22:00
少し遅めに始めたBBQが終わり、残り火で将が焼き芋を作り始めるのを俺は無心で見つめる。
将「…食うのか?」
一「もう無理。火見てた。」
俺は破裂寸前の腹をさすりながら、丸椅子に座って胃を休める。
少し向こうには腹がいっぱいになった夢衣と海斗がハンモックに寝転がり、夜風を浴びながら気持ちよく寝ている。
明「マシュマロ持ってきた。」
と、明がアメリカンな大きさのマシュマロ1袋を持ち目を輝かせながら、火の元がある俺たちに駆け寄る。
将「まだ食べるのか?」
明「甘いものは別腹だよー?」
別腹も使い切った俺は全く食べる気がしなかったが、とりあえず焼きマシュマロを一緒に作ることにした。
明「…あれ?奏は?」
一「音己ねぇの風呂でも覗いてるんじゃん?」
将「俺も行きたい。」
明「ダメでしょ。んー?さっきまで一緒にキッチンいたんだけどな…。」
と、明はベランダの窓から部屋を覗くが甘いもの好きな奏が見つからないらしく肩を落とす。
一「そういえば、明日1日雲ないって言ってたから天体観測する?」
俺は携帯の天気予報を見た事をふと思い出したので聞いてみた。
明「酒盛り?」
一「そうとも言う。」
将「ランニング中にひらけた場所を見つけたからそこ行くか?」
一「決まり。…夢衣には呑ませたくないから内緒で。」
そう言うと2人は不思議そうな顔をして俺を見る。
明「なんで?」
一「若干アル中なとこあるからここで呑んで大暴れされたくない。」
明「…そっか。内緒ね。」
将「明日は夢衣さんに疲れて早く寝てもらおう。」
「「うん。」」
俺たちは夢衣を早めに寝かせる作戦を考えていると、風呂上がりの匂いがする濡れ髪の奏が戻ってきた。
一「風呂入ってた?」
奏「うん。」
明「音己ねぇ入ってなかったんだ?」
奏「入ってたよ。」
将「こん…、浴!?」
奏「そんな感じ。」
と言って、奏は俺の隣にある丸椅子に座った。
奏「この歳で一緒に入るの変だよね?」
明「俺は姉妹いないから分からない。」
将「ばあちゃん風呂に入れることはあるけどな。」
一「俺は1回もない。」
3人の当てにならない答えに奏は胸の前に腕を組み、頭を少し右に傾けて静かに唸る。
奏「別荘の風呂場で幽霊見たって言い始めてから、ここに来たらずっと一緒に入ってるんだ。もう怖がる歳でもないのに。」
明「…ゆ、ゆうれい出るの?」
奏「窓際の木がそう見えただけなんだろうけど、そう見えちゃったら音己ねぇずっと無理だから。」
明と将はホッと胸を撫で下ろし、またマシュマロを焼き始める。
奏「姉弟だけど…、全裸はきついよなぁ。」
奏はため息をつき、俺にもたれかかる。
将「2人して?」
奏「俺は巻いてるけど音己ねぇは巻いてくれない。」
将は羨ましそうな顔をしながら頭を抱えた。
一「同じ空間にいるだけじゃダメなのかよ。」
奏「風呂釜の奥に引きずりこまれたらどうするんだってキレるんだもん。だから一緒に入って音己ねぇの風呂が終わるまで一緒にいる。」
俺も数回この別荘で泊まらせてもらったけれど、小学生の時に一緒に入った記憶しかないが、奏は毎年入らされているらしい。
一「音己ねぇは怖いものないと思ってた。」
奏「映像とかは大丈夫だけど、現実のお化け屋敷とかは苦手なんだって。」
なるほど。
ケチャップは大丈夫だけど、生トマトはダメみたいな感じか。
「奏!なんでいないの!?」
と、家の中から音己ねぇの聞いたことない大声が響き、寝ていた海斗と夢衣が目を覚ます。
奏「…風呂場になんか忘れたっぽい。行ってくる。」
奏は若干しょげた顔をしながら駆け足で音己ねぇの元に行った。
海斗「寝てた…。」
夢衣「私もぉ…。」
2人同時に背伸びをしてあくびをする。
明「焼きマシュ食べる?」
夢衣「食べる!」
夢衣は飛び起きて明が作った焼きマシュマロを美味そうに食べ始めた。
海斗「…奏は?」
一「音己ねぇ守りに行った。」
海斗はそうかと頷き、腹の上に置いていた小説をまた読み始めた。
少しすると満足げな音己ねぇと疲れ切った奏が戻ってきて、夜風を浴びながらみんなでデザートを頬張りながら明日行きたい場所を提案し合うことにした。
→ 矛盾のおれ様