顔を全員で覗き込むように見られていた。
一「…っありがと。死んだと思った。」
俺は咳混じりにお礼を言って、濡れて乱れてしまった前髪を整える。
夢衣「助けられなくてごめんね…。」
夢衣が俺の手を掴み、涙目で謝る。
一「ううん。俺のせいだから。」
夢衣「ごめんね。」
と、夢衣はみんなが見てる中、俺に抱きつくとそれに合わせて明と奏が抱きついてくる。
海斗「…一応、肺に水が入ってないか病院で見てもらうか。」
将「そうだな。海斗と俺で帰る準備してるからお前らはゆっくりしとけ。」
一「ありがとう。」
俺はお礼を言い、その場で気持ちを落ち着かせているとフィンを足の間に挟んでいた音己ねぇは自分のシャツを脱いで絞り、俺の頭に巻き付ける。
音己「勝手に死ぬな。」
一「…うん。」
ビンタしたあの時も同じことを言った音己ねぇ。
また助けられたのかと思い、俺は反省しながら病院に連れていってもらった。
→ さよならべいべ