2 優しき姫と違和感
遺跡は森の奥深くにあったため、森を抜けるころには空が暮れていた。西の大地には夕日を背負うように王都が聳え立っている。
「なにをしている。王都はすぐそこだ。日が完全に落ちるまでには着きたい。急ぐぞ」
ルイスは立ち止まり王都を眺めているとアリアに急かされた。そうこうしているうちに三人は関所までたどり着いた。
リアンが関所にいた衛兵と何やら話しているかと思うと、それが終わったのかアリアとルイスのほうに踵を返した。
「アリア様。話をつけてきました。私たちがついている限りはルイスを中に入れても問題ないとのことです」
「うむ。よし!それでは王宮まで来てもらうぞ」
「王宮だと...?」
「なに、心配するな。先ほども言った通りお前に話を聞くだけだ。その話を聞いてからお前の処置を言い渡す。一応遺跡でのお前の行動は禁止事項に抵触しているからな。だが今すぐに独房へ放り込むようなことはしない。アリア・オルレアンの名に懸けて誓おう」
そういわれるや否やアリアは王宮へと向かい進み始めた。ルイスもアリアの後を追うように門をくぐり歩き始める。
街中は中世ヨーロッパのような街並みであった。街の花壇には(何の種類かはわからないが)同じ花がたくさん植えてあった。とても活気づいており人々の声がそこら中から聞こえてくる。ルイスはそんな街並みに覚えがあった。いや、覚えがあったといえば少々間違いではあるだろう。なぜかこの街並みを見たことがある気がしたのだ。自分は記憶がないため何も覚えていないはずなのに、この街並みに覚えがあるのはなぜだろう。ルイスの中に一つ疑問が残った。それと同時にもしかしたらこの王国に、失われた自分の記憶を取り戻すきっかけがあるのかもしれないとも思った。
「あ、アリア様だ!」
「ほんとじゃ...!ありがたや、ありがたや...」
「アリア様!この間はありがとうございました!」
ルイスが物思いに耽っていると街の子供がアリアの名前を呼んだ。それを皮切りに人がぞろぞろと集まってきて、祈るものや感謝をするものなど様々な人がいた。アリアはその一人一人に声をかけていく。
「おい、なんだあれは」
「アリア様のことですか?彼女は人が困っていたら必ず助けてしまう性分なんですよ。きっとそれが彼女の正義なのでしょう。どんな人でも彼女の魅力に惚れてしまう。そして気づいたらああいう風に周りに溶け込んでしまうんですよ。あの人のような民を第一に思うカリスマ性を持った人が次期王となるべきなのでしょうね...。」
リアンは最後に消え入るような声でボソッとつぶやいた。
「ふん。王などなりたいと思いなれるようなものではないだろう」
「ああ、そうでしたか。そういえばアリア様のことについて深くは話していませんでしたね。アリア様の家名を覚えていますか?」
「オルレアンだったか?」
「はい。彼女はアリア・オルレアン。そしてこの国はオルレアン王国と言います」
ルイスはそこまで言われてハッと気が付いた。
「そうです。彼女はこのオルレアン王国の姫なんです」
姫と言われればそのような気もしてくる。そこら辺の女性とは違う気品のあるオーラ、物腰や言葉遣いなどからもそれなりの家系なのではとルイスも思っていた。しかし、姫だということには驚いた。姫という立場の者が魔獣の出る森に踏み込むことや、民と交流を持つとは思えなかったからだ。
「そうか。王家に子が一人しかいないなら別だが、姫という立場の者が王になるのは難しいだろうな。民からの指示があったとしても王家も世間体というものがある。序列順位を無視して決めてしまえば、周りの国から批判を買うだろうな」
ヴラドは哀れに思えた。民を正しい方向に導けるものがいるのに、序列順位などというくだらないルールのせいでそれをなすことができない。そんなルールのせいで王国が右肩下がりになっても自業自得だろう。
「王の選定についてずいぶん詳しいのですね。どこかでお聞きになったのですか?」
「あ、あぁ。前にな」
ルイスは不思議に思った。自分には記憶がない。そのはずなのになぜ今のようなことを知っていたのだろう。リアンに聞かれたときは濁したが、どこかで聞いた覚えなどない。ましてや、ルイスが目を覚ましてからここまであった人はアリアとリアンしかおらず、聞きようがない。もしかしたらここに来てから何か思いだし始めているのかもしれない。やはりこの国が自分の失われた記憶を取り戻すカギになると確信した。
「またせたな、二人とも。では行こうか」