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運命は廻る  作者: nemo
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7 ルイスと×××

ルイスたちが帰ってくるころには日も落ち始めていた。ルイスたちが帰ってくると昨日と同じようにセバスが門の前で待っていた。

「おかえりなさいませ、アリア様、ルイス様」

「うむ。ただいま帰ったぞ」

 ルイスは帰ってくるといつもセバスが門の前で待っているのが気になった。二日も連続でちょうど帰ってくる時間にちょうど門の前でまっているという偶然が重なるのもおかしい。のちにセバスにそのことを聞いたが「執事ですから」とニコリ微笑むだけでそれ以上のことはわからなかった。

「リアンは帰ってるか?」

「はい。先ほどアリア様たちより数刻前に帰ってきました。いまは自室で休んでいると思います」

「そうか」

 アリアとルイスは屋敷に入り、いったん夕食まで自室で休むこととなった。

 ルイスは自室まで行くと剣を立てかけ、何をするでもないがベッドのふちに座る。ふと自室にある本棚の一冊の本に目が行った。ルイスは立ち上がり本を手に取る。本のタイトルは「勇者と悪い魔女」。どちらかというと子供向けの本のように見える。なぜそんなものがこの屋敷にあるのか気になり本を開いた。


『勇者と悪い魔女』

 昔々ある王国に二人の兄弟がいました。彼らは王族で、良き王となれるように日々鍛錬していました。

 第一王子である兄は剣術に秀でており、誰も勝てないくらい強かったそうです。そしてその剣技に畏怖を込めて「鬼神」と呼ばれていたそうです。しかし、彼はそう呼ばれることを嫌い、呼ぶものがいると怒ったそうです。

 第二王子である弟は知識に秀でており、ありとあらゆる学問を修めたそうです。質問をすればどんなことでも答えてくれました。また、兄とはくらべものにはなりませんが剣術も扱え、兄の次に強いといわれていました。

 そんな二人はとても仲の良い兄弟でした。

 あるとき、王国に悪い魔女が現れました。彼女は暴虐の限りを尽くしたそうです。そんな彼女に頭を悩ました国王は、第一王子に討伐を命じました。

 第一王子はお供を引き連れず単身で悪い魔女に挑みました。

 第二王子は兄だけ戦わせるわけにはいかないと思い、知識で戦いました。悪い魔女の弱点を探し、どうすれば倒されるかを考えました。

 そんな彼らの戦いは三日三晩続いたそうです。そしてついに王子たちは魔女を倒しました。そして王国に平和をもたらしたそうです。国民は王子たちを勇者と崇め、後世にまでこの話を伝えました。そしてやがて第一王子は王となり、第二王子は兄を支え、豊かな国を作りましたとさ。

めでたし、めでたし。


 本の最後には著者名と出版名が書かれていた。そして、その本を机に置くとコンコンとドアを叩く音がした。

「だれだ?」

 ルイスがドアを開くとそこには意外な人物がいた。

「お疲れのところすみません。少々よろしいですか?」

「お前がオレのところに来るのは珍しいな。アリアのとこへ行かなくていいのか?」

 ルイスはそういいながらもリアンを中へ通す。

「大丈夫ですよ。先ほどここに来る前に行ってきましたから」

 リアンは中へ入ると椅子に腰かけた。ルイスもその対面に座る。するとリアンは目の前の机に置いてあった本を見るとどこか懐かしむような顔をしてぺらぺらとめくった。

「「勇者と悪い魔女」ですか。懐かしいですね...。お読みになったんですか?」

「ああ、さっきな」

「この本は王国で子供に人気なんですよ。私も小さいころにアリア様と読みました。アリア様は小さいころに、私もこんな勇者みたいに優しい王様になりたい!なんて言ってましたっけ...」

 リアンはふふっと思いだし笑いをした。ルイスはアリアがそんなことを言っていたなんて意外だと思った。今ではあまり想像がつかない。

「今はそれを押し殺しているようだがな」

 リアンは本を閉じ机に置く。そして先ほどとは変わり真剣な面持ちになった。

「今日、中央広場でカストル様とルクス様にお会いになったとアリア様から聞きました。あまり良い性格はしていなかったでしょう?私はいつもアリア様と一緒にいますから慣れましたけど、あなたは驚いたでしょうね」

「ああ、いい性格をしていると思ったよ」

 その皮肉にリアンはくすっと笑う。

「アリア様には昔のように王を目指してほしいのですが、それも難しいでしょうね。彼女は兄に勝てないと思い、王になることを諦めようとしています。彼女が王となれば少なくともカストル様やルクス様よりも、この国をさらに豊かにできると思っています」

「それはそうだろうが、本人がその気にならないと難しいだろう。無理やりさせることもできないし、そんなことをしてもあいつのためにならないだろうしな」

「それは重々承知です。しかし、私はあなたならアリア様を変えてくれると思っています」

 リアンは急にそんなことを言い出した。まだ会って2日も経っていないのに、なぜそんなことが言えるのかルイスは不思議であった。

「先ほどアリア様に今日のことを聞いてきました。そしたらアリア様はどこへいったやどこでなにを食べたなど楽しそうに話してくれましたよ。あんなアリア様は久しぶりに見ました。きっとあなたがアリア様の何かを変えたのでしょう。それにあなたはどこかアリア様と似たところがあるような気がします」

「久しぶりに街にいったからじゃないのか?それにオレとアリアのどこが似ているんだ?全然違うと思うぞ」

「アリア様はよく街へ出ているのでその可能性はないかと」

 それに、とリアンは続けた。

「あなたとアリア様は雰囲気が似ているような気がするのですよ。あまり表に感情は出さず、しかし内には秘めてる思いがある。そんなところが」

 言いえて妙だった。リアンはアリアと行動しているからか、彼も目が肥えているのだろう。ルイスは何も言えなくなった。

「まぁ、いいでしょう。もうそろそろ夕食ができると思いますよ。私は先に下へ降りています」

 リアンは立ち上がり部屋を出ていった。彼はルイスに悩みの種を残していった。

「ルイス様。ご夕食の準備ができました」

 リアンと入れ替わりでマリアがドアをノックして伝えてきた。ルイスは「いまいく」と伝え、そのことについてはまたあとで考えることにした。

 そしてルイスは夕食を食べ終えると自室に戻った。そして部屋にあった本を読んだり、剣を磨いたり、装備を整えたりする。明日もの早いのでルイスはベッドに横になった。そのころには時計が12時を回っていた。


 ルイスが目を開けるとそこは見慣れた場所だった。木の人形が数体設置してあり、ずいぶんと使い込まれているのがわかる。そして今もその木の人形に木剣をふるっているものがいた。よく見るとそれは弟の×××だった。彼は一生懸命木剣を木の人形に振り、ドコッドコッという鈍い音を出している。×××の他にも衛兵が数名いるのが見える。×××はドゴンッという今日一鈍い音を響かせ手を止めた。ルイスが木の人形が壊れたのではないかと思うくらい強い音だった。

 彼は袖で額の汗をぬぐうとルイスに気が付いた。

「兄さんも来てたんだね」

「ああ。ちょうどお前の練習を見ていたんだ。最後の一撃は中々よかったと思うぞ。人形が壊れるかと思ったくらいだ」

 ルイスが真剣にそう褒めたのだが、×××は「あははは」と笑っていた。

「それは嫌味かい兄さん?兄さんはあれくらいのことをいつもしているじゃないか。ボクがいつも人形が壊れるんじゃないかって心配してるの知らないでしょ?その兄さんがまだ壊せてないんだから、ボクに壊せるわけないじゃないか」

「いや、わからんぞ。おまえはオレよりも剣筋がきれいだからな。いつ抜かれたっておかしくはないさ」

 ルイスがそう言っても×××は兄の冗談だと思い「はいはい」と軽く流し、真摯には受け止めなかった。ルイスもまた弟のそのような態度に叱責することはない。二人のよくあるやり取りだからだ。

「そうだ、兄さん。ちょっと手合わせをお願いしたいんだけど...」

「うん?別にかまわないが、練習が終わったあとで疲れているんじゃないか?」

「ううん。大丈夫だよ。それより早速お願いするよ。手加減しなくていいからね?」

「わかっている。手加減してお前と口喧嘩になったらオレは勝てないからな。そうならないようにするさ」

 ×××は苦笑いで「そういうことじゃないんだけどなぁ」などと言っていた。

 ルイスと×××が手合わせをするということになり、その場にいた衛兵たちは訓練場を空けるように隅によった。二人が手合わせをするということを聞いてか、その場にいなかった衛兵たちも集まってきた。気づけばちょっとした見世物のようになっていた。

「いつでもいいぞ。おまえのタイミングでかかってこい」

 ルイスがそういい剣を構えると×××は剣を正面に構え、ピクリとも動かなくなった。数分、静寂が訪れる。×××はむやみにルイスにかかれば即返り討ちに会うことを知っている。頭の中でイメージを膨らませる。どうかかればルイスに一撃を与えられるか。×××の額から汗がツーと零れ落ちる。それに反してルイスはいたって平静であり涼しい顔をしている。ギャラリーからゴクリと生唾を飲むを音が聞こえた。そして汗が顎を伝い地面にピチョンと落ちると同時に×××は駆け出した。

 音を置き去りにするかのような速さでルイスに肉薄する。そして×××はルイスに切りかかるが当然ルイスはそれを簡単にいなす。×××も負けじと次の攻撃を繰り出す。それを数回繰り返すがどれも簡単にいなされてしまう。×××は一旦距離を取ろうと思い後ろに下がるが、ルイスはそれを許さず追撃する。今度はルイスが攻め、×××が受けるという形になった。

「...ッ!」

 ルイスが優勢だということは傍から見ても一目瞭然だった。ルイスの攻撃を×××はやっとの思いで防いでいる。そして決着は突然だった。

 ×××がルイスの攻撃を防ぎ遅れ、それを見逃さなかったルイスが×××の木剣を打ち上げ吹き飛ばす。そしてそのまま自分ぼ木剣を×××の喉元に突き立てる。

 宙を舞った木剣はやがて勢いを失いカランという音とともに地面に打ち付けられた。

「おわりだな。前よりもなかなか鋭い剣になってきたな。負けるかと思ったぞ」

 ルイスはそういうと木剣を喉元から外した。

「はぁ、何言ってるんだい兄さん。まだまだ余裕だったくせに。今日は一本とれると思ったんだけどなぁ...」

 ×××はため息をつきながら落ちた木剣を拾いに行った。彼は兄の言葉に嘘はないとは思っていた。前より鋭い剣になったというのは本当のことだろうし、負けるかと思ったというのも本当のことだろう。ただ、それが本気を出しているならの話だ。

 手加減はするなと言ってはいたが、兄がいつも本気を出していないことには気づいていた。兄が本気を出せば文字通り、瞬殺されてしまうだろう。それほどまでの差があることは理解していた。それでも兄に追いつきたいという気持ちがあり、こうして一日一回は挑んでいる。

「じゃあもう一本お願いするね」

 いつもならここから二本目が始まるのだが今日はそうならなかった。

「いや、すまないが今日はもう終わりだ。この後、父上に呼ばれているんでな」

「父上に?」

「ああ、きっといつものやつだろう」

「そっか...。気をつけてね」

 ルイスはそういい訓練場を後にした。

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