美少女な俺様が海に行く!
「夏だ! 海だ! 海水浴だーッ!」
「まだ春だけどね〜」
↑※現在5月下旬
というわけで異世界生活17日目。
俺たちは今、サウスポーティア北海岸にやってきていた。
はしゃぐメアリー。
目を輝かせるステラ。
そんな2人の視線の先にあるのは輝く白い砂浜と青い海──ではなく、異常なほど大量発生したオレンジナマコ。
「うぇ……。
よくこんなのではしゃぎまわれるな……」
なぜこんなナマコの大群のいるような砂浜にやってきているのかというと、昨日受けた依頼のせいである。
なんでも、マナビルディングの会場に指定していた場所に突如としてオレンジナマコが大量発生したので片付けて欲しいのだとか。
なぜこうなったかについて依頼主は、おそらく大会を何者かが邪魔したいために、わざとナマコを放ったのだろうと言っていた。
誰だよ、こんなキモいの撒き散らしたやつは。
ちなみにこのナマコ掃除の依頼主はマナビルディングとは別のところから来ている。
具体的にはこの海岸の管理者からだ。
おそらく、潜入調査をしてくれる冒険者が見つかるまで先延ばしにできるように、といったところだろうが、真実は神のみぞ知る。
それはさておき、正直ナマコというのは見ていて気持ち悪い、とか思いながら、俺はレンの肩の上から2人を見下ろした。
……というのも、俺はナマコのこの見た目が苦手なのだ。
触りたくも見たくもないのだが、終わった後に海で遊びたい気持ちはあるので渋々ついてきた。
ついてきたはいいがこの大群。
足の踏み場さえないようなと形容したいそれにびびってしまった俺は、こうして現在、彼の提案もあって肩車してもらっているのである。
最初のうちこそそこまで気にしなかったが……これではまるで子供のようだと、時間が経つにつれて羞恥心が芽生え始めてきた。
でも降りるわけにはいかないから、こうして必死にしがみついている次第である。
「師匠、カニとかエビもダメだったけど、ナマコもダメだったんだね」
「無理。
見るのも嫌だもん」
即答しつつ、目を両手で覆う──が、視覚を塞いだせいで気配が敏感になって、砂浜を這いずり回る無数のオレンジナマコの動きが手にとるようにわかってしまい、逆効果で自爆する。
ちくしょう。
癖で視覚を封じると《気取り》が発動してしまうの、ホントどうにかならないかな……。
「じゃあ何でついてきたんだよ」
「バッカお前、そんなことしたら2人の水着が見れないだろ!?」
そんな風にツッコミを入れてくるレンの肩の上から、ナマコだらけの海岸へと向かっていく2人を指差しながら即答した。
今2人が身につけている水着は、昨日ギルドの一件で手に入れた割引券で買った水着だ。
ステラはフリルのついた白のビキニ姿で、メアリーはピンク色のビキニとパレオ身につけている。
メアリーがパレオなのは、十中八九、股間のブツを誤魔化すためだろうが……。
そうでなくても、かなり似合っていてかわいい。
もちろん、ステラのビキニもそうだけど。
白いフリル。
細い肩紐。
強調された巨大な下乳は、まさに前世で別れた我が息子のいきりたつのを幻覚して、ナニがとは言わないがちょっと濡れる。
ちなみに俺も水着を着ていて、俺のものはフリルが多めの黒いオフショルダービキニで、上から白いシャツを羽織って下腹が隠れるくらいにボタンを留めている。
正直、この聖痕を他人に見られるのは形が形だけに見られたくないのだ。
だってなんか淫紋みたいなんだもん。
なんか淫乱っぽく見えるのは恥ずかしい。
だが、それを置いても今の俺のこの姿は充分かわいらしいものだと言えるだろう。
今は金髪に染めて、髪を青いリボンで一つにまとめてはいるが、銀髪に戻った時でも充分似合うはずだ。
「……お前、思考がなんかおっさん臭くないか?
考えたくないが、お前ってもしかして前世──」
──男だったんじゃねえの?
そう、冗談めかして指摘されかけるのを、俺は慌てて否定する。
「──そ、そそそそんなことねぇよ、普通だよ普通!
それに、お、おおお俺様はお前の、その水着姿も楽しみにしてた……し!?」
やべぇ……!
これ下手な答え方したら前世男だってバレるじゃん……!
もしそんなことになったら……そんなことになったら……!?
頭の中に、レンの冷たい視線がありありと浮かび上がる。
そしてそれと同時に『……え、キモ……。俺そういうの無理なんだけど……』というセリフが再生される。
想像して、顔が青ざめていくのが自分でもわかる。
それだけはダメだ……!
もしそんなことになったら、絶対嫌われる……!
(それだけは絶対に阻止しなければ……)
背中を伝う冷や汗は、果たしてナマコのせいか、それともレンの何がない冗談のせいか。
多分、両方なのだろう。
そんな俺の心情は、果たしてどのように顔に出ていただろう。
今は彼の視界に映らない肩の上であることに感謝しながら、俺はレンの頭を抱き抱えた。
閑話休題。
そんなこんなで俺は海岸際の堤防の上に腰を下ろし、3人がナマコを掃除し終わるのを待つことになった。
ナマコが視界に映るのは嫌なので、海に背中を向けてコンクリートの壁に足をぶらぶらとして踵をぶつけていると、不意に右手の方から見覚えのある3人組がやってくるのが見えた。
「あら、そこにいるのは昨日の──どなただったかしら?」
成金趣味みたいな金ピカのビキニを身につけた金髪デカパイ縦ロールが、手で口元を覆いながら話しかけてきた。
そうだ。
昨日冒険者ギルドで会った、マナビルディングとかいう競技に出場しないかと誘ってきたあの3人組である。
「そういえば自己紹介してなかったね。
俺──」
一瞬、“私”と一人称を変えようかと迷ったが、口馴染みが悪い気がしてやめる。
「──は、ファム。
よろしく。えーっと、たしか、エリザベス」
「名前を覚えていてくださって光栄ですわ、ファムさん。
よく覚えておきますの」
ニコリ、と目を細める。
「私、シルヴィア!
血は繋がってないけど、お姉様の妹なの!」
静かに叫ぶような、特徴的な喋り方で、白髪の狼系獣人の少女が、芝居が勝ったような大きな身振りを加えつつ自己紹介をする。
血は繋がっていないけど妹、ということは、義妹なのだろうか。
それとも『お姉様』というセリフから察するに百合的なカップルの感じだろうか?
「偉いぞシルヴィア。
ちゃんと挨拶できたな!
……と、失敬。
俺はクヴァナだ、2人の、まぁ保護者さ。
2人とも友達になってやってくれるととても助かるよ」
一方で、2人に対して保護者のように──保護者というか、過保護者(?)──接するのは、もう1人のスキンヘッドの男である。
ショッキングピンクを基調とした海パンと、日に焼けた褐色の肌が印象的な筋肉の塊で、一見厳つく見えるが、心配性なのか、声が弱々しくギャップがあって面白い。
ちなみにシルヴィアの方は、白いシャツと黒の海パンで、シャツの下には薄い水色のビキニが透けて見えるような衣装だった。
「機会があればよろしく頼むよ。
それにしても、水着姿でここにきてるってことは、もしかして3人もナマコ掃除に来たの?」
オレンジナマコを掃除してくれ、というあの依頼の募集人数はパーティ2つ分だった。
依頼人にこれから仕事を始める旨を連絡しに行った時には、後からもう片方もすぐ来るはずだとも聞いていたし、十中八九間違い無いだろう。
おそらくエリザベスも、それがわかっていてさっき声をかけてくれたはずだ。
そう予想しての質問に、エリザベスは手で口元を隠しながら高笑いをして応えた。
「オーッホホホホホホ!
その通りですわ、ファムさん!
よくお分かりになりましたわね!」
「まぁね」
いやわかるだろ。という呟きは呑み込んで、苦笑いで応える。
「『も』、ということは、貴女もわたくしたちと同じく、ナマコ掃除に来たのでしょう?
どうしてそんなところに座ってらっしゃるのかしら?」
「実はナマコが苦手なんだ……。
だから仕事は仲間に預けて、俺はこうして終わるまで待ってるんだよ」
「……それ、暇じゃありませんこと?」
「いいや、これはこれで、ゆっくりできるからね。
そんなに暇じゃないよ」
呆れたような顔で尋ねてくる彼女に、苦笑を浮かべて返す。
実際、スマホも何もなく永遠にこうやって待ち続けるのは辛いものがあるのは確かだ。
しかし、幸いにも今の俺には暇を潰すための道具がある。
道具というか、やりたいことというか。
それはズバリ、《闘気法》の使い方についての模索である。
《闘気法》は、呼吸法によって自分の纏っている魔力の質を変化させるスキルだ。
元の世界だと、ほんの少し身体能力を底上げするとか、思考速度を上げるとか、体温をちょっと上げるとか、その程度の効果しかなかった呼吸法だが、この世界だと自身の魔力の質を変化させることができるようになる。
であれば、それを応用して何か新しい技でも編み出さないかと、頭の中で試行錯誤していたのだ。
バーラはレッドモンクとして、《纏炎》というスキルを使いながら戦っていた。
彼がなぜ《纏炎》を使うのかと聞いたら、火傷の状態異常を与えたり、炎で攻撃力を上げるためだとか言っていたが、俺にはこの《闘気法》には別の可能性があると睨んでいる。
これを試すのに誰か人がいてくれると助かるけど……正直これは、成功すれば奥義と呼んでも良さそうな技だ。
何せ、従来の『魔術とはルーンを描いて発動させるものだ』という概念が覆ってしまうわけだからな。
知り合いとはいえ、会って日の浅い彼女たちに教えるのは、少しだけ気が引ける。
それから俺はエリザベスと二言三言言葉を交わすと、彼女が去っていくのを見送るのだった。
「さて。
俺も人とナマコが少なそうな場所に移るとするかな」
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